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天才たちとお嬢様  作者: 釧路太郎
危険な兄と妹編

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危険な上級生

 いつも通りの朝食風景ではあったのだが、いつもと違うところが一つだけあった。普段は寝坊しない伸一さんが寝坊してきて朝食を満足にとることが出来ず、その代わりなのか綾乃が誰よりも早く起きてきて一番に朝食をとっていたのだ。

「お兄様が寝坊するなんて珍しいですね。昨日は遅くまで何かやっていたのですか?」

「遅くまでと言うか、朝方まで少し友人と話をしていたんだよ。お互いに学校があるという事を忘れるくらい熱中してしまっていてね。こんな事なら目につく場所に時計でも置いておけば良かったよ」

 いつもは登校中の車内でサンドイッチを食べているは綾乃なのだが、今日に限っては伸一さんがサンドイッチを口に運んでいたのだ。朝食は米でもパンでもどちらでもいいと言っていた伸一さんではあったが、ジャムがたっぷり塗られたサンドイッチはあまり好きではないらしい。そう言えば、朝食でパンを食べる時に伸一さんがジャムを使っているところは見たことが無かったので甘い食事は好きではないのだろうな。

「そうだ、今日の昼休みに綾乃の教室に遊びに行くからどこにも行かないでね。友人が綾乃たちに用事があるって事なんだけど、協力してね」

 伸一さんは車から降りる際にそう言い残して職員室の方へと急いで向かっていった。昨日の夜から伸一さんはいつも以上に忙しそうにしているので、何か俺に出来ることがあれば言って欲しいなと思っていたのだが、どんな時でも伸一さんは人に頼らずに自分の力で解決しているのだ。俺が気付いていないだけで多くの問題を解決していたんだろうとは思うのだが、一緒に住んでいるのだから頼ってくれてもいいのになと思ってみたりもしたのだ。

「お兄様の用事ってなんでしょうね。あんまりお兄様から頼まれごとをしたことが無いので少し楽しみだったりするんですよ。でも、いつもとは違ってお兄様も少し疲れた様子だったので心配です」

「あんまり寝ていないみたいだったからね。さすがに伸一さんが授業中に寝るとは思えないけどさ、無理はして欲しくないって思うよ」

「そうですよね。ですが、将浩さんも前みたいに無理はしちゃダメですからね」

「そうだね。出来るだけそうするよ」

 俺はこっちに越してきてから色々なことに巻き込まれていた。いや、自分から首を突っ込んで巻き込まれに行ったという方が正確かもしれない。ただ、そのどれもが俺は正しいと思ってやっている事なのだ。小さな問題は俺にも解決出来たりしたが、さすがに大きい問題になると誰かを頼らないといけないという事は分かっている。俺が関わった大きな問題は神谷家の力が無ければどうすることも出来なかったものばかりだったので、今回伸一さんが悩んでいるという問題に俺の力が役に立てばいいなと密かに思っているのだ。

「でもさ、伸一さんが協力を求めるなんて珍しいことだし、俺に出来ることがあったら全力で手伝いたいとは思うよ」

「そうですね。お兄様がそういう事を言ってくるのは珍しいことですし、出来ることがあれば協力しましょうね」


 昼休みに他の学年の生徒が教室にやってくることは珍しいことであるし、つい最近も天樹透の件で大変な目に遭った俺達のクラスは見慣れない上級生がいきなり無言で乱入してきた事で教室の空気がしんと静まり返ってしまっていた。

 その上級生は生活指導の教師なのかと錯覚してしまいそうなくらい一人一人の様子をじっくりと見ていた。俺達はその間も一切何も言葉を発することなく黙って席に座っていたのだが、愛華さんを見つめながらゆっくりと近付いてきた行くとそれを遮るように昌晃君が上級生の前に立ちはだかったのだ。

