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幻想譚   作者: 国分
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◇魔物の王2◇


ある昔に賢い王さまがいました。


小さな国を誰よりも愛しており。


小さな村まで気を配り、民に慕われていました。


しかし、その平和は続きません。


ユフクスが現れたのです。


ユフクスは簡単に村を滅ぼし。


町の人々を喰らい、王さまの前まで。




~お伽噺『優しい王さま』~

男の言い分はこうだ。


「何の身寄りの無い。ちっこいし戦えねぇ。今まで面倒見た分、愛着だってあるし悪い奴に狙われたら堪らねぇ。むしろ、俺以外に誰が保護者としてなれる。それに、シモーヌが娘だと良い」


少女の言い分はこうだ。


「死にかけを助けて頂いた恩はありますが、私だって自活して生きる位の覚悟をします。戦えなくても、お仕事を頂いてこれからの生活は出来る筈です。確かに保護者になってくれるのは嬉しいです。むしろ、兄と慕っていましたし…ですが、せめて一言位は言ってくれても良いじゃないですか」


二人の言い分を聞いた審判は、暫く考えてから。


「じゃぁ、兄ちゃんで申請し直せば良くないすか?」


風船よりも軽い口調で判決を下したのだった。



晴香が受付係になって、色々と落ち着きを見せた戦闘軍団の支部の一角にてグラハムはサーウェイの言葉に瞳を輝かせる。


「そうか、妹か!確かに妹も欲しかったんだよなぁ…強引に頼めば変えてくれるだろ」

「そっすよ、親父何て娘にウザがられるだけすね。うちのばばあとかは、良く心配する親父に自分で狩った魔物の命輝を投げ付けてたすから」

「けどよぉ、そしたら『結婚するならお父さんと!』とかシモーヌに言われてみてぇんだよなぁ」

「…書類では娘。口で言うには妹でよくないすか?」

「それもそうか」



この人達わからない。



頭を抱える晴香を余所に二人は異常な話に盛り上がっている。グラハムがシモーヌを嫁にする野郎は殺すと決意した所で、サーウェイが腕に抱えていた書類をグラハムに渡した。


「これ、本部からの連絡書すよ」

「本部からだと…げっ」


現実から逃げる準備をしていた晴香は、グラハムの声に我に返って彼を見る。グラハムは分厚い書類に目を通して苦々しい表情を浮かべ、両手で簡単に書類を纏めて破り捨てていた。


「グラハムさん、良いんですか?」

「あぁ、別に構わねぇよ」

「良くないす。グラハムさん、本部から招集来たんじゃないすか?」

晴香の問い掛けに憮然とした様子で答えたグラハムを、サーウェイは軽く笑いながら否定する。


「最近、何でか魔物が地方へ出現してんす。それで、ちょっとグラハムさんに何か知らないか。本部に来いっていう…長たらしく書いた紙すよ」

「そんなの破いたんですか!?」

「そんなの読む意味がねぇよ」


グラハムは眉間に皺を寄せて暫く黙り込むと、何故か晴香を見つめて立ち上がる。

支部から出ようとする男の背に、サーウェイが首を傾げて。同じく不思議そうに見送る晴香を指で示した。


「本部に行くなら、シモーヌも持って行くんすか?」



物扱いですか。



「…いや、まずは報告を送る」


サーウェイを睨む晴香に、彼はへらりと悪気も無い笑みを浮かべている中で、グラハムは重い声色で返した後は何も言わずに支部を去った。

「珍しい」


ぽつりと呟いたサーウェイが晴香の頭に片手を置く。


「持って来る時に、中身を盗み見たんすけど…何か、妙らしいんすよね」

「盗み…いえ、妙って?」

「何か魔物が妙って話したじゃないすか」

「はい」

「あれ、何か統率があるみたいなんすよね」


サーウェイの言葉に晴香は理解が出来ずに瞳を瞬かせる。それに気付いた彼は、晴香の頭に乗せていた手を離して、人差し指を立てる。


「一つ、魔物は知識が無い。だから、無闇矢鱈に人間を襲いやがるんす」


続けて、サーウェイは中指を立てた。


「二つ、魔物は種族が違えば群れない。十年前は、ユフクスっつう魔物の大将が魔物を統率してやがったんすよね」


最後に、サーウェイは答えを目で晴香に求め。晴香は聞いた内容を何度も頭の中で反芻し、瞳を大きく見開いた。


「…その、ユフクスが…現れたんですか…?」

「可能性はあるっす。魔物の王様が死んじまって、ユフクスは消えちまいやしたから」


サーウェイの言葉に、晴香は暫く迷ってから疑問を口に出す。


「あの…ユフクスって、そんなに強いんですか?」

「…シモーヌ嬢ちゃんは、ユフクスを…って、そうすよね。十年前で、大将は今は見れねぇすよね」



そもそも魔物自体を知らない。



サーウェイが晴香に小さく説明する言葉を考えて「あー…」と、悩んだ後。

「そうすね…ユフクスは、俺も実際には見た事はねぇんす」

「そうなんですか?」

「そうすよ?十年前の俺が餓鬼だった時も魔物に襲われて、それ所じゃなかったんす。ユフクスを見た奴は、奴等に殺されてるんすよ」

「…それじゃぁ」

「けど、生き残った奴は必ず言ってやす」


晴香の言葉を遮り、サーウェイは真剣な眼差しで伸ばしていた指を畳んで拳を作り、力を込めたのか。


「ユフクスは魔物とは思えない『美しい』魔物だと。残酷な強さで、人間を軽く殺すんだって」

ぎり、と言葉にならないサーウェイの感情が、この場に漏れる。



「そのユフクスが、俺の村を魔物に襲わせやがったんすよ」



サーウェイの殺意と怒りに、晴香は痛みを感じて腹部を無意識に押さえた。


王さまは、ユフクスを見つめ。


どうか、私を食べて民を食べないで欲しい。


そう頼みます。


ユフクスは王さまに笑いました。


一人と百人、どちらがお腹が膨れるのか。


王さまは民を守る為に考えて。


なら、私の魂も食べなさい。


どうしてそこまで言うのか?


私は民を愛しているから。


王さまの言葉にユフクスは感心し、気まぐれからそれを受け入れました。


ユフクスは王さまの魂もペロリと食べて、姿を消します。


民は救われましたが、王さまの死に涙を流しました。


魂まで王さまは食べられてしまい。


英雄として奉る事が出来ず、民は子供達に話します。


優しい優しい王さまを。



~『優しい王さま』~

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