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第15話 修行

あれから、俺らは宿屋に戻りシノをベッドに横たわらせた。


ライルが増えたことに関しては、大家のばあさんには説明した。


訳ありの人間を止めているだけあって、すんなりと手続きは通った。


とはいえ、問題だけは起こさないようにと釘は刺されたが。


まぁ、何があったのかを根掘り葉掘り聞かれるよりかは断然マシだ。


それに問題を起こされたくないのは、ごもっともな主張であるからにして、俺から何かを言うことはできない。


「あの大家、なかなかの迫力じゃなぁ。しかも闘気も隠してはいたが、なかなかのものじゃった。もしかすると、あの先程ワイバーンの頭に大剣を叩きつけていた男と同じくらいの実力はあるのではないか?」


「あぁ、強さはそこそこだ。昔冒険者か傭兵でもやっていたんだろうな。しっかり鍛えていたんだろうよ。予想でしかないがな。」


武器をいじりながら、そう返す。


あのばあさんはなかなか強い。


だから、ここの宿屋も選んだ。


大家があれだけ強ければ、泊まるヤツもそう出ないやつが来ようとも、問題はないだろうからな。


何よりあの大家の目を見ていれば、裏切らないし、こちらに深入りしてこないというのがよくわかる。


「それより、ライル。お前のステータス共有させろ。今後の戦いと俺の手数を増やしたい。」


「ふむ、そうじゃな。いいぞい。ただし、仙術をコピーするのはいいが、そう簡単に扱えはせんから、そこだけ注意するんじゃよ。下手に扱うと自身にダメージがくる。」


「ほぅ?ダメージに関しては俺にはあまり関係ないとして、扱えないっていうのはどういうことだ?」


「仙術というのは、お主が考えているスキルとは少し違ってな。たしかに、これは武術のスキルから進化した最終極地のスキルではあるんじゃが、これは普通の進化と異なるんじゃ。例えばじゃが……〝瞬足〟」


部屋は狭いが、その端から端を一瞬で移動するライル。


「これは、武術のスキルで瞬足なんじゃが、これはお主の目には見えるじゃろう?」


「あぁ。お前のステータスも加算されていたから、戦いの最中は反応するのが難しいだろうがな。」


「そうじゃ。武術のスキルというのは、そのステータスに応じて、技の威力、スピードが大きく変わることが多い。お主が使う瞬足と、わしが使う瞬足とでは、ステータスの差だけでスピードはかなり違うじゃろう。」


言いながら、反対を向き直る。


「そして、問題の仙術じゃが……。」


言いかけたと同時に、目の前にいたライルが一瞬で消えた。


同時に後方から声がする。


「普通の技能スキルとは違って、仙術というのはステータスに比例して、習得できるものではない。これは、極限まで肉体を鍛えてようやく習得できるものじゃ。そして、最も大きな違う点として、仙術というものは、一つ一つが独自に作られた技であることじゃ。普通の武術というのは、本人が手を加えない限りは本当に誰もが同じ技を使うことができる。初めは違いなど一切存在しないものじゃ。だが、仙術は仙術を使えるものだけの数、技の種類がある。わしのもそのひとつじゃ。じゃから、わしが使っている仙術はわし1人しか今は使えるものがいない。わしが作り出した特別なスキル、じゃからな。何より今のお主の場合、ステータスは高いが、それだよりになっている節がある。わしの仙術スキルをコピーしたとて、体が追いつかん。」


「なるほどな……それは確かにそう簡単には使えなさそうだな。だが……ライル、言っておくが俺はそれを前提で仙術をとるつもりだぞ。」


「なに?」


「武術のスキルは最上級にまで上げてある。つまりは武術スキルにある程度慣れた上で、仙術を使えばいいわけだ。少しはコツを掴めるだろうよ。それに何よりさっきも言ったが、俺には自動修復がある。やればいいだろう覚えるまで。体なんて壊せばいい。」


と、言うとライルが少し引いたように見えた。


「んだよ。」


「正気か……いや、お主は正気なのか……。体に穴が空いたと聞いても、何も反応しなかったしのぅ……。」


「シノが寝ている今だからできるんだ。シノが起きていたらそんなこと許しちゃくれねぇからな。俺には時間がない。ライル、お前も付き合ってくれ。仙術に関してはお前なしじゃ何も出来ない。」


