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天才たちとお嬢様  作者: 釧路太郎
集団暴行事件編

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刺青男とは

 フランソワーズさんが暴漢を撃退したという話は誰にも知られることが無くひっそりと処理されてしまった。ケンちゃんは診断してもらうまでも無く大怪我を追っているというのはわかるのだが、彼らなりのプライドなのか事件を表沙汰に出来ないようであった。もっとも、自分が被害者であると訴え出たところで今まで行ってきた様々な悪事も明るみに出るわけなのだから泣き寝入りするしかないという事なのだろう。


「噂ではお前らのクラスの誰かが暴行事件の犯人を追い詰めたって聞いたんだけどさ、どいつがやったの?」

 昼休みになると毎回やってくる天樹透は同じことを飽きずに何度も聞いてくるのだが、それに答えるものは誰もいない。何があったか知らない皆が答えられないのは当然だが、俺と飛鳥君もあの時見た事を誰にも言うつもりはないのだ。ケンちゃんや樫本が可哀想だからとかではなくフランソワーズさんがやったことを話したとしても信じてもらえなさそうだからだ。

「何で吾輩のクラスの誰かがやったと思うのだ。その理由を言えと何度も言ってるだろ」

「なんでって、白髪頭の高校生が現場にいたって話を聞いたからだよ。白髪頭の高校生なんてこの辺だとお前しかいないだろ。知ってることがあれば教えろよ」

「白髪頭の高校生なんて珍しくもないだろ。それも、不確かな情報に踊らされて吾輩を犯人扱いするなど不愉快だ。その白髪頭の高校生を誰が見たのか教えてくれ。吾輩がそいつに聞けば吾輩の事を見たのかハッキリするだろう」

 天樹透は飛鳥君の事を誰から聞いたのか言うことは無かった。あの現場を目撃したのは俺たち三人を除けばこっそりと見守っていた神谷家の従業員の方たちだけだし、他に誰も目撃者がいないという事は確認済みなのだ。

 そうなると、その噂の出所はケンちゃんの仲間になるという事なのだが、たぶん女一人にやられてしまったという事は誰にも言えず飛鳥君の事だけを中途半端に話したのだろう。それをどこからか聞いた天樹透が飛鳥君を疑っているのだろうが、天樹透の様子を見ていると暴漢を撃退した英雄を探しているのではなく犯人として疑っているようにも見えるのだ。

「俺も噂で聞いただけだから誰が言ってたのかは知らねえ。俺は別にそいつを見つけ出してどうこうしようって言うんじゃないんだ。その白髪頭の高校生が本当にやったのかどうかってのを知りたいだけなんだ。本当にお前がやったんじゃないんだな?」

「しつこいぞ。吾輩は何もやっていないと言っているだろ。元魔王なので吾輩の力が強いと思うのは仕方ないのだが、今はまだ吾輩の力は封印されたままなのだ。その状態では相手を一方的にどうこうするなんてことは難しいと思うぞ」

「そうか。よく考えればそうだよな。お前もそんなに強そうには見えないし他に白髪頭の高校生がいるかもしれないもんな。お前はこの辺の見回りをしているみたいだし、何かわかったことがあれば俺にも教えろよ」

「教えるつもりはないのだが、こうも毎日教室へ来られるのも迷惑なのだ。何か見かけたらお前にも教えてやるからもうここへは来るな」

「絶対だぞ」

 天樹透は飛鳥君の事を鋭い目で睨みつけながらそう言って一枚のメモ帳を残して帰っていった。そこには天樹透の各種連絡先が記載されていたのだ。

「面倒なことになってしまったな」

 飛鳥君がそう呟くと、少し離れた席で見守っていた昌晃君が飛鳥君に近付いて何やら話をしていた。俺は食べかけの弁当に再び箸を伸ばしていたのでその会話の内容までは聞き取ることが出来なかったのだが、弁当を食べ終わって飛鳥君の方をチラッと見てみると、飛鳥君は天樹透に話しかけられていた時と同じように面倒くさそうな顔をしていたのだ。


「そう言うわけでは、昌晃も吾輩と一緒にパトロールをしたいといってきたんだ。もちろん、吾輩はそれを断っているのだが、断るのだったら一人でもやると言い出してしまって断れなくなってしまったのだ。もうあいつらが悪さをすることも無いとは思うのだが、その辺はどう思うかな?」

