昌晃君と美桜ちゃん
「昌晃君はさ、愛華さんと付き合ってないって言ってるけど、それって本当なの?」
「本当も何も付き合ってないのは事実だからね。別に告白もしてないしされてもいないし」
「じゃあ、お互いの事は好きなの?」
「そう言われると困るな。他の人よりは愛華の事を好きだと思うけど、それが愛とか濃いとかそういうのじゃないと思うんだよね。どっちかって言うと、長年一緒にいて離れがたいものがあるって感じかも。言っても理解してもらえないと思うけどさ、何百年も連れ添った仲間って感じなんだよね。それが愛情だって言われればそうかもしれないけど、一般的に言う恋愛感情とは異なるものだと思うよ」
「他の世界でずっと一緒にいたってのは聞いたけど、愛華さんと昌晃君では覚えていることが違うみたいだけどさ、それってどうしてなんだろう」
「さあ、単純に記憶力とかそういう違いなんじゃないかな。将浩君だって今まで経験してきた事を全て覚えているってわけでもないでしょ。その割合の違いってやつなんじゃないかな。僕は人より記憶力が良いってだけの話かもしれないし」
昌晃君はコントローラーを床に置くと俺の方を向いて軽くため息をついた。普段はあまり見ない表情なのだが、少し怒っているようにも見えた。
「ダメだよ。もっと集中しなくちゃ。普段だったらもう少し良い戦いになると思うんだけどさ、余計な事を考えているから負けちゃうんだよ。配球だってわかりやすいし、そんなんじゃホームラン打ってくれって言ってるもんじゃないか。僕のチームにホームランバッターがもう少しそろっていたら点差はもっと開いてたと思うよ」
「昌晃君はゲームも上手いよね。でも、ホームランの数なら俺の方が多かったから」
「あのね、野球はホームランの数で勝負が決まるんじゃないんだよ。それだったらホームラン競争で勝負つけようってなるじゃない。野球は相手よりも多く点を取った方が勝ちであって、ホームランはその点を取るための手段でしかないんだからね。それで、オンライン対戦でも良かったのにさ、僕をここに呼んだのって何か理由があるんでしょ?」
「どうしてそう思うの?」
「だって、将浩君が攻撃の時はゲームに集中しているのにさ、守りの時はしきりに時計を気にしてたからね。それってつまり、何かを待ってるって事なんじゃないかな。それが何なのかはわからないけど」
俺は全く意識していなかったのだが、無意識のうちに時間を気にしていたようだ。約束の時間になれば璃々が美桜ちゃんを連れてやってくることになっているのだが、その時間をもうとっくに過ぎているのだ。ゲームも色々やっているのだが、どのゲームも全く勝てないのでこのままでは間を持たせることが出来そうにない。いったい璃々は何をやっているんだ。早く来てくれ。
俺の願いはむなしく、璃々が美桜ちゃんと一緒にやってきたのは予定の時間を二時間も過ぎてからであった。その間に俺と昌晃君が楽しんだゲームは数知れず、俺が対戦で勝利したのはついに一度も無かったのだ。
いつもはノックなどしない璃々が珍しくノックをしたのは隣に美桜ちゃんがいるからなのか部屋の中に昌晃君がいるからなのかわからないけれど、とにかく璃々はいつもと違う事をしていた。
「お兄ちゃん、ちょっと相談があるんだけど入っていいかな。あ、昌晃さんと一緒だったのか。ごめんごめん、またあとにするね。男子の意見を聞きたいなって思ったんだけど、お兄ちゃんは昌晃さんと遊んでるみたいだからまたあとにしようかな。でも、後にしたら私の友達が帰るの遅くなっちゃうかもしれないな」
璃々はこんなに演技が下手なのかと思ってしまうくらいセリフに感情が込められていなかった。これだったらいつもみたいにずかずかと入ってきて自分の思っていることを素直に言えばいいのになと思ってしまった。
「男子の意見を聞きたい相談だって。僕も男子だから協力してあげようか?」
「え、いいんですか。嬉しいな。美桜ちゃんは話を聞いてもらうのに、お兄ちゃんの他に昌晃さんがいてもいいよね?」
相変わらず感情がわからないトーンで話す璃々に混乱しつつあるのだが、昌晃君は全てを察したような顔で俺に微笑みかけてきていた。いや、俺が計画したことではなくて璃々と美桜ちゃんが考えたプランなんですよ。俺が考えるとしたらこんな回りくどい方法ではなくて、最初から美桜ちゃんがいるという事を伝えて誘うし。
「初めまして。私は山下美桜って言います。ちょっと気になる男子の事で悩んでまして、良かったら先輩たちの意見を聞きたいって思いました」
「どうも、川杉昌晃です。山下さんと会うの初めてだっけ、どこかで見たような気がするんだけどな。あ、でも、こうして話すのは初めましてだね」
「はい、話すのも初めましてです」
何となくだが、美桜ちゃんが昌晃君に対して警戒心を抱いているように見える。二人が実際にあったことがあるのかはわからないが、あの時の教室に二人は一緒にいたのは事実らしいのだ。ただ、その時の美桜ちゃんの姿は誰も見ていないはずなのだが。