「……仕方あるまいか……。わかったわい。ただし、わしは厳しいぞ。」


「そんなことは重々承知している。ある程度は短期間で覚えなきゃならないんだからな。」


にしても、なるほどな。


それは確かに見たことが無いわけだ。


ラファエルが出したスキル一覧は全て網羅したつもりだが、仙術というスキルは見たことが無い。


これは恐らく魔物の固有スキルと種類は違うが、分類的には同じ固有スキルと言うんだろう。


面白いな。


スキルに関しても、入るの言っていた仙術と同じように数あるだけ、固有スキルがあるわけだ。


これは面白いことに気がつけた。


こいつを連れてきたのは正解だったな。


仙術も覚えられるし。


この先、武器が必ず手元にあるとは限らない。


武器がない時、武術のスキルだけではどうにもならないこともある。


武術のスキルというのは結局元があってしまうものだ。


武術のスキルを知っていれば、大抵は何が来るかなどわかってしまう。


その点、仙術は武術と違い、種類があり、一つ一つが一個人が考え出した特殊なものだ。


これなら、スキルと言うだけで読まれることは格段に低くなる。


「そうと決まれば、早速付き合ってもらおうか。」


「行動が早いのぅ。一応は老コツじゃからいたわって欲しいんだが……。」


「だまれ。あんなに生き生きと俺らのことを散々ボコしていたやつが、今更何言ってやがる。文句言ってないでさっさと行くぞ。」


ライルの言葉を無視して、部屋の外へと出る。


仙術の修行はどこでやったものかね。


山の中でもいいが、それだと魔物がなぁ。


今はまだ魔物とやり合うべきではないだろう。


手とり足とり、ライルにコツを教えてもらってからでなくては、意味が無い。


だが、だとしたらどこならやり合えるか……。


「……冒険者ギルドか。」


たしかあそこには訓練場があったはずだ。


建造物自体は脆いが、そこは結界を張っておけば何とかなるだろう。


「ギルドに行って、仙術の訓練だ。いくぞ。」


「行動が早いのぅ……。」


ライルが肩を竦めて、俺の後に続く。


「何度も言うが、俺には時間がないんだ。相手は神。何時どこで襲われるかもわからん。恐らく、俺に依頼してきた神は今回の目的の神と対峙関係にあるだろうからな。こちらのことも時間の問題でバレるだろう。バレた時、確実に刺客を送ってくる。そうなれば、今のままだと簡単に殺されるだろうな。だから、急がないとダメなんだよ。」


「……急ぎすぎな気もするが……まぁ良い。どうせやることもないじゃろうしな。」


◇


宿を出て、数分。


大通りは先のワイバーンの襲撃によって、てんやわんやである。


家にいたものがゾロゾロと外に出ている。


「これはなかなか……さきのワイバーンはそれほど大事か。」


「力を持たぬ人々にとっては大事じゃろうな。人間を片腕で簡単にころせてしまうほどのワイバーンが襲来したんじゃから当たり前じゃ。」


片腕、ねぇ……まぁたしかに、ヘルメロを片腕でやるような化け物が普通なわけはないか。


あれでも1応はこの街のAランク冒険者で、ギルドの副マスターを務める男だ。


それがギルドマスターと二人がかりで倒せない相手が出たとなれば、大事にもなるわけだ。


逆に言えば、この街があまりにも平和ボケしすぎているという点でもあるが。


「この街は、本当の大惨事になった時、すぐに潰れそうだな。」


「そうじゃのぅ。平和というのはいいものじゃが、それは人の感覚を鈍らせる。恐らく今のまま、ヘラに責められれば簡単に一掃されるじゃろうて。それこそ、その辺の雑魚に。」


