第45話「文化祭準備(その3)」
いよいよ夏休み明け。
夏休みよりもだいぶ暑い気がするくせに残暑なんて名乗ってる9月の熱気を堪えながら、わたしと黑谷ちゃんも二学期初登校。
まあこういう時恒例の新学期になって一気にイメチェンとか、そういうのは黑谷ちゃんに関しては全くな──
「白山くんおはー☆」
「どちら様ですか????????」
「えー、辛辣。ウチだってウチ。黑谷アメ」
「わたしこんなオタクに厳しいギャルみたいな黑谷ちゃん知らないけど」
「……あ、そっか。ちょっと待ってて」
そう言って部屋に引き返す金髪フェイスペイントマシマシシャツの裾出しゆるゆるネクタイの黑谷ちゃん。
一体何が起こったのかと首を傾げていると、すぐに水色髪でワイシャツもちゃんと第二ボタンまで留めた元のお嬢様みたいな黑谷ちゃんが出てきた。
いや、ちゃんとお嬢様ではあるんだけど。
「おはよ、白山くん」
「おはよ。……で、さっきのって何?」
「さっきの?ああ、黑谷アメ:オタクに厳しいギャルのすがただけど」
「そんなポケモンみたいな」
「いやさ、私オタクに厳しいギャル好きなんだ」
「それは分かるよ?わたしもだし」
「だからなろうと思って」
「それは分かんない」
「でもすごく厳しいんだよ?エヴァの考察にやたら聖書を持ち出すやつには物理的な暴力を加えるし」
「ああそっちの厳しさ」
「で、それを思いついたのが30分前だったからさ」
「朝から何やってんの黑谷ちゃん?」
「いいじゃん、全校集会だけ終わったらしばらく任意登校なんだし、遅刻したって」
「でもこのままだと全校集会遅れるよ?」
「あっやば」
そして黑谷ちゃんは少し焦った様子でわたしの手を掴むと、空いた左手でパチンと指を鳴らした。
◇◇◇
黑谷ちゃんのテレポートによって滑り込んだ全校集会は相変わらずのつまらなさ。
ということで黑谷ちゃんパワーでさっさと切り上げてもらい、わたし達は文化祭準備のために図書研究部の方へ向かった。
「おはよ〜ございま〜す!」
「おはざぁす」
「よし、これで揃ったわね」
すっかり進行役と化し、ホワイトボードに何かを書き込むNoMAちゃん先輩。
床に直置きでポケカに勤しむ甘神ちゃんと氷室先輩。
何故かスタアラの真かちに熱中している阿須加先生といつも通りの様子。
「っていうかあんた達遅かったわね。どのクラスもホームルームの時間なんて変わんないと思ってたけど」
「あ、それは学食でパフェ食べてただけなんで〜」
「美味しかったです」
「……相変わらずね。まあいいわ。それで、本題入るわよ」
NoMAちゃん先輩が声を掛けると、みんな一旦手を止めてホワイトボードの前に集合する。
そして彼女は「これが本題です!!」と言わんばかりに1枚のコピー用紙を貼り付けた。
『今年は広報ガチるんで各部のビジュ担当にダンスやらなんやらのshort動画撮らせてこっち送って』
そこに印刷されていたのは各団体の代表のグループチャットに送られた、文実の広報部門長からのシンプルなメッセージ。
脱ルッキズムを掲げる世界の有り様とは真反対のルッキズムバリバリメッセージである。
「イカれてますね」
「ノマちゃん、今年の広報部門って……」
「御藤ナツキよ」
「ああ、道理で……」
どうやら三年の間では有名らしい。
しかしそうなると困ってくるのは「ビジュ担当」という部分。
何度も言う通り、この図書研は全部活でもおそらくぶっちぎりで顔面偏差値の平均が高い。
その辺の部活にいたら普通に一番可愛いであろう甘神ちゃんが一番下になるレベルなのである。
NoMAちゃん先輩もそれは分かっているらしく、目配せすると「その部分はいいわよ」と言わんばかりに首を振った。
「で、あんた達、踊れるの?」
「無理で〜す」
「無理です」
「無理でございますね」
「即答じゃない。もうちょい努力しようって気はないの?」
「コメント欄、紳士の社交場になっちゃいますよ?」
「見なよ……私の体力測定の結果を……」
「ユ!」
「対話拒否が過ぎるでしょ……まあ想定通りではあるけど。……イツキ、あんた踊りなさい」
「え、俺?ノマちゃんの方がこういうの適任なんじゃ……?」
「バカ、あたしが踊ったら文化祭どころじゃないのよ。それにあんただって、見た目で言えばあたしと同じレベルなんだから何も問題ないわ」
「そういうことなら……良いよ、俺がやる」
お、案外あっさり。
「で、曲とかって決まってんの?俺、そういうセンスは全く自信ないけど」
「こっちに丸投げよ。あいつら多様性を尊重しすぎてるわ」
「んー……あ、ならサカナクションとかどうかしら?ほら、新曲もかなり良かったなじゃない?」
「阿須加先生、諸事情ございましてサカナクションだと限りなくネタ動画に近くなってしまいます」
「じゃあボカロとか……黑谷ちゃん良いのあったりしない?」
「今ボカロって言われて出てくるの、助っ人外国人か三不粘か乳首だけど」
「最悪な御三家?」
「御三家、ボカロ、和メイド……」
NoMAちゃん先輩は少し考え、ポンと手を叩いた。
「イツキ。衣装に合わせる髪型、ツインテールにして」
「あ、了解」
「駕籠野先輩、さては……」
「ええ。令和の時代に断頭台から飛び降りさせてやるわ」
「わーい記録更新!!」
渾身のドヤ顔の隣で、先生はダークメタナイトでGOの自己ベストを更新していた。




