璃音の変化
その後も、その女の子とは時々、エレベーターなどで一緒になることがあった。しかも麗亜が璃音を寝かせたクーハンを下げていると、必ずと言っていいほど覗き込んできた。
「人形に興味あるの?」
そう問い掛ける麗亜には応えなかったが、少女の様子は明らかに璃音に興味を持っているそれだと思った。
さりとて、麗亜や真尋や日登美以外の人間は相変わらず警戒している璃音が決して少女の前では動いたりしなかったのもあってか、特に何かが起こるでもなく、麗亜と璃音の毎日は穏やかに過ぎていった。
「ママ、おえかきして」
部屋に帰ると結構しゃべるようになった璃音が、そうせがんでくる。
「はいはい、じゃあお絵描きね」
応えながら絵描き歌のCDが入ったラジカセのスイッチを押し、ホワイトボードにお絵描きを始めたのだった。しかも璃音もそれを真似て、メモ帳にクリップペンで歌に合わせてお絵描きを始めた。見れば、それなりに形になってきている。ペンの使い方もぐっと握るものから、普通のペンの持ち方になっていた。無理に教え込むのではなく、彼女の前でゆっくりとペンを持つ動作をして真似をしてもらうようにしているうちに身に付いたものだった。
しかしこの時、璃音自身の中で僅かな変化が起こり始めていた。それなりに会話ができるようになり、いろいろなことが分かってくるにしたがって、彼女の中で何かが形になろうとしていたのだ。それを自覚すると、璃音は頭を掻きむしる動作をするようになった。
お絵描き中にも不意に頭を掻きむしって、
「うう~」
と唸り声を出す璃音に、麗亜は「どうしたの? 頭が痒いの?」と問い掛けた。だが、当の璃音自身が自分に起こっていることを上手く理解できていなくて、説明することもできなかった。『痒いの?』と訊かれても応えられず、ただ頭をぶんぶんと振った。
とは言え、しばらくするとそれは収まるので、そうなるとまた落ち着いた様子に戻った。
麗亜もそんな璃音のことが気になって真尋や日登美に相談してみたけれど答えが出ず、
「小さい子って自分が思い付いたことを上手く表現できなくてイーッてなることがあるみたいだし、たぶんそれじゃないかな」
という日登美の分析を『そうかも』って感じて受け入れて、しばらく様子を見ることにした。
実際、璃音の方も、それで酷く苛々するとか落ち着かなくなるとか癇癪を起こすとかいうのではなかったから、今すぐどうにかしないといけないというものでもない気がしていた。
だからその時も、いつものそれかと麗亜は思ってしまったのだった。