「だろうな。あまりにも弱すぎる。」


たしかに弱い生物も生きやすい世界にはなったのだろう。


化け物が殺し合う激動の時代ではない世界だ。


所詮はひと時の幸せだというのに。


「ヘラと戦い会う時が楽しみになってくるな。これは。」


「物騒なこと言うでないわ。お主はもう少し丸くならんとダメじゃな……。」


ライルからため息がこぼれるのを無視して、ズカズカと歩を進める。


こいつらに性格を矯正されるほど、こっちは困ってねーっての。


そう思いながら、人混みをかき分けて進む。


こいつら、邪魔くせぇな……。


体の小ささも相まって、余計進みにくい。


一応ステータス的にはそこら辺にいる人間たちよか強くなっていて、押し流されることもないのだが、前が見えないため非常に歩きづらい。


「全く仕方ないのぅ。よっこらせっと。」


ライルのその声と同時に、身体が宙に浮く感覚。


そして、ライルはそのまま俺を肩車する形で、自分の肩に置いた。


「これでどうじゃ。見えるじゃろう。」


「おい、こら。俺はガキじゃねーんだぞ。下ろせ。」


「いいから黙っておれ。この人混みじゃ進みにくいからこの方が楽なんじゃよ。」


ライルはそういいながら、人混みをかき分けてギルドに向かっていく。


文句はあるが、スイスイ進んでいるこの状態を考えれば、確かにこの方が進みやすくはある、か。


「ちっ……。」


「お主のその舌打ちするくせも直した方がええぞい。感じが悪すぎるし、ガラが悪い。」


「そこまでお前に説教される筋合いは無い。」


と、俺はらいるのいうことをばっさりと切り捨てる。


それにライルはため息をひとつこぼした。


◇


人混みをかき分け、20分と言った所だろうか。


ようやく、ギルド本部に到着した。


いつもギルドの前には、うじゃうじゃと冒険者がいるのだが、今日はガラリと姿が見えない。


ワイバーンの件で招集でもかかったのか?


あとは、野次馬ってところか。


まぁそれはそれで好都合だ。


おそらくこの感じであれば、ギルドの修練場もほぼ貸切状態だろう。


ライルと本気で鍛錬できる実にいい機会だ。


俺らふたりは、ギルドの中にそのまま入る。


もちろんのこと中にも冒険者がちらほらいるくらいで、さほど人はいなかった。


「カウンターも並んではいないか。ラッキーだったな。」


「あれだけのことがあれば、そりゃぁ人もいなくなるわい。必然じゃよ。」


話しながらカウンターの前に立つ。


目の前には……以前俺の対応をした職員が座っていた。


そいつは俺のことを見るやいなや、分かりやすく顔を強ばらせる。


そんなに俺のことが怖いか……。


「ギルドの訓練場を借りたいんだが、空いてるか?」


そう聞くと職員が、顔を真っ青にしてキョロキョロしだす。


なんでそんな意味のわからん反応をされるのかが理解不能だ。


はぁ……とため息を着くと、その従業員はまたビクリッと身体を震わせた。


「お前に言ってるんだよ、馬鹿。空いてんのか、空いてないのかどうなんだ。」


俺の少し高圧的な態度に、身を震わせながら青ざめていく顔色。


「えと……えと……い、一応今の時間帯は……あ、あぁ、空いており、ます。」


「なら、そこを1度借りたい。貸切だ。できるか?」


「お主なぁ……もう少し圧を抑えんか。萎縮してしまっておるではないか。」


ライルからため息をつかれるが、そんなものは知ったことでは無い。


俺はあくまで貸切ができるか、そもそも貸し出せるのか確認しているだけだ。


なんも悪いことなどしていない。


「こいつがいつまでも、オドオドして何も答えないのが悪いだろう。一応はこっちは目的があってきてるんだ。それを対応するのがこいつの仕事、だろう?」


いいながら、ライルに目線を向ける。


それに対して、ライルは呆れたようにもう何も言うまいと、肩をすくませた。


「とりあえず、空いてるってことでいいんだな?」


「は、はい!」


「なら、そのまま借りる。」


そのまま、訓練場があったはずの方角に歩をすすめた。


職員は終始固まっていたため話にならん。


「まずは、縮地の練習からだ。そこから段階的におしえてくれ。」


「はぁ……わかったわい。」


ライルのため息がこちらに聞こえてくる。


それを聞き流しながら、訓練場への地下階段を降りていく。


そうして、大きな扉の前へと着いた。


ここか。


扉を開く。


中は思っていた以上に広かった。


しっかりと観戦席も付いていて、これは中を空間拡張で広げているのだろうか。


外見と比べて相当広い。


何よりそれなりに高度な魔力障壁を張り巡らしてある。


これならば、多少本気でやり合っても訓練場を壊さなくて済むだろう。


「さて、縮地の練習とは言ったが、お主は容量はいいじゃろうからな。それに体に染み込ませたやり方の方がしっくりくるじゃろうて。だから、組手による訓練法で練習をしていくぞ。」


