(1)
沈みかかった太陽が、どこまでも紅い光を投げかける。
舞台の上に立つのは二人。
夜の暗がりのような、底知れぬ闇色の長髪の男。
戦場に似合わぬねずみ色のスーツに包まれた手脚は、地面に落ちた影法師のように細長い。
右手には、鈍色に輝くダガーが握られている。
対峙するのは、異様な仮面で頭全体を包んだ怪人。
同じく右手にダガーを握り、 わずかに跳躍を繰り返し、身体をほぐしている。
身体の線を隠すかのような長いコートの下には、しかししなやかな肉体があることは疑うべくもない。
ただのウォーミングアップでさえ、滑らかで、そして流麗であった。
「天下一舞避会! 決勝戦! レディ……ファイ!!!!」
審判の宣言と共に、仮面の怪人が走り出した。
意識の間隙を渡るような、流れが忽然と消失するような。あまりに自然で、それゆえに不自然な動き。
緩やかに動いているはずの怪人の動きは、コマ落ちしたフィルムのように断続的に明滅し、目で追い切ることができない―――ただ一人を除いて。
怪人が右の刺突を繰り出す。男は半身を捻るようにして回避する。それは回避であり、牽制であり、同時に次の攻撃への予備動作であった。スーツの裾が翻り、ほんの一瞬だけ怪人の視界を遮る。同時に、男の右手に握られたダガー、ななめ下から抉り込むように突き出された刺突は怪人にとって不可視の一撃。そのはずだった攻撃を、しかし怪人はひらりと宙を回転することでいなしてみせた。着地際に攻撃を合わせようとした男の首元で怪人のダガーが突如跳ね軌道を変える。宙で弧を描く怪人の刃が男の首に迫り来る。男は軽く首を傾げるだけでそれを躱してみせた。
それはたった一呼吸の間のこと。
観客達は、瞬きすることすら忘れて、その戦いに見入っていた。
呼吸することすら忘れて、魅入られていた。
「驚いた。ついてこれるなんて」
仮面の怪人がぽつりと零す。
「もっと速くしてもいい?」
「俺は強い」
男は左手を前に出し、手招きをしてみせた。
第九十九回天下一舞避会決勝戦。
それは後の後まで語りぐさになる、伝説の試合―――




