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天才たちとお嬢様  作者: 釧路太郎
集団暴行事件編

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危ない橋は渡るべからず

 世の中には良い人と悪い人という区分ではわけられない人が多い。ある側面から見ると良い人でも別の見方をすると悪人だったりもするのだ。天樹透という男はまさにそのような感じの男で、周りの人達からは高く評価されているのにもかかわらず関わりの薄いものから見ると卑怯な事でも悪いことでも何でもする悪人と思われているようだ。

 俺達のクラスにやってきたときの態度を思い出すとその通りだなと思うのだが、最終的には昌晃君を襲った相手に対して憎しみを持っているように見えたのだ。飛鳥君のように昌晃君を襲った相手をどうにかしてやろうと思っているのではないか、そう見えるくらいに鬼気迫る表情をしていたように俺の目には映っていた。

 俺としてはあまり暴行事件に関わりたいとは思っていないのだけれど、昌晃君が被害に遭っていて飛鳥君が犯人を探す気でいるという事がどうもスッキリしない。俺も飛鳥君のように犯人を捜した方がいいのではないかという思いが離れないのだ。

 特に買うものなんてないのだけれど、昌晃君を襲った犯人の手がかりがあるかもしれないと思ってこんな時間ではあるがコンビニにでも行ってみようと思い立ってしまった。欲しいものは特にないのだが、葉書か切手でも買えばいつか使うだろうと思って小銭しか入っていない財布を手に持って部屋を出たのだが、扉を開けるとそこにはフランソワーズさんが何の感情も持ち合わせていない人形のような顔で立っていたのだ。

「うお、驚いた。こんな場所で何やってるの?」

 無表情だと思っていたフランソワーズさんは俺に対してあきれたとでも言いたげにため息をつくと持っていたファイルを俺に手渡してきた。

 ファイルには天樹透と書かれているのだが、これを渡すためにたまたまこのタイミングで来たのか俺が部屋を出るまでずっと待っていようとしたのかわからずに戸惑っていた。だが、フランソワーズさんはそんな俺に全く構うことも無く同じファイルを開きながら俺に一歩近付いてきたのだ。

「天樹透について宇佐美さんが調べてくれたのですが、はっきり申し上げて皆さんは彼に関わるべきではないと思います。良くも悪くも周りに影響を強く与えるタイプの人間ですし、将浩さんにもお嬢様にも悪影響を及ぼす可能性が高いと思いますので」

「飛鳥君はどうかわからないけどさ、俺達は別にあの人と関わろうなんて思ってはいないよ。向こうから来たら相手をしないわけにはいかないけどさ、そうでもなければ関わることも無いと思うよ」

「それを聞いて安心しました。ですが、こんな時間に財布をもってどこに行こうとしてるんですか?」

「いや、ちょっとコンビニまで行って葉書を買ってこようかと思って」

「こんな時間に一人で出歩くなんて頭がおかしいのですか。将浩さんが事件の被害者になりえるという考えはないのですか。少しくらいは危機感を持って行動した方がいいですよ」

 そんな事は百も承知なのだが、どうしても俺は今夜に確かめないといけないことがあるような気がしていた。明日は天気も崩れるという予報が出ていたという事もあったのだが、確証はないまでも今夜は誰かが被害に遭ってしまうという予感がしていた。

 なぜそう思ったのか理由はわからないが、今夜に限ってはその予感が当たるように思えていたのだ。たぶん、そんなことは無いと思うのだが、本来であれば今夜被害に遭うであろう見知らぬ誰かさんの代わりに俺が襲われることになると思うのだが、それはそれで被害者がいなくなるという事なので良しとしよう。

「葉書も切手もコピー機の使用も全部この家で事足りますよ。わざわざ外に買い物に行く必要なんて無いと思いますし、ましてや今はやむを得ない場面を除いて外出は学校側から禁止されているですからね」

 葉書を買うという事がやむを得ない事態かと言われれば黙ってしまうしかないのだが、俺が襲われてしまった時のために何か言い訳も考えておく必要がありそうだ。だが、目の前にいるフランソワーズさんが俺の外出を認めるとは思えず、どうにかして事件の事を考えないようにしようと思っていたのだ。でも、誰かが見ていると思われるテレビは隣の国の話題やこの辺りで起きている集団暴行事件何かを伝えているのだが、どれもこれも原因がハッキリしていないようだ。

「将浩さんが一人でコンビニに行くことはとてもではないですが容認することは出来ません」

「そこをなんとかって言いたいところではあるのだけれど、フランソワーズさんが心配してくれているのはわかるよ。でも、今夜はなんとなく外に出ないといけない予感がしているんだよね。理由はわからないけど、今夜を逃したら犯人を見付ける手がかりを失ってしまうような気がするんだよね」