「あなたはいきなりやってきて何なんですか。何か用事があるって言うんですか?」

「なんだお前は。俺はお前と話すことなんてない。そこをどけ」

「どいたらどうするって言うんですか。愛華に何か用でもあるんですか」

「用があるからこうして向かっているのだろう。お前はそんな事もわからないのか」

 昌晃君と上級生の間に流れている不穏な空気に教室の中は一層ピリピリしてしまったのだが、それを打ち破るように明るい声を出しながら伸一さんがやってきたのだ。

「ごめんごめん、遅くなっちゃった。あ、先走っちゃったか。教室にいなかったからここに来てるのかもと思ったんだけどさ、山下君は口下手なんだから一人で行っちゃダメだって言ったじゃない。僕がちゃんとみんなに説明するからこっちに来てね。昌晃君にも愛華さんにも迷惑かけちゃったみたいだけど、まずはみんなに迷惑かけた事を謝ろうか」

「謝るって、俺は別に何も悪い事してないですよ」

「山下君はそう思ってるかもしれないけどさ、みんな怖がっちゃってるからさ。君もこの教室で天樹君たちが何をしたか知らないわけじゃないでしょ。そんな子達を山下君は不安にさせたんだからさ、その事だけでも謝ろうか。ね、子供じゃないんだから自分の非は認めようね」

「ですが、俺は天樹とは違って迷惑かけてるつもりはないですし」

「君がどう思ってるかは重要じゃないんだよ。このクラスのみんなが突然やってきた君に驚いて困っていたんだからね。そこは認めて謝ろうよ」

「でも、俺は悪いことしたつもりないのに謝ることなんて出来ないですよ」

「そうか、君がそう言うんだったらそうなんだろうね。でも、そんな風に考える自分勝手な人には僕は協力しようとは思わないな。あとは君一人で頑張ってね。じゃ、僕はここで失礼するよ。みんな、迷惑をかけてしまってごめんね」

 そう言って去ろうとする伸一さんに泣きそうな顔で縋っている上級生は自分の行いを反省したのかみんなの前で謝っていた。何に対して謝っているのかわからない部分もあったのだが、あまり深く関わると面倒くさいことになりそうなので黙っていることにした。それは他のみんなも同じように感じているようだった。

「突然お邪魔してごめんね。この子は山下藤次郎君と言ってこの学校の二年生で剣道部の副部長をやっています。そんな彼がなんでこのクラスにやってきたかというと、ちょっと前に彼の妹さんがこのクラスの生徒にお世話になったからそのお礼を言いに来たという事なんです。君達は天樹君の事もあって上級生を怖がっているのは知っているんだけど、みんながみんな天樹君みたいじゃないってのも知ってもらいたいって事もあって連れていました。さ、山下君、口下手な君が感謝していることをみんなに伝えてみようか」

 どこかで見たことがある顔で聞いた事のある苗字だと思ったら、ちょっと前に知り合った璃々の友達の山下美桜ちゃんのお兄さんなのかな。何となく雰囲気も似ているけど性格は全然違うように見える。剣道をやっているという事は忍者ではないのかなという感じもするのだが、武道を学んでいるという事は忍者である可能性も捨てきれないという事なのだろうか。

 それにしても、妹さんの事でお礼を言いたいなんて良いお兄さんなんだな。俺が彼の立場であってもお礼になんて行かないだろうな。そもそも、璃々は誰かにお世話になっていたりするのだろうか。そんな姿は全く想像することが出来なかった。

「えっと、人前で話すのは苦手なので、単刀直入に言わせてもらいます」

 初めて聞いた山下藤次郎さんの声は大きいだけではなく真っすぐに向かってくる実直な印象を受けた。声は大きいのに威圧感は無く、どこか包み込まれるような優しさもあるように感じていた。

「一目見て惚れました。今は名前しか知りませんが、俺と付き合ってください。愛華さん、お願いします」

 山下藤次郎さんの突然の告白に教室中が騒めいてしまったのだが、その中でも一番驚いていたのは彼を連れてきた伸一さんであった。

 普段から冷静で慌てているところを一度も見たことが無かったのだが、俺が伸一さんと出会ってから今のように狼狽えている姿を見るのは初めてであった。他のみんなも伸一さんと同じように戸惑っているのだが、そんな中でもなぜかジェニファーさんは嬉しそうにほほ笑んでいたのだった。

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