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終末少女の黒幕ロールプレイ  作者: Red_stone
サイドストーリーズ
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SS4話 悪と正義のオハナシ



 ルナが教壇に立つ。そこは夜明け団の魔人を研究する都市、そこにルナ・チルドレンと呼ばれる第4世代の5人ともう一人、ルートが集められていた。


「さて君たち、人は”悪”であるのかという問いがある。しかしまさか――この問いにNoと返す奴は居るまいよ」


 この6人はルナの奇矯な振る舞いには慣れている。なにせ他の部署からもルナの後継……少なくとも魔人の関係部署は引き継ぐのだと見られている立場だ。今はあくまでヘヴンズゲートのために強権を振るっているが、後は規模を縮小して引き継がすのだと。

 実際にそのように育てられていて、本人たちもこれは教育の一貫だと納得している。もっとも。


「お言葉ですが、人類の未来は我らでしか切り開けない。ゆえに、まごうことなき正義では?」


 強力な力を持つだけあって、上司にも反抗する。斧を背後に置き、メイドのような黒いゴスロリを纏う女、カレンが机に足を乗せる。外見は美少女だが、中身はヤンキーだ。

 まあ育て方にしたって適当に殴ってれば成長するだろうという大雑把なやり方だから、ルナは慕われていない。ただ、ある種の親しみとも言えるかもしれないが。


「ふふふ。別に世界は複雑でもないけれど、しかし馬鹿みたいに白黒にこだわってもそうなってないという事実は変わらない。正義も悪も、しょせんは詭弁さ」

「……そういう飾り言葉は、普通の人たち相手に使ってください」


「今日、僕のお昼ごはんはイチゴのショートケーキでね。甘酸っぱくておいしかったけど、しかしイチゴは甘いものだと主張するほど馬鹿馬鹿しいことはない。甘さも、酸っぱさも、それぞれ存在するよ。二元論など、阿呆の極みだ」

「ああ、あれですか。正義の反対はまた違う正義だとか」


「つまりね、正義だの悪だの、世界は割り切れるようにはできていないんだよ。だからこそ、人を正義か悪か測るほど愚かしいことはない。それはマーブル模様で、どちらもあるに決まってる」

「だからこそ、嘘を吐くのが偉い人のやり方ですか? 結局はそういうのに落ち着くんですのね……ルナ様?」


「ははは。僕は権力者は嫌いだが、権力を振るうのはそれほど嫌いではないんだ。そもそも責任者は責任を取るもので、嫌われる責任だけは放り出せはしまいよ。だが――正義か悪か。人の根源はどちらにあるかの論がある」

「人はもともと悪いものか、善いものかと言う訳ですか」


「正義を学ぶのか、悪を学ぶのか。それは性善説と性悪説だが、勘違いされがちだが両方とも人を”悪いもの”と定めている……正義だけなどありえないんだ。もちろんそこはマーブル模様なんだが」

「どちらでも良いのでは? そもそも我らは大儀を果たすためにここに居るはず。龍の島を落とす、その空前絶後の大偉業を果たし歴史となるために」


「そう。君たちは英雄の卵だ。そのために身体を改造し、そしてこの僕の手で育てられている。だが、夢のように捉えどころのない形ではなく、しっかりと大偉業の意味を考えて欲しいと思ってね」

「やる気は十分だと思ってますよ。でなければ、あなたのところに残るなどありえない。でしょう、イディオティック?」

「そうですね。何度も血反吐を吐かされましたが、しかし夢のような御伽噺を実現できるのならばしがみつく価値はありますから」


「ならば、正義でも悪でも良いのかな? アハト」

「……」


 一応は椅子に座っている他と違い、アハトだけは窓際に立って微動だにせず外を見つめている。屋内というものと相性が良くないのだ。

 そして、口を利けないのはルナも知っている。


「歴史なら勝者が改ざんできる。だが、民衆の口を黙らせることはできない。君たちを例えるなら――そうだね。白黒のマーブル模様、それを塗り潰す革命の赤だろう。が、君たちとは関係ない民衆どもの、もともとの色が白か黒かで今後の作戦が変わる」

