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風花  作者: 草薙 承
~涼~
13/20

~涼~ 隠された思惑

蓬視点になります。

「今なんて……もう1回……」

「だから、涼君と付き合う事になっちゃった♪」


カラカラとクリームソーダーを回す妙子。

まるで乗っかっている「アイスクリームが溶ちゃった♪」感満載に交際宣言がなされた。

同じカウンターの中にいる颯一と顔を見合わせる。


少しだけ肩を竦め苦笑する颯一。

そんな気配全然見せなかったのに、一体彼女に何があったのか。

もう一度妙子に視線を戻し、口を開きかける。


「たえ……」

「前から良いなぁ~って思ってたんだよね」

「え」

「かっこいいし、こんな私にちゃんと付き合ってくれるし。この夏休みかけて頑張ってみたんだ」

「そう、なんだ」

「うん♪」


二の句が出てこない。

ご機嫌な妙子がクリームソーダーのアイスを一生懸命沈めているのを見てるだけしかできなかった。


妙子の彼氏?……となった涼が自分に気持ちを告げたのは約1ヶ月程前。

その間、ぱたりと姿を見せなかった。

それもそうだろう。

告げられた彼の思いに応える事はできなかったのだから。


すっかり常連と化していただけに少し、いやかなり寂しさがあったのは紛れもない。

だからと言って自分を偽る事もできない。

いい加減そんな自分に嫌気がさしていた。

もっと気軽に誰かを好きになれたら。

もっと気軽に思いを受け入れられたなら。



モット楽ダッタンジャナイカ



ふと寂しさを感じる時、そんな事を考えたりした。

別に夢見てるつもりもない、普通に誰かを好きになって付き合って出かけてみたりしたいと思う。

実際にやってみようとすると必ず体か重くなるのだ。

まるで体が行きたがってないようだと。

おかげでそれが実行された事はない。


颯とだけは何事もなく二人で出かけられる。

だから「颯の呪いだ~!」なんて悪態をついた事もあったっけ……思い出しながらくすりと笑う。


「蓬?」


不思議そうにこっちをみる妙子にはっと我に返った。

すでに妙子のグラスは空だ。


「ああ、いや、ごめん。ちょっと昔の事を思い出してた」

「昔?」

「そ。いや、びっくりしてさ。これはおめでとうって事だね」

「うん! ありがとー!」


「それじゃ、そのクリームソーダは俺からのプレゼントって事で」


今まで黙々と皿を拭いていた颯一が手を止めた。


「えっ!? おごり? やったー♪」

「二人には末永く仲良くしてもらいたいからね。これくらい安いもんだよ」


何故か満面の笑みの颯一。それと同じくらいの笑みで応える妙子。

なんだろう、なんか寒い……クーラーの効き過ぎかな?

壁付けの空調の設定温度をピッピッとあげた。


カラ……ン

そんな空気を壊さないようにか、それともカウベルが寒くて凍っていたのか。

かなり静かに扉が開かれた。


「いらっしゃいま……涼っ」

「……お久しぶりです」

「久しぶり」


どことないぎこちない会話がなされる。

この後、どう会話を持っていけば良いんだろうか。

元気だったのか? 夏休みを楽しんでいるのか? 今までどうしてたのか?

聞きたい事は山ほどあったが、どれも不自然な感じがして聞けない。

今までどう会話してたのだろう。


「きたきたっ!ここで待ち合わせしてたんだ」

「なるほど……妙子ちゃんから聞いたよ。大変だろうけど頑張って」


颯一がぽんと涼の肩をたたく。

まるで買ったばかりのマイホームを手放し、単身赴任に行けと哀れみを告げる上司のように。

それを肯定するように私も頷いた。


「確かに……」

「まぁ、想像はしてましたが……」


ふうと大きなため息をつく涼。


「ちょっと! 3人とも酷いよっっ!」


その叫びに皆、ぷっと吹き出して笑う。

まるで夏休み前に戻ったみたいだ。

今まで抱えていた罪悪感が薄らいでいく。

だからいつものように彼に問えた。


「涼、何飲む?」

「あ、いや。もう映画の時間なので。また今度、すいません」

「なんだ早速デート?いいね」

「まぁ……」


少しテンションの下がった空気。

誤魔化すように慌てて颯一をみた。

こういう時はいつも助けを求めてしまう。


「次来た時の1杯、颯の奢りだってさ」

「野郎に奢る趣味はないよ」

「固いこと言わない!」

「本当ですか、ご馳走様です」


涼も便乗するかのように颯一へと頭を下げる。


ふぅと、わざとらしく大きなため息一つ、それが了承の合図となった。


「あ、早く行かなきゃ始まっちゃうっ!」

「それじゃ行きますか」

「うん! 行ってくるねっご馳走様~」

「また来ます」


嵐のように去っていく二人。

残ったのはいつもの静けさ。

ぽつりと呟く。


「びっくりした……」

「まぁね」


空になったグラスを下げつつ、いつも通りの淡々とした作業と返事。

あまり同調されなかった感情に首を傾げた。


「颯は知ってた?」

「いや、全然」

「ふ~ん……」


何か釈然としない……。

でもこれ以上問い詰めても無駄なことは、長い付き合いの中で経験済みだ。

いつから彼はポーカーフェイスが得意になったっけ?

そんな事をぼんやり考えながら黙々とグラスを洗ったり、CDをかえてたりする内にこの話題から離れていった。


颯一が、妙子が、涼が、それぞれどんな思惑でいたのかなんて、気づきもせず平穏な日常へと戻っていった。

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