「そうだな。」


武器をいつでも取りに行けるようなばしよに立てかけ、真ん中に向き合い立つ。


改めて、ライルはやはり化け物であることを実感する。


到底今の俺では歯が立たない。


「そら、かかってこい。いくらでも相手になるわい。」


煽るようにライルが片手でこまねいてくる。


それに少しイラッとした俺は体制を整えた。


「なめんなよ、このクソジジィ……!」


〝縮地〟は〝瞬足〟とは似ているが違う性質を持つ武術だ。


まさに上位互換と言える


何よりも、仙術というのはそもそも普通の武術のスキルを、動きの運びの起点とするだけであり、正確には少し異なるものである。


踏み込みは武術スキルと同様。


瞬間的な力で地面を踏み抜くイメージだ。


瞬足も縮地もそこの起点は変わらない。


……が、ここからが違う。


瞬足は、そこから対象へと走り、駆ける。


全身を使った移動だ。


縮地は、対象へと瞬間的に移動する。


武術とは違う。


効率を重点的に意識した、1部の部位での瞬間的な移動。


ライルの言う通り、仙術は生半可な身体能力では会得できないものだな。


俺はそう思いながら、ライルからコピーしたスキル、〝縮地〟を発動させた。


右足に力を込め、ライルの元に移動しようとする。


その時だった。


力を込めようとしていた、右足の筋肉がブチブチッとちぎれるような感覚。


同時に骨が折れ、とてつもない激痛が襲ってきた。


「ぐっ……!!??」


一瞬怯んでしまう。


そのせいで踏み込みが甘くなった。


〝縮地〟とも〝瞬足〟とも言えない、中途半端な技が発動し、ライルの元に移動する。


「言わんこっちゃない。言ったであろう?仙術とはそう簡単に覚えられるようなものではないんじゃよ。〝破弾鋼〟」


ライルの手加減された拳の一撃が、俺の腹にめり込む。


「か……はっ……?!」


そのまま俺の小さい体は、後方に吹き飛ばされ壁に叩きつけられた。


手加減してなおこの威力か……!


「ぐっ……。」


仙術の行使によるダメージの反動でまともに受け身も取れず、もろにあの攻撃を食らったせいで、体が言うことを聞かない。


痛みと痺れにより体が硬直している。


そんな中、目の前に立っているライルは俺のことを見下ろして、こう煽ってくる。


「もう終わりか?ナナ。まだ始まったばかりじゃろうて。」


「なめんな……!」


硬直していた体に魔力を宿らせる。


それにより幾ばくか体の硬直は和らいだ。


この訓練において魔力による防御力の上乗せは必須だな……。


あの程度の攻撃でダウンしかける今の俺ではそれ無しで、訓練することなど不可能だ。


それに、魔力の補助無しでの仙術行使も今は不可能だ。


魔力で筋力と身体の肉体的機能自体を向上しないことには技を出し続けること自体ができない。


……だが弱い魔力を纏わせるだけでは、その防御力を貫通して攻撃を放ってくるライルの拳を受けきれないし、体も持たないだろう。


魔力消費を気にしていてはだめだ。


体に魔力を宿らせていく。


自分の体の身体能力が爆発的に上がるように。


「……む?」


「仙術〝下烈瞬脚・火〟」


下からの仙術による強撃を放つ。


軸にしていた左足に痛みが走る。


が、先程のような激痛はなかった。


魔力による身体の肉体的能力の向上により、体の強度がかなり増している。


これならまともにやり合える……!