「その予感が何なのかわかりませんが、旦那様からもお許しが出ていますので私と一緒にコンビニに行って何も無ければ自動販売機がたくさんあるあの駐車場に寄ってみましょう」

 俺はてっきり止められるのだと思っていたのだが、フランソワーズさんは俺と一緒に外に出て見回りをするつもりだったようだ。そうか、一人で出歩くなとは言われていたけれど、一緒に外に出れば一人で出歩いているという事にはならない。何ともとんちの効いた柔軟な発想をするもんだと感心してしまっていた。


「どうですか。何か気付くことはありましたか?」

「いや、全く何も普段と変わらないと思ったよ。そんなに都合よく犯人に遭遇するとも思えないし、フランソワーズさんが行きたいといってる駐車場に行ってみようか」

 コンビニで葉書を買わずに俺は肉まんを二つ買ってフランソワーズさんに一つ渡したのだ。普段も肉まんなんて食べている印象のないフランソワーズさんではあるが、独特な形をしたこの食べ物を受け取ると半分に割って少しずつ食べていたのだ。

 歩きながら食べるのは行儀がよろしくないというのは重々承知なのだが、これから駐車場に向かって家に帰る頃にはこの肉まんも完全に冷めてしまっていた事だろう。

「この肉まんって美味しいんですね。テレビで何度か見た事はあったんですが、どこで売っているのかもわからず今まで食べる機会に恵まれませんでした。ですが、こうして将浩さんにプレゼントしていただけて心からお礼を申し上げます」

 そこまでお礼を言われるような食べ物ではないと思うのだが、フランソワーズさんから見ると得体のしれない未知の食べ物という事になるのではないだろうか。残念ながら俺はフランス料理に全く詳しくないので何かの賞を頂くという事は少し難しい条件ではあったのだ。

「何も出ないのは良い事ですが、こうしてうるさいエンジン音はいい加減黙っていて欲しいですよね」

「そうだね。こんなところまで聞こえるのってちょっと嫌だよね」

 ほんの少しだけではあるのだが、フランソワーズさんが好戦的になっているように思えて仕方がなかった。

「何も無いのは良いことではあるのですが、何か変った事でもあると思いますか?」

「ありそうな気もするけど何も起きない予感もあるんだよね。フランソワーズさんは何かあると思う?」

「そうですね。今からでも対策をしようと思えばできるのですが、相手が無抵抗だったりした場合は何もしないでいなくなるのを待つしかないよね」

「そうなったら旦那様に相談するしかないんですが、そんなに思い通りに事が運ぶとは思えないんですけどね」

 俺もフランソワーズさんの考えにはほぼ同意なのだが、あくまでも俺は今夜何か事件に巻き込まれる可能性があると思っているだけだし、実際には何も起きずに平和が戻ってくるのが一番なのだ。当然そんな夢のような出来事が起こるはずもなく、俺とフランソワーズさんは自動販売機がやたらと設置されている駐車場へと向かうのであった。

 駐車場が近付くにつれてバイクや車の騒音が響いているのだが、近い距離に住宅は存在していないのでそこまで迷惑が掛かっているとは思えない。でも、実際に騒音をたてているのは紛れもない事実であるのでどうにかするべきなのだろう。

 そんな時、俺とフランソワーズさんは駐車場から出てくる一台のバイクを運転しているのが天樹透なのではないかという疑念が浮かんでいたのである。昌晃君が言っていた通りでヘルメット越しに顔を見ようと思っても何のパーツも見えなかったのである。

 どうして俺とフランソワーズさんがそのような事態に巻き込まれつつある現状において何か有効な手立てはないのかと考えてみたのだが、その答えにたどり着くことは一生無いのではないかと思ってしまった。

「さっきすれ違ったバイクの人ってさ、天樹さんじゃない?」

「私もそう思います。でも、どうしてそう思ったのかはわからないですね」

 お互いになぜそう思ったのか説明は出来ないのだが、なんとなくそうだと思ったのであったなら間違いではないのではないかと思い始めていた。

「そうだ。今度ジェニファーとエイリアスにも肉まんを買ってあげようかな。でも、出来立ての方が美味しいって言いますし、コンビニに二人を連れて行こうかしら」

 フランソワーズさんは呑気にそんなことを言いだしていたのだが、俺とフランソワーズさんは駐車場から出てきた集団に囲まれてしまっていたのだ。昌晃君が味わった気持ちはこんなところなのかなと思っていたのだが、十人以上いる喧嘩も強そうな男に囲まれているのは生きた心地がしなかったのであった。

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