成長するまで
人間は機械じゃない。工業製品じゃない。ある工程をこなしたら完成して出荷できるようになる訳じゃない。
璃音は人間じゃないけど、人間と同じ心を持ってるなら、その部分は人間と同じだと考えるべきだと麗亜は思っていた。
何ヶ月でも何年でも。
人間の子供だって、少なくても二十年経たないと<成人>とは認めてもらえない。女の子は十六歳、男の子も十八歳で結婚はできるけど、それも親の同意が必要だということは一人前の大人だと認めてもらえてないってことだ。
璃音が<生まれた>のも、まだほんの数年前らしい。璃音自身、記憶が曖昧な部分があるから正確な年月は分からないけど、多く見積もっても十年は経ってないってことだった。
だから、十歳と仮定してもあと十年はある。
それに今時、二十歳で一人前の大人と言えるかと考えたら首をかしげるというのが正直なところだろう。実際、二十歳とかで結婚したり子供を作ったら若すぎるとバカにされる風潮さえある。ということはやっぱり一人前の大人とは思われてないってことの筈だ。
それを考えればまだまだ先は長い。過ぎてしまえばあっという間と感じるかもしれないけれど、決して短い時間でもない。
「璃音。あなたが成長するのを私は見届けたいの。人形のあなたが成長できるのかどうかは分からないけど、それを確かめるにも時間はかかるでしょ。だから待つよ。少なくとも十年は待つつもり」
真っ直ぐに見詰められて、璃音は目を合わせていられなかった。顔も逸らしたままで、吐き捨てるように言った。
「…バッカじゃないの……!? そんなの、どうなるか分かんないじゃん。それで私はぜんぜん成長しなかったら、それこそ時間を無駄にするじゃん……!」
それでも麗亜は微笑んでいた。
「私はこんな冴えない人間に育っちゃったけど、私を育ててくれた両親は、一緒にいた時間を無駄だなんて思ってないよ。一緒に過ごした時間そのものが宝物だって言ってくれるよ。
だからね、私も同じなの。あなたと一緒に過ごす時間が私にとっては宝物なの。結果がどうかなんて、おまけみたいなものだよ」
そんな麗亜の言葉に、璃音は頭を激しく振った。
「分かんない分かんない分かんない! あんたが何を言ってるのかぜんぜん分かんない!! そんなこと言われてどんな顔すればいいか分かんないよ!!」
「どんな顔していいのか分かんないって、<分かんないって顔>してるじゃん。それでいいんだよ、璃音。分かんない時は分かんないでいいんだって」




