人間模様
引っ越し作業のアルバイトの女性に買い取られた璃音は、いくらかホッとした気分になっていた。
それまでに比べると少しは扱いがマシになってたからかもしれない。
「ほら、見て! 自分でも結構うまくできたと思うんだ!」
女性は新たにメイクを施した璃音を鏡に映し、彼女自身にもちゃんと見えるようにしてくれた。その鏡に映った自分の姿を見て、璃音は『…あ…!』と思った。確かに、まだきつい印象はあるかもしれないけれど、それでも悪ふざけでしかない無茶苦茶なメイクを施された時に比べればずっと可愛くも見えた。
前の女性の部屋はやけに鏡がたくさん置いてあり、敢えて見せようとしなくてもどこかの鏡には姿が映ってる状態だったので、見たくなくても見えてしまう状態だった。
アルバイト女性のところでの暮らしは、璃音にとってはようやく安らげる場所だった。しかしそれも長くは続かなかった。
いつしかその女性の部屋に男が出入りするようになったのである。
その男は、見るからに品のない、知性も感じられない、どうしようもない人間性をわざわざ絵に描いたような奴だった。
「何だこれ? でっけぇ人形だな」
喋り方からしてまともじゃないのが分かる男は璃音を見るなり乱暴に鷲掴みにして、
「どれどれ、人形ちゃんはどんなパンツを穿いてるのかな~」
などと品性下劣なことを口走りながらスカートを捲り上げた。
「もう! なにやってんのよ。やめてよ変態!」
女性も明らかに不愉快そうにしているのに、男はまるで気にする様子もない。
「だってよ~、人形とか見たらどうなってんのか気になんじゃん。どこまでリアルに作ってるのかとかよ」
と言いながらドレスまで脱がせに掛かった。
『やめろ! 触るな!! このクソ変態!!』
璃音は心の中で必死に罵ったけれど、当然、それは男には届かなかった。
「なんだこれ、脱がしにくいな~。あ、破れちまった」
結局、男が雑に脱がせようとしたことでドレスが破れ、それに女性が、
「ちょっと! やめてよ! 人形のドレスってけっこう高いんだから!!」
と抗議すると、男は突然、
「っせぇ!! 玩具の服ぐらいでガタガタ言ってんじゃねぇよ!!」
などと怒鳴りながら女性の頬をバーンとはたいたのだった。
それから男は何度も女性の部屋を訪れては怒鳴ったり殴ったりしながら女性をモノのように扱った。
目の前で繰り広げられる光景に、璃音の中にはどす黒い何かが渦巻き始めていた。