「せっかくなら、もともとの色は白がいいですね。今は赤だろうと」


「カレン、ルナ様が拗ねますよ。実際、ここまでヘヴンズゲートへの協力が滞る……というより、むしろ妨害が目立つ有様なので人間など元から黒では?」

「そうね、イディオティックの言う通り。目の前の災厄から目を逸らし続け、自らの権益を守ることしか考えてない。これはその、人間とやらが性悪説であることの証拠では?」


「それは完全に早計だね、スペルヴィア。性善説なら悪い遊びを覚えすぎた、性悪説ならものを考える力を育てられなかった。それだけの話で、どちらの論拠も否定できないよ」

「じゃあ、どっちでもいいでしょう。変わらないなら」


「だから、方策が変わるのさ。どうせ、あの馬鹿どもは目を覚まさない。が、ヘヴンズゲートの成功後に、彼らをどう教育するかを考えなければ――」


 ルナが意味深に黙って、答えを促す。イディオティックとスペルヴィアは目を合わせて、お前が回答しろよと目線を送る。


「戦争になるという訳ですね、ルナ様。よほど上手い手を考える必要があると」

「その通りだね、クーゲル。僕らが犠牲を払って得た果実を、彼らはその恵みに群がるどころか木を伐採までするだろう。目の前のご馳走を前に我慢させることを教えねばなるまいよ」


「悪から隔離するか、善を教えるか……我々の部門が考えることではないのでは? 外交とか、そういう部署があるでしょう。ルナ様も、あくまで本業は衛星軌道砲製作と魔人の技術分野かと」

「いや、まあそうなんだけど。ただ会議に出てもそこらへんが分かってるやつがいない。誰もヘヴンズゲートの妨害行動すら予想できていなかったものだから」


「それを我々に言われても、ですね。そんなことは顔に皺ができてから考えれば良いのでは? 今の段階で考えることではないでしょう。まずはヘヴンズゲートですね」

「そうだね。君たちはまだドラゴンの一匹すらも倒したことが無いのだから。エレメントロードは同時に来ない。他の木っ端は多すぎて減らす意味はないにしても、しかし雑魚の一匹も狩れていないようでは信用などしようがないものね」


「……げっ」


 呻いたクーゲルを、他の4人がなんてことを言い出してくれたんだと恨めし気に見る。


「いやいや、訓練の一環で君たちをドラゴンに当てるのは予定調和だよ。別に思い付きじゃない」

「「……」」


 恨めし気な目線がルナに突き刺さるが、当の本人は素知らぬ顔で言葉を続ける。


「さて、人は元々良いものだったのか悪いものだったのか。それを考えるのが人生だと諭すのが教育なのだろうが、君たちには言ってしまうよ。なにせ、君たちはルナ・チルドレン。僕の弟子らしいから」

「……先生、私は違いますが」


「似たようなものでしょ、ルート。さて、ここまで話を引き伸ばしたが――やはり、人は元々悪いものだったに決まってる」

「まあ、あなたならそう言うでしょうね」


「おや、ルート君は反論があるらしい。ほら、反論してやれ」


 と、ルナは水を向けるが誰からも反論が来ない。


「……ん? なんだい、その反論なんてある訳ねえだろみたいな顔は」


 誰も、何も言わない。


「やれやれだ、君たちは先生をなんだと思っているのだね」


 ルナは天を仰ぐが、口元には笑みがこぼれている。この生徒共はかわいげがないが……しかしそうでなくては面白みもない。


「まあ、なんだ――我々夜明け団によっては怠惰こそ悪。怠けるのは、誰に教わるわけでもないだろう。ゆえに、正義と言う押しかけを着せてあげなければまともにならんのだよ」

「しかし、警戒する必要がありますか? たかが人間などを。銃火器では相手になりませんよ」


「違うのさ、世界はそう単純にできていない。魔人は力を持っている。だが、文明を維持するには彼らが必要なのだから。人を従わせることができる力と言うのは、戦闘力ではない」

