ただ待つこと
「璃音。私、何度も言うけど璃音のこと好きだよ。あなたと出会えてよかったと思う。この世の中にはこんな不思議なことがあって、私にもそういうのが訪れるんだっていうのが分かって本当に嬉しいんだ。
璃音には本当の仲間とか同族とか言えるのはいないかもしれないけど、私はもうあなたを家族だって思ってるよ。迷惑かも知れないけどそう思ってる。
大好きだよ、璃音」
ふわっとした穏やかな笑顔でそんな風に言われると、もう目を向けてられなかった。眩しくて眩しくて、痛いくらいだった。
だけど、だからこそ不安になる。ここで麗亜のことを信じて、もしそれが裏切られたら。今まで見てきた人間みたいな一面が彼女にもあると分かってしまったら。その時にはもうそれこそ立ち直れそうになかった。人間という存在そのものを憎んでしまいそうな気がした。
だから信じたくなかった。信じるのが怖かった。
なのに麗亜が問い掛ける。
「私のこと、信じられない?」
ギョッとなってしまった。心を読まれたのかと思った。固まる璃音に、麗亜が続ける。
「無理に信じなくていいんだよ。私は璃音のことを変えてしまうつもりないから。あなたはあなたのままでいいんだよ。それができなきゃ、私、あなたを受け入れてなんかないよ。ここに来たときのあなたのままでもいいんだよ。
でも、それと同時に、あなたがもし変わってしまったとしても、私はあなたを受け入れるよ。
あなたが私を見限るまではね」
「う…、ぐ……」
それ以上、なんて言っていいのか分からないなってしまった。何を言っても麗亜は自分を受け入れてくれる。それが分かってしまう気がして、それが分かってしまうのが怖くて、何も言えなかった。
それが分かったら信じてしまいそうだから。甘えてしまいそうだから。
目に涙をいっぱい溜めて、璃音は麗亜を睨み付けた。それが精一杯だった。
このまま麗亜に甘えてしまえば、心を許してしまえば楽になれる気もする。だけど『もしも』と考えてしまったらそれはできなかった。
それだけ、璃音の見てきた人間の姿が業に満ちていたというのも確かなのかもしれない。それだけ人間の業は深くて、根強くて、途方もないものなのかもしれない。
戸惑う璃音に、麗亜はやっぱり微笑みかけるだけだった。
彼女は改めて決心していた。璃音の心が溶けるまで気長に待つことを。無理に解きほぐそうとするんじゃなくて、ただ待ち続けることを。
人を育てるというのは、『待つ』ことなのだと彼女の両親は教えてくれた。
彼女はただ、両親の教えを実践しているだけなのだった。