「ほほぅ!よく考えたのぅ。たしかに魔力で体を強化すれば、反動によるダメージも軽減されるな。じゃが……技の練度までは上がるわけではない。〝破弾鋼〟」


俺の足とライルの拳がぶつかりあった瞬間に、ガギぃん!という金属にも似た音が響き渡った。


同時に俺の足が折れる。


やはり技の練度がライルの言う通り、全く違う。


例えるならミサイルに豆鉄砲で挑んでいるようなものだ。


「っ……!」


長足再生で瞬時に折れた足を再生、そして左足で風魔法を発動し飛び上がる。


「〝飛翔脚・回天〟」


落下と同時に縦回転しながら技を放つ。


そこにも風魔法の応用を効かせて、回転に加速をかける。


高速回転による遠心力で上がった威力をそのままぶつける。


「風魔法による加速をつけたか。ほんとよくそんなことを思いつくものよのぅ。発想が豊かじゃ。わしの風とどちらが強いかのぅ。〝旋風仙術・風雅〟」


俺の上からの攻撃を同じ風の術により無効化。


そして、そのまま俺を吹き飛ばした。


「うぉ?!」


「その程度でわしには攻撃ひとつ通せんよ!〝発勁〟」


ライルの追撃が飛んでくる。


「っ!〝結界〟!」


自身の目の前に障壁を張る。


だが、それごと俺をさらに吹き飛ばし、天井に激突した。


ただの拳圧。


それですら、この威力。


何より、こいつ……自身が編み出した仙術以外の仙術もかなり使い慣れていやがる。


普通他人の技をここまで使い慣れるやつは、そういないだろう。


「ふー……まだまだ喰ってかかるぜ。」


「こい。いくらでも相手になろう。」


その言葉と同時に〝縮地〟を発動させる。


だが、今度は普通にするだけじゃない。


縮地を何度も発動させ、ライルの周りを移動し続ける。


体への負荷は本来今の状態では計り知れないが、魔力により硬度ともに、超速再生による再生によりかろうじてダメージは免れる。


だから、どんなに酷使しようが、動き続けられる……!


「〝火竜一握〟!」


「〝破弾鋼〟!」


お互いの技と技がぶつかり合い、凄まじい轟音が鳴り響いた。


◇


遡ること1時間前。


ヘルメロとラインハルトは広場の指揮を取り終え、帰路を辿っている。


「それにしても、とんだ災難だ。まさかふたつな個体のワイバーンが襲撃してくるとは思わなかった。」


「本当だよ。今回怪我人や死人がいないことが奇跡だ。これも全て彼女があの場でワイバーンを撃破してくれたおかげだよ。」


あの荒れ狂うワイバーンを倒すのは、あの状況では困難だった。


突然変異により凶暴性も増していて、周りに一般人もいる状態での戦闘は危険すぎた。


あのレベルを相手に本気で戦えば、その戦闘による被害が出ていただろう。


それを彼女は最小限の被害で撃破してくれた。


感謝してもしきれない。


「彼女は今どこで何をしているんだろうな。あの後直ぐにその場を去ってしまったが……。」


「まぁ宿でなんかしらしてるんだろう。」


いいながら、ポケットからギルドカードを出す。


「本当にやつは強い。本来これか、それ以上のギルド証を持っていても何らおかしくはないレベルだ。あんな強さ、あの歳でどうやって身につけたんだか。」


「最上級モンスターの単独討伐に加えて、2つ名モンスターの単独討伐。あの強さは異常だねたしかに。君に見せて貰ったデストロイワームの素材もそうだけど、あれは単独討伐なんてできる空いてでは無いと思うしね。もしできるとするなら、それもSランク冒険者のほんのひと握りだけだ。」


「第4位までの規格外たちか。」


「あぁ。」


Sランク冒険者にももちろんのこと序列というものがある。


今のこの世界にSランク冒険者は、計12人いる。


その中での序列で私は10位くらいに入っていて、それなりに強い自信もある。


……が、4位からはレベルが違う。


あれは人の到達できるレベルでは無い。


たった一人で街ひとつを簡単に滅ぼせるほどの力を持っている。


そして、その中でも一際強いのが2人。


第1位Sランク冒険者 アーサー・ペルグリフ。


第2位Sランク冒険者 レヴィン・ロフト・リーゼロッテ。


あれは異次元だろう。


どちらともに、厄災級モンスター討伐を果たしている。


「もしかすると、彼女もその一人に入るかもしれないぞ、ヘルメロ。」


「……!。本気で言ってるのか?」


「もしかするとの話さ。僕にこの先の未来予知なんて、レムちゃんみたいな予言が出来るわけないだろう?僕に。気になるなら聞いてみなよ。彼女ならきっとナナ・アベルシュタインの先の予言を出来ると思うよ。」


