第一話「普通のJK」
「今日から私は、普通のジュリエット・キロよ!」
私は高らかに宣言する。
私の名前は結城雪、今日から高校生になる。普通ではないことは自覚している。
「普通の女子高生はNATOフォネティックコードなんて使わないぞ?」
即座に父に否定される。父の名前は結城紬。
女性のような名前だが、祖母がとある伝統工芸品の名前を冗談で言ったら、冗談の通じない祖父が出生届に書いて出してしまったらしい。
因みに祖母が冗談で出した結城紬とは、茨城県結城市と栃木県小山市にまたがるエリアで生産される伝統工芸の織物である。
「じゃぁ、今日から私は、普通の『京都のKにジャパンのJ』よ!」
テイク2、これでどうだ。
「…コールセンターになった?」
「私が普通だと思う場合は1を、普通でないと思う場合は2を、もう一度聞く場合は9を、押してください。」
「何だよ、その意味不明なIVRは!そして絶対2だ!」
「…知ってたわ。それにしても容赦ないわね、お父様は!」
と、くだらない会話をしている間に時間が経過してゆく。
「ごめんね、私が保護者として入学式に行けなくて…。」
と、母が割り込む。
「まぁ、お母様が休みとか取れないのは、いつものことよね。」
母は医師をやっていて、地域医療の中核となっている隣の市の医療センターで勤務している。
「そろそろ準備しないと、遅刻するよ?入学式から遅刻とか笑えないって。」
と母が言う…が…。
「お母様こそ、そろそろ出ないとまずいと思うわ。」
「大丈夫、遅刻したら『夜尿症の発作が…』って言って誤魔化すから。」
「体調不良っぽく言ってるけど、恥晒してるだけだぞ?」
即座に父がツッコむ。
「それなら『本日今朝方発生いたしました起床事故の影響で、出勤が10分ほど遅れる見込みです』の方がいいと思うわ。」
「ただの寝坊じゃん!」
入学式の朝、時間は過ぎていく。
…ちゃんと投稿時刻に安全バッファは設けてあるのだが…。
かくして、家族揃って自宅を後にした。