「そうですね。私がやったのはおそらく主犯などではなく実行犯の一人でしかないと思いますよ。天樹透が何か知っているようですが、私の見立てでは彼も犯行グループの一員ではないかと思います」

「どうしてそう思うんですか?」

「それはですね、あの時私があの男にしたことを断片的にでも知っていたという事が理由にあげられます。おそらくですが、あの男は病院にはいかずに痛みが引くのを待っているのでしょう。骨折などしていれば病院に行くこともあるのでしょうが、そこまで私も本気を出していないので見た目の割には軽傷だったと思いますよ。怪我をしていない人もたくさんいたので私の事を教えようと思えば教えることも出来るでしょうが、私のようにか弱い女性一人に一方的にやられたなんて誰にも言えないんじゃないですかね。言ったとしても信じてもらえないでしょうし、そんな言い訳をするのも情けないと思われてしまうんじゃないでしょうかね」

「そうだな。吾輩があいつらの立場でフランソワーズに一方的にやられてしまってもそれを誰にも言えないな。一番目立つ吾輩に罪を擦り付けようとするのも理解はできるが、そうなると天樹透は暴行犯たちに近い存在だと感じるのだが、それはどうなんだろうな」

「そこも調べているのですが接点は今のところ見つかっていませんね。お嬢様もそこまでこの件に関して興味をお持ちではないようなので神谷家の力に頼ることも出来ませんが、その時が来れば正確なことも調べられると思いますよ」

「そう言えば、昌晃君と何か話してたみたいだけど?

「そうだ。お前たち二人にも聞いておきたかったのだが、フランソワーズが倒した男の首に龍の入れ墨なんてあったか?」

 俺はそんな目立つものが首にあれば見逃すことは無いと思っていたのだが、ケンちゃんの首に龍の入れ墨があったという事は記憶になかった。

 俺と同様にフランソワーズさんも龍の入れ墨は見ていないという。

「そうか。昌晃の話によると、財布を奪ったやつらの中に龍の入れ墨が入っている男がいて、その男が昌晃を見ながら誰かと電話で話していたそうなのだ。お前たちも刺青が入った男なんて見てないよな?」

 俺はあの時に見た男たちを思い出しながらノートにその情景を描いてみたのだが、その中に龍の入れ墨が入っている人はいなかった。俺がそれを見ていないだけなのかとも思ったが、フランソワーズさんも俺の絵を見て改めて刺青の入った男はいなかったと言ってくれたのだ。

「それにしてもお前は絵が上手いな。それだけ上手に早く描けるのは才能だと思うぞ」

「でも、これしか出来ないからね」

「そこでだ、お前さえよければ吾輩と昌晃と一緒に数日の間だけでもパトロールしてくれないか。もちろん、無理にとは言わないが」

「俺は別にかまわないけど、フランソワーズさんはどうしますか?」

「私も一緒に行きたいとは思いますが、何日もジェニファーとエイリアスに負担をかけるのは申し訳ないので辞退させていただきます。ですが、宇佐美さんにはこの事をお伝えしておきますのでご安心ください」

 あれだけ強いフランソワーズさんが一緒じゃないというのは少し不安ではあったが、人気のないところには行かないという条件を付けてくれるのであれば一緒に行くという事になった。


「そうなんですか。この地域のためにもなりますし素晴らしいことだと思いますよ。でも、危険な事だけはしないでくださいね」

 一応綾乃にも報告はしておいたのだが、パトロールに行くことを止められたりはしなかった。少しだけ止められるかもしれないという事を期待していたのだが、みんなのためにも俺はパトロールに行くことになったのだ。嫌だという事ではないのだけれど、心のどこかでは行くのを止めてもらいたいという思いもあったと思う。

 なぜかわからないけれど、俺がパトロールに行くことを止めるものは誰もおらず、妹の璃々も伸一さんも俺の事を勇敢だと褒めてくれたのだ。勇敢な事だと褒められれば褒められるほど気後れしてしまい、何か恐ろしいことに関わってしまったのではないかという思いも出てきたのだが、今更引くに引けなくなってしまったのだ。

「事件が解決するのを期待してますからね」

 綾乃の真っすぐな目に見つめられた俺は少しだけあった逃げたいという気持ちを隠し、その思いに応えたいと心から思うのであった。

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