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明け方の語りおわり

    ○


 ようやく……終わったね。よく最後まで付き合ってくれたよ。ありがとう……。

 ああ、もうすぐ夜明けか……。こういう空をバニラスカイって云うんだけど、僕はこのくらいの色が一番好きなんだ。眩しくないし暗くもないし、ずっとこの色なら良いのにな……。

 うん、終業式の日から始まった僕の夏の物語は、これでお終いだ。

 と云っても夏はまだ終わってないし、僕らは夏休みすら終えられてないけれど……こういうものだよ。死なない限りは、何度終わったってその後がある。生ってやつはそうやって、だらだらと続いていく。僕が終焉と呼んだ日にしたって、あんな馬鹿馬鹿しい幕切れで、全然締まらないものだったんだしさ。

 もう語ることは――ない。事件の真相ってやつについても、これで充分に分かってくれただろう? 僕だって分かってるよ。分かってる……だけど、ああ、やっぱりこれだけは云わせて欲しいな。

 僕は本当に憶えてないんだ。本当なんだ。

 それだけは、信じてくれ……。だから僕が語ってきたのは、何も誤魔化してなんかない、すべて僕の記憶の通りだよ。そりゃあ細部はいくらか正確さに欠けるけど、嘘は一個だってついていない。それさえ信じてもらえたなら……あとは君の思う真相で、間違ってはないんだろう。

 今後のことは、まぁ心配いらないよ。おそらく警察が来るよりも先に、〈アウフヘーベン〉の連中が僕を回収しに来るだろうと思うんだ。今日あたり……すぐ数時間後かもな。でも、回収された後どうなるのかは分からない。僕は失敗してしまったから。現人神あらひとがみとしてお人形にされても、研究対象として解剖されても、どうされたって文句は云えないさ。

 君を逃がしてやれなくて、本当にすまない。でも僕なんかの助けがなくたって、君はきっとどうにかするよね。現にまだ捕まってないんだ。まったく、君は凄い奴だよ……。それとも僕から〈アウフヘーベン〉に頼んでみてもいいけど……いや、これはやめておいた方がいいな。結局〈アウフヘーベン〉がどこまでしてくれるもんなのか、僕は全然知らない――と云うか、思い出せない。それでも、関わり合いにならない方がいいってのは確かなんだから。

 さぁ……そろそろ、行かないといけないだろう?

 ………………。いや、無理だよ。僕は喋るぶんには元気だけど、足を骨折していてね、歩けはしない状態なんだ。ううん、君は僕に〈借り〉なんてない。あったとしても、こうして僕の話を聞いてくれたことで、充分すぎるくらい返してもらったよ。あとは、そうだな……いつか君が僕に頼んだことを、僕から頼んでもいいかい?

 僕のことを、僕がこの夜に話して聞かせたことを、憶えていてくれ。

 こんな情けない……何の意味もないような話だったけど、何だか君には憶えておいて欲しいと思うんだ。だって僕の方は、これをいつまで憶えてられるか怪しいもんだからね。実は……さっき嘘はないなんて云いきったくせして……僕は既に、こんなのは全部、現実じゃなかったんじゃないかとさえ思ってるんだよ。すべては夜の夢……あの太陽が完全に昇ったら、たちまち溶けて無くなる幻想に過ぎなかったんじゃないかと…………なんて、これは都合が良すぎるか。ああ、僕の脳は都合が良いようにできてるそうだからね。

 ほら、僕のことなんか気にしないで行ってくれ……。

 ん………………。いいのかい? ひとつしか残ってないんだろう?

 ………………。そうだね、これを持ってれば、君を忘れてしまうなんてことはないはずだ。いや、忘れないよ。………………。はは、僕の身体が爆散しちまったら〈アウフヘーベン〉だって困る。うん、僕自身を人質にするってのは、たしかに有効な手だろうな。

 ありがとう、大切にするよ。

 …………ああ……どうかな、それは約束しかねるけど……でも、僕もまた君に会えたらいいとは、心から思うよ。………………。うん。どうか達者でね。

 さようなら…………。





『虚無式サマーバニラスカイ』終。

21歳の冬に書いた小説でした。

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