「それで、どんなことで悩んでいるのかな。僕も将浩君もそんなに経験豊富じゃないかもしれないから望んでいる答えは出せないかもしれないけど、意見を言うだけだったら大丈夫だと思うよ。将浩君はどうかわからないけど、僕は薄い経験しかしてないからね」
「大丈夫です。どんな風に思うか聞ければいいだけですから。私も今すぐどうにかしたいってわけじゃなくて、高校生になってからでもいいかなって思ってますし。その頃にはもう少し成長しているかもしれないですからね」
少しだけ伏し目がちに昌晃君を見る美桜ちゃんではあったが、両腕でさり気なく胸を挟んで大きさをアピールしていた。それを一瞬確認した昌晃君は表情を全く変えずに美桜ちゃんの方をじっと見つめていた。
「そうだね。今からどれくらい成長するかはわからないけどさ、身も心も大人に近づくって事だからね。受験勉強はないけど成績が悪かったら転校することになっちゃうみたいだし、勉強もしていた方がいいと思うよ」
「勉強は大丈夫です。璃々が転校してくるまでは主席だったんで。こう見えても私、記憶力は良いんで教科書も参考書も丸暗記してるんで数学の公式とかも忘れないんですよ。一度見たものは忘れないんです」
「へえ、それって将浩君の記憶力といい勝負かもね。でも、将浩君のとは少し違うのかも。美桜ちゃんは見たものを絵に描くことって出来る?」
「絵ですか。一応描けると思いますけど、上手く伝わるかはわからないです」
「じゃあ、将浩君の力に似てはいるけど別物っぽいね。同じような能力だからお互いの足りない部分を補えるいいパートナーになりそうなのにね」
昌晃君の言う、俺と美桜ちゃんが良いパートナーになりそうなのにという言葉は昌晃君以外の三人に引っかかってしまっているようだ。俺は別に美桜ちゃんと協力しなくても大丈夫だとは思っているし、美桜ちゃんは俺ではなく昌晃君とパートナーになれればいいと思っているはずなのだ。璃々にいたっては、俺に誰か特定の相手を作るような事はしたくないと言っていたし、それが自分の友達だというのは我慢ならないと言っていた。美桜ちゃんがビキニを取って上に何もつけていないことを証明するために俺に抱き着こうとしていたそうなのだが、それを鬼の表情で止めたというのを後から聞いて少し驚いてしまったこともあったのだ。
「そうでした。私の気になる男子なんですけど、誰が見ても付き合っていると思えるくらい仲の良い女子がいるんですよ。その二人に聞いても付き合ってはいないって言うんですけど、そういう人って彼女欲しいとかって思ってたりしてないんですかね?」
その言い方だと当てはまるのが昌晃君しかいないように思えるのだが、そんな事を言って昌晃君に気付かれても良いのだろうか。いや、これも美桜ちゃんの作戦なのだろうか。そうだとしたら、計算高い女だという事になってしまう。のかな?
「どうだろうね。その人じゃないからわからないけどさ、彼女が欲しいとか欲しくないは人によるんじゃないかな。僕のクラスでは彼女がいる男子は一人だけなんだけど、他の人から彼女が欲しいって聞いたことも無いし、その素振りを見たことも無いんだよね。誰かと付き合いたいって気持ちはあるかもしれないけど、今すぐ彼女が欲しいって思ってる人は意外と少ないのかもしれないね。僕の周りに限った話だけどさ」
「そう言うもんなんですね。でも、誰かと付き合えたらいいなとは思ったりしないんですか?」
「そうだね。あまり考えたりはしないかも。ほら、僕ってこう見えて普通じゃないからさ。普通の人だと合わないと思うんだよ」
「私も普通じゃないと思うんですけど、どうですかね?」
そう言いながらもまた胸の大きさをアピールしている美桜ちゃんがいた。それを怖い顔で見ている璃々もいるのだが、美桜ちゃんは気になる男子が昌晃君だという事を隠す気が全くないんだな。頭が良いからこそ変に隠したりしないで直接アピールしているという事なのだろうか。
俺にはその気持ちが全く理解出来ないのだが、美桜ちゃんがいいならそれでいいのだろう。
昌晃君はそんな美桜ちゃんのアピールをことごとくかわしているのだが、もしかしたら胸の大きさに全くこだわりが無いのかもしれない。愛華さんはそこまで大きくないというか、クラスの中でも小さい方だと思うので当然と言えば当然なのだが、それで大きい物に興味がないと思うようになるのもおかしな話である。普段見れないものに興味を持たないのは好奇心が無いからなのだろうか。そんなはずは無いと思うのだが。
「ねえ、美桜ちゃんってさ、あんなにアピールして何がしたいんだろうね。もしかして、見せるのが好きなタイプなのかな?」
「どうなんだろうね。人より大きいと自慢したくなるのかもよ」
「ああ、何となくそれは分かるかも。でも、そんなに自慢してたら変な人に絡まれちゃうのかもしれないのにね」