「勘弁してくれ。遠すぎるし、何よりレムートの周りの神官共はうるさいんだ。やつもSランク冒険者だってのに、全く……仕事の話もおちおちできやしねぇ。」


頭を抑えて、はぁっと大きめのため息を漏らすヘルメロ。


確かに、レムートの周りにいる連中がうるさいのは確かだ。


まぁあれは、熱狂的な信仰者たちだからなぁ.........。


レムートを神同然に見ているのだろう。


あの目はそういう目だ。


個人的には一個人の人間を神同然に見るのは少しおかしいとは思うがな.........。


「やっぱり、レムートとは仕事以外で関わりたいとは思わん。」


「別にレムちゃんが悪い訳では無いだろう。あくまで君が嫌いなのは周りの神官たちだろう?」


「別に嫌いとは言ってないだろう。ただ、レムートと関われば付属として神官たちがついてくるのが嫌なんだよ。あいつらの相手が面倒くさいのは、お前もわかるだろう?」


そう聞けば、ラインハルトは少し考えて肩を竦めた。


この反応はどちらとも言えないということか。


だが、少なからず面倒と思う時もあるということだろう。


そう思う相手を進めるんじゃねーっての。


はぁ.........とため息を漏らしていれば、いつの間にやらもうギルドが目の前にあった。


ついにギルドに戻ってきた。


ということは、出迎えには山積みの仕事がたんまりあるんだろう。


仕事が増えた。


とんでもないブラックだ。


なんで俺は副ギルドマスターなんて面倒な仕事を、引き受けちまったのか.........。


「一緒に地獄を見ようじゃないか。ヘルメロ。」


「ニコニコしながら言う言葉じゃねーんだよそれは.........。」


ジトっとした目でラインハルトを見るが、依然ニコニコとした笑顔を向けてくる。


まぁ、今日は徹夜確定だな。


満を持して、迎え撃とう。


と、グッと拳を握りしめた、その時だった。


ズズンッ!


ギルド周辺が揺れた。


地響きのような揺れと音。


それは、止むことなく続く。


「な、なんだ?!」


「……これは……。」


ラインハルトがにこにことした笑顔を消し、ギルド内に走り出す。


その後を俺も着いていく。


次々と面倒事が起こるな今日は……!


一体全体なんなんだ!


中に入れば、カウンターのスタッフ達が縮こまり震えていて、複数の冒険者たちが訓練場のある方に溜まっていた。


俺もそこに向かい、1人の冒険者に事情を聞く。


「何があった。」


「あ、ヘルメロさん。なんか訓練場からとんでもない音が聞こえてさ。それが時間に経つにつれてこんなふうに、やばくなってきたから、みんなでみたら女の子とじいちゃんがとんでもない戦い繰り広げててよ。スタッフもあんな感じだから、止めて欲しいんだけど。」


「……アベルシュタインか……まさか。」


俺は、冒険者の中をかき分けて、中に入っていく。


音は近づくにつれて、とんでもない爆裂音に変わっていった。


ここまで衝撃が来るほどに。


そうして、かき分けた先には……凄まじい戦闘が繰り広げられていた。


1人の少女が一瞬で何人にも分散したように見えたかと思えば、凄まじいラッシュを初老の男に浴びせている。


それを初老の男は凄まじい速さで防ぎきっていた。


攻撃の速さはもはや、目で追うことがほぼ不可能。


かろうじて、攻撃しているのがわかる程度だった。


「なんだ、これ……。」


ぶつかり合いによる衝撃は、何かが張られているようでこちらに被害は及んでいない。


だが、その音とぶつかり合う風圧はこちら側にも感じられた。


「おら、さっさとくたばれ!!〝晃牙〟」


「お主に負けるほどまだやわじゃないわい!〝破弾鋼〟」


また、拳と拳がぶつかり合う。


瞬間に破裂音の爆発音が鳴り響いた。


「くっ……!なんて威力だよ……!!」


風圧だけで周りの冒険者たちは耐えるのがやっとだろう。


この圧のある空間に入れるほど、強いものはここにはいない。


「これはたまげたなぁ……。まさかここまでとは……。」


隣から声がして、振り向けばいつの間にやらたっていたラインハルトが感心したように声を上げていた。


「んな事言ってる場合か!さっさと止めねーと!」


「いやいや、これは無理でしょ。私でも止めようがないよ。彼女の攻撃もあのお爺さんの攻撃も、私が本気で止めに入っても止められない。あの二人、少なくとも私より強い。あのお爺さんに至っては、私を含めた3人の中でいちばん強いんじゃないかなぁ……。」