「あなたはそれを持っていると?」


「いいや、持っていない。それに、夜明け団の誰も持っていない。”それ”がなければ、絶対真空の孤独な宇宙を一人彷徨う羽目になる。世界を変えるのは英雄だが、世界は普通の人間でできているのだよ……!」

「よく言いますね、あなたこそ英雄にしか興味が無い癖に」


「人間どもに、アフターストーリーを無為にされるのも面白くないだろう? しかし、どうにもそのあたりは打つ手がなくてね」


 大げさに肩をすくめるルナを、他の面々は冷たく見やる。


「関係など、ありませんよ。あなたは英雄譚を特等席で見ればいい」


 カレンが吐き捨てる。


「ヘヴンズゲートの成就、そして来る輝かしい未来のほかに興味などありませんよ」

「私たちは強くなる。韜晦など要らない」


 にべもない。まあ、ルナが人生論を語ったところで求められていない。


「別に、彼らもそれほど愚かしくはないでしょう」


「愚かではないね。どう思う? アハト」

「――」


 問われたアハトは、いきなりルナに向かって殴りかかる。


「あはっ。なるほど、こちらの授業がお望みかな?」


 机をなぎ倒しながら拳が衝突、すれどルナは微動だにしない。お返しに適当に腕を振るうと、すさまじい衝突音とともに壁にめり込んだ。

 戦うことが間違っているほどの実力差。しかし、それは。


「ふふ……やはりそう来ますか。手の打ちようのない装甲、そして呆れたほどの暴虐! 今日こそ【災厄】を乗り越えて見せましょう。クーゲル、右!」

「応よ! 血の一滴くらいは!」


「いや、本物よりかは割合性能を落としているけど」


 ルナは優雅に言われた方向を見るのだが、そこには誰もいない。駆け引きの必要がない実力差、それに加えて魔物は馬鹿だ。真似をするのに策を用いるなど本末転倒はしない。


「「はああっ!」」


 左と上、斧とナイフが二方向から全力を叩きつけ――


「で? 魔力の練りも収束も、甘すぎる……!」


 お返しに拳を握った一瞬。


「でしょうね!」


 斧の柄で顔へ一閃。ダメージではなく、視界を塞ぐ目的。だが、ハエでも払うようにクーゲルごと弾き飛ばされてしまう。


「ですが、足止めはできる! スペルヴィア!」


 イディオティックがルナに鎖を巻きつける。狙いは粉砕して足を踏み出すまでの一瞬、動きを止めること。


「――全力の、魔法で!」

「溜めが長すぎる。もう一つくらい策がないとまともに喰らってあげられないな?」


 ルナ・チルドレンは5人。これで打ち止めだ。


「ならば、私が!」

「ルート! 君が自己犠牲を⁉」


 驚いた拍子に止まってしまう。角を生やす特殊能力で檻のように閉じ込めようと、それは鎖のように壊せたが。

 思わず魔法の発動を見送ってしまった。


「コイツまでは計算に入れてなかったようですわね、【ブラックホール】!」

「ぐ……があ――ッ!」


 もちろんルートにも当たる。悲鳴は彼のものだ。


「――ふふ」


 ルナの笑いがこぼれた。その声に反応して身構えたが。


「まだ、足りない。この程度では【災厄】どころか龍皇の鱗を貫くことすらかなわない」


 すさまじい魔力が溢れ、全員を壁へと叩きつける。魔力で物体を弾くサイコキネシスは誰でも使えるが……馬鹿げた魔力量のそれは魔人にすら動きを封じる。


「さあ――その檻を突破しておいで。立ち上がりなさい、腹の奥底から一滴残らず魔力を絞り出して。手足が壊れようと強化魔術を己が身体に叩き込みなさい」


 ルナは優雅に教室を歩く。


「どこまでも限界を踏破し、破滅すらも嘲笑い――偉業を掴むために。この僕に、血を流させて見せろ……魔人達よ」


 ニヤニヤと笑いながら、語り掛ける。当の魔人たちは、この圧力を突破するために満身の力を振り絞りながら――虫のように這いずるしかなかったのだった。

 ”授業”は続く。この程度の相手なら倒して見せろと、ルナはこの6人の前に立ち塞がる。



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