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1話 転生先が魔物とか聞いてないんですけどっ!?

 暖かな温もりに囲まれ、失っていた意識が浮上する。

 ──どこ、ここ?

 周囲を見回してみると、何やら眩しい光が満ち溢れているようだ。


「おぉ、ようやく起きたか人の子よ」


 ──え、誰?

 不意に、聞き覚えのない男の声が聞こえる。


「ふむ、現状を理解できていないと言った様子だな。まあ、無理もない。お前は死んでしまったのだからな」


 死んだ──ああ、なんだ私、死んだのか。

 男の言葉に、妙に納得がいった。逆にあの重労働の中、今までよく耐えていたなとどこか他人事のように思えるだけだ。あ、でも飼い猫のナツたんを一匹にさせちゃったのは後悔だ。ナツたん……ごめんね……。

 最後の記憶は、夜中の職場で資料を作成しながらエナドリをがぶ飲みしたこと。我ながらろくな人生を送っていないな……。


 ──あなたは?


「ああ、私のことは神とでも呼んでくれ」


 ──神様……?


「それで、お前は自分のことは思い出せるか?」


 ──私のこと?


「そうだ」


 私の名前は森山つぐみ、29歳独身、女。


「ほう、一つも間違えずに覚えているのか。なかなか、適性がありそうだな」


 ──適性?


「ああ、お前にはこの後、異なる世界へと旅立ってもらう」


 ──それって、異世界転生?


「ああ、そちらの世界ではそう言われているな」


 ──なんで私が……?


「何、お前の幸福度が最底辺すぎて輪廻を回らせることができないから他の世界で生きてもらうだけだ。特別な使命とか力とかは一切ない。好きに生きてくれ」


 ──好きに……生きる?んちょっと待って、今ナチュラルにバカにしなかった?


「細かいことは気にするな。お前は今まで散々苦労してきただろう?それが報われたと思っていい」


 男は優しげな声で私にそう語りかけてくる。

 ──でも、好きに生きるなんてどうすれば……。


「そこまで深く考えなくて良い。ああ、それと、お前が旅立つのはファンタジーの世界だ。電子機器などはない」


 ──ファンタジー……なら、静かな湖畔でゆっくりと余生を過ごしたいな。スローライフってやつやってみたい。


「ふむ、それもまた良いな。ただ、それができるかどうかはわからないがな。それでは、人の子よ旅立つ準備ができた。お前の幸運を祈る」


 ──あっ、ちょっと待ってまだ聞きたいことが、


 男はそう言って私を突き放した。

 景色が高速で流れていき、ひどく耳鳴りがする。

 気がついた時には、仰向けになって路上に倒れていた。


 ***


「えっと……ここは?」


 立ち上がって周囲を見回して見ると、何やらガヤガヤと騒がしい声とむわっとした臭気が辺りに充満していた。

 空には黒い雲が立ち込めており、光は露店の炎ぐらいしか見当たらなかった。どうやら私は、異世界の街の中に一人で突っ立っているようだ。

 体が小さくなっているのか、いつもより世界が低く見える。それに加えて、おそらくローブのようなものを着用しているため、周りの様子を確認しにくい。どんな姿になっているのか確認したいが、近くに鏡は見当たらない。


「おい!危ねぇぞ!!」


 突如、声が聞こえて反射で言葉を返す。


「うぇっ!?すいません!!」


 私は逃げるように道脇にそれ、後ろから迫ってきていた馬車へ道を開けた。

 すると、馬車が私の前で一度足を止め、御者であろう人物が、私に鋭い視線を送ってくる。ただ、ローブのせいで御者の顔は見えないのだが。


「おいクィエタの嬢ちゃん。ちゃんと周りを見ておかないと、その内おっ死んじまうぞ」


「えっ、あっ、はい!アドバイスありがとう……ございます?」


 しかし、馬車は私の言葉など無視して、さっさと道を急いでどこかへ行ってしまった。てかクィエタって何?、

 ──街中だし、ちゃんと周りを見ておかないとダメだね。

 そう思いつつ、裏道を抜けて大通りに出る。


「おーい、そこのクィエタの嬢ちゃん!今日はこんなに瑞々しいきのみが入ってるよ〜!一つ買って見ないかい?」


「きのみ……?ごめんなさい、私お金持ってないんです」


「そうかい、そりゃ残念だ。それじゃまた来てくれよ」


「ありがとうございます。それと、あの……一つ聞いてもいいですか?」


「うん?何かあったかい?」


「その……クィエタって、何ですか?」


 先ほどの馬車の人と言いこの人と言い、クィエタとは何なのだろうか。

 私が聞くと、きのみ屋の店主が「あぁ」と納得したように息を吐き、私が被っているローブを外した。すると、店主の顔がよく見えた。

 その顔はとても人間とか似ても似つかない不気味な風貌で、顔の代わりに鋭い歯の見える凶暴そうな大きい口のついている異形であった。私は驚いて、一歩後退りする。


「嬢ちゃん、まだ生まれたばっかしか。クィエタってのは嬢ちゃんの種族だ。ほら、鏡を貸してやるから自分の体を見てみろよ」


 店主は優しい声で私に鏡を渡してきた。


「これが……私?」


 そこに写っていたのは、明らかに人間ではない水色の肌をした幼い顔立ちの少女。

 これまた水色に繊細な刺繍の入ったローブを着用しており、身長は小学生くらいだろうか。途端、私は怖くなって周囲を見回す。辺りでは、多種多様な魔物たちが楽しそうに買い物を楽しんでいた。

 その時、私は初めて気がついた。


「この世界へようこそ。歓迎するぜ、嬢ちゃん」


 この世界は、魔物の世界だということに。

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