「んなっ……!?じゃぁどうするんだよこれ……!」


何度も何度もぶつかり合う衝撃の中で、俺もたつのだけでやっとだった。


どうすれば……。


「すみませんねぇ。うちの二人がご迷惑をおかけして。今止めに入るので少し離れていてください。」


その声とともに、前に進み出す青い髪の女。


「お前は……。」


「〝アクア・ジャベリン〟」


俺が名前を言う前に、女は攻撃魔法を2人めがけて飛ばす。


それは俺らの知る普通のアクアジャベリンではなかった。


大きさは普段見ているものよりも数十倍大きく、切っ先も人の命を刈り取らんとするような物々しさえ感じ取れる大きさの鎖だった。


「「!」」


攻撃に気がついたふたりは、即座に距離をあける。


……が、女が放ったアクアジャベリンは2人を追尾するようにして、避けた方向に枝分かれする。


「ラファエル……てめぇ!〝結界〟」


「〝回・清々〟」


2人がアクア・ジャベリンの攻撃を無効化した。


あの突然の攻撃に咄嗟に反応して、攻撃を防ぐとは……。


普通はそん芸当簡単にはできない。


しかもあのレベルの攻撃を、一瞬のうちにだ。


「ふふ、防げたじゃないですか。すごいすごい。」


「お主は確か……。」


「お前、何のつもりだ。今の攻撃、かなり殺す気できただろう。」


「さて、なんの事やら。あなた方が集中しすぎているから、少し気をこちらに向けるためにやったことに過ぎないですよ私は。」


「……白々しい。」


言いながら、アベルシュタインは近くにあった自身の武器の元まで行き、手に取った。


そして、そのまま流れるように構えたかと思えば、破裂音が炸裂する。


「〝アクア・ウォール〟」


水の膜のようなものが、女の前に張られたかと思えば、水の膜に飛来物が張り付くようにしてアベルシュタインの攻撃をそのまま防いだ。


「そんな程度の攻撃、当たるわけが無いでしょう?あなた馬鹿ですか?アホですか?マヌケなんですか?」


「この、クソ天使が……。チッ。」


「とりあえず、ここの人間たちも困っているようですし、その程度でじゃれ合いはやめてください。それと私の仕事を増やさないでください。極力私はここにきたくないのですから。」


「何が仕事だこら。お前ろくに働きもしないくせによく言えたなそんなこと。お前のダメさもお前の神にはお見通しだろうに、なんでこいつを降格させないのか甚だ疑問だよ。」


「言いますねぇ、チビ。ぶっ殺されたいですか?」


パチパチッと火花が2人の間を、飛んでいるように見えた。


仲間なんだよな……こいつら。


にしてはもうバッチバチなんだが……。


「ほれ、止めに来たお主がナナとやり合おうとしては本末転倒じゃろうが。ナナも少しは言葉を慎まんか。シノにどやされるぞい。」


「……ふん、知ったことか。行くぞ。」


言って、訓練場の外へと歩いていく。


近づいてきたアベルシュタインを見た冒険者たちが一斉に真ん中の道を開け、通り道ができる。


だがその中で1人、腰が抜けて座り込んでしまった冒険者がいた。


まだ成人したばかりの女の子だ。


多分、あの戦いとあの女とアベルシュタインの圧にやられて腰を抜かしてしまったらしい。


そこにもう既に道に入ってきたアベルシュタインが、着いてしまった。


女の子を見下ろすアベルシュタイン。


「……。」


「ヒッ……。」


小さく悲鳴をあげて、こちらに視線を送ってくる。


さすがにこれはまずいか。


「すまん、ちょっと通してくれ。」


と、俺がその冒険者のところに行こうとした時だった。


「ほら。手ェ出せ。」


アベルシュタインが意外にも、その冒険者に手を差し伸べた。


「ぇ、ぁ……?」


「手を出せって言ってんだ。早くしろ。」


その催促に、冒険者が恐る恐る手を出す。


その手をアベルシュタインが掴むと、そのまま引っ張って立ち上がる手助けをした。


そうして、手を離す。


「……そんなにビビらなくても何もしやしねぇよ。俺の敵として前に立たなければな。」


言い残して、そのまま冒険者の横を通り抜けた。


それに続いて、他のふたりも後ろからついて行く。


意外だ。


いつもはあんなだから、そんな優しさがあるとは思わなかった。


「……彼女、思ったよりも問題児という訳ではなさそうだね。優しさもちゃんとある。それよりも……強さとは裏腹に寂しそうだ。不安と焦りにも葛藤しているように見えるし。彼女思いのほか色々抱えてそうだね。」


ラインハルトの言うように、たしかにその時のアベルシュタインの背中はとても小さく、寂しく見えた。


抱えていること自体も内容は把握していないものの、察してはいる。


一体彼女の何が、ああさせているのか……俺らは知る由もない。


ただ、眺めることしかその時は出来なかった。

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