第三十一話 胸元に光るもの
街市場は想像を超える広さだった。
屋台がずらりと並び、色とりどりの布や提灯が風に揺れている。
ニャンピンガは思わず声を上げた。
「うおぉぉぉぉぉお!すげぇぇぇぇぇ!」
目を輝かせて市場を見渡す。
「ふふ……あっ!」
ネモはにっこり笑うと、何かを見つけて駆け出した。
「おいネモ!って……行っちまった……」
ニャンピンガは立ち尽くしながら周囲を眺める。
新鮮な野菜や魚、香ばしい匂いを立てる串焼き、魔法で食材を浮かせて調理する屋台の妙技――どれも彼には新鮮だった。
すると、ネモは戻ってきて小さな包みを差し出す。
「はい、ニャンピンガ君」
ニャンピンガは包みを受け取り、訊ねる。
「何だ?これは……」
ネモは言う。
「ミートパイだよ」
「みーとぱい……」
包みを開けると、熱々のミートパイが顔を出した。ニャンピンガは一口かじる。
「……!」
外側はしっかり焼かれた生地、内側は細切れの肉とスパイスが混ざり合っている。
口に広がる旨味に、思わず声が出た。
「うんめぇぇぇぇぇ!」
周囲の人々が一瞬こちらを見たが、ネモは笑って言う。
「まだまだ美味しいものはたくさんあるよ」
「……!」
ニャンピンガの目がさらに輝く。
―――
その後も二人は屋台を巡り、串焼き、魚料理、ワッフル、クレープ、温かいポタージュと次々に味わう。
どれも初めての味で、ニャンピンガは短い感嘆を繰り返した。
――「うんめぇ!」
――「これもうんめぇ!」
――「あれもうんめぇ!」
―――
街市場の後は二人は服や靴も見て回り、ニャンピンガの両腕には紙袋がいくつも下がっていた。
夕暮れが近づくころ、はしゃぎ疲れた顔で歩いていると、ネモがふと立ち止まる。
「ん?どうしたんだ?」
「ちょっとここに用があるの」
「おい……!」
ネモが入って行った先は、白を基調とした清楚な店だった。シャンデリアが柔らかく光り、ガラスのショーケースに指輪やペンダントが並んでいる。
(綺麗だけど……何だこれは……?)
ニャンピンガは戸惑いながらも後に続く。
店員の声が静かに響いた。
「いらっしゃいませ」
ネモはショーケースを見て回り、やがて一つを選ぶ。
「こちらを頂けますか?」
「かしこまりました。16,202ガルドになります」
「ニャンピンガ君、待たせてごめんね。行こうか」
「ああ……」
会計が済み、二人は店を出る。
―――
店を出た途端、ネモはニャンピンガに呼びかける。
「ニャンピンガ君」
「何だ?」
ネモはニャンピンガに向き直り、そっと首元に何かをかけた。
銀色に鈍く光るペンダントが、ニャンピンガの胸元で揺れる。
「これは……?」
ニャンピンガが呟くと、ネモは穏やかに言う。
「ペンダントだよ」
「ぺんだんと……」
ニャンピンガは初めて聞く言葉に戸惑いながらも、贈り物の重みを胸に感じた。
髪色にシルバーが映え、思わず顔がほころぶ。
「ありがとな、ネモ」
「うん、じゃあ帰ろうか……!」
「ああ!」
ネモは微笑んで手を差し出す。夕焼けが二人の帰路を柔らかく照らしていた。




