美桜と藤次郎
「俺がここに来たのはあなたに出会うためだったんです。前回この教室の近くまで来た時には中に入ることは無かったのですが、今はその事を後悔しています。あの時に無理にでも中に入っていればあなたを助けることも出来たと思うのです」
山下藤次郎さんは相変わらず愛華さんに対して熱のこもった演説をして告白をしようとしているのだが、愛華さんはそんな事は我関せずと言った様子でみさきさんと二人で昨日見たドラマの話をしていた。俺はそれを見て二人とも強いなと心から思っていた。
「私はここで宣言します。どんな苦難が待ち受けていようとも、この山下藤次郎は全身全霊をかけて愛華さんをお守りします」
「そうなんだ。私はてっきりあの子が犯人かと思ってたよ。でも、みさきちゃんの話を聞いてたら違うんじゃないかなって思ってきたかも」
「でも、愛華ちゃんの推理も当たってそうだよね。そっちの視点で考えたらさ、あの時のスプリンクラーの誤作動がわざとなんじゃないかって思えてきたもん」
「それを言ったらさ、薪を割ってたオジサンも結構癖が強めで印象には残ってるよね。印象に残ってるわりには出番が少ないってのも気になるかも」
「私もあのオジサンは気になってたよ。ちょっと気の弱い奥さんが可愛そうになったけどさ、息子が暴走族の総長になってるんだから意外だよね。第一話の時にはただの気が弱い奥さんだったのにさ、今では少しサイコパスな感じにもなってるもんね」
「うん、いきなりメロンにはちみつをかけて食べだした時は意味が分からなかったよ。なんでメロンにはちみつかけたんだろうね?」
「ああ、アレはたぶん、キュウリにはちみつをかけるとメロンの味になるってやつを間違って覚えてたんじゃないかな。メロンにはちみつをかけるとはちみつをかけたメロンになるって意味不明なこと言ってたしね。小さい時にテレビでキュウリにはちみつってのを見たような気がするから」
「へえ、そんなのあるんだ。でも試してみたいとは思わないかも。別にそこまでメロンが好きってわけでもないし」
「あ、私もあんまりメロン好きじゃないんだ。進んで食べた事ってないかも」
「私も自分からメロンを食べようって思ったことは無いかな。富良野に旅行に行った時に家族はメロン食べてたけど、私は一人でソフトクリーム食べてたもん」
愛華さんとみさきさんが見たドラマがどんな話なのかさっぱり理解出来ないのだが、あれだけ近くで熱弁している山下藤次郎さんを完璧に無視することが出来ている二人はやっぱり凄いんだなという結論に至った。
こんな時に昌晃君は愛華さんの近くに行かないのかなと思っていたのだけれど、昌晃君には愛華さんの近くに行けない理由があったのだ。
お昼休みを利用してこの教室に遊びに来た生徒がもう一人。中学生である山下美桜ちゃんが昌晃君の腕を掴んで離さないのだ。
「そうなんですよ。今日も給食を残さずに全部食べたんです。昌晃先輩はみんなと同じお弁当なんですよね。もしよかったらなんですけど、明日から私がお弁当作ってあげましょうか?」
「それは困るな。邦宏さんのお弁当が食べられなくなるのは辛いからな。君がどれくらい美味しいお弁当を作ることが出来るのか知らないけどさ、邦宏さんの作るお弁当よりも美味しいお弁当は無いと思うんだよね。だから、君のお弁当を食べることは出来ないかな」
「じゃあ、お弁当じゃなくて私がご飯作ってあげますよ。それだったら問題無いですよね?」
「そうは言うけどさ、僕は親の作ってくれた料理を食べたいからね。気味がどんなに頑張って美味しいものを作ることが出来るようになってもさ、僕は家で親の作った料理を食べていたいよ」
ハッキリと断れない優しい昌晃君に対して美桜ちゃんはそれに気付いているのか気付いていないのかわからないが更にアプローチをかけていっている。こういった相手にはハッキリと断らないとわかってもらえないんじゃないかと思っているのだが、昌晃君は性格的にキッパリと断ることが出来ないようだ。このままでは美桜ちゃんに押し切られてしまうのではないかと思って見ていたのだが、昌晃君も最後のところでは決して折れずに美桜ちゃんの誘いを断っているようだ。
ただ、それもどちらとも取れるような曖昧な断り方であったので美桜ちゃんは最後まであきらめず昌晃君に食事を作ろうとしていたようなのだが、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴ってしまったため急いで中学校まで戻っていったのだった。校舎はすぐ隣ではあるのだが、一階の玄関を通らないといけないため午後の授業にちゃんと間に合うのか心配になってしまった。
そんな中でも山下藤次郎さんは戻ろうとする伸一さんを掴んで離さず、いつまでも愛華さんのそばで愛を語り思いを伝えようとしていたのだ。だが、二年生の教室まで中学校ほど離れてはいないとはいえ授業はもう始まろうとしているのでいつまでもここに残られては迷惑でもある。
最終的には伸一さんが無理矢理山下藤次郎さんを連れて行く形になっていたのだが、この短い昼休みの間に今まで見たことのないような伸一さんの姿を色々と見ることがd家いたのは面白かった。
「お兄様もあんな風に困ることがあるんですね。ちょっと意外でした」
「俺もあんな伸一さんを見るのは初めてだったから驚いたよ。それにしても、美桜ちゃんも藤次郎さんも凄かったね」
「ええ、お二方とも自分の思いを真っすぐに伝えるのはやはり兄妹だなって思いましたよ。私とお兄様もそんな一面があるのか気になりますね」
「たぶんだけど、綾乃と伸一さんは自分たちが思っているよりも似た者同士だと思うよ。もちろん、淳二さんと京子さんにも似てると思うけどね」
藤次郎さんと美桜ちゃんほどではないにしても俺はこの二人も似ているところが多いと思う。仲間想いのところもそうなのだが、どんな手段を用いても悪いものは悪いとハッキリさせて断罪するところは淳二さん譲りなんだろうとは思う。それと、色々と起こっている事件を解決する際には、自分たちにとって一番利益が大きくなるように計算しているのではないかと思えるところもあるのだ。
単なる偶然なのかもしれないが、俺が知っているだけでも大きな問題が解決した際には神谷家にとって物凄い利益をもたらしているように思えるのだ。もしかしたら、その利益をもたらすために問題を大きくしているのではないかと思えることもあるくらいなのだ。




