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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第八十四夜 睡眠学習

 Rさんは高校生の時にこんな不思議な体験をしたという。

 当時大学受験を控えていたRさんは夜遅くまで勉強をしていた。すると急激な睡魔に襲われたという。眠気覚ましのコーヒーや清涼タブレットの効果も甲斐なく、Rさんは机に突っ伏して眠ってしまった。

 次に見た景色はベッドから見上げる、部屋のカーテンから零れる朝日である。毎朝目が覚めた時に見る景色……しかしRさんはそれが一瞬にして夢だとわかった。なんだか実感がない、ふわふわとした感覚があったという。

 そうして視点はまるでRさんが毎日過ごしているようなルーティンに合わせて動いていく。顔を洗い、歯を磨き、ワイドショーを見ながら朝食を摂る。制服に着替え、自転車にまたがって学校に向かう。そこまで事細かに再現していく。

「毎日していることをわざわざ夢に見るなんて、よっぽど病んでるのかな。受験ノイローゼってやつ?」

 そう思いながら、学校に到着する自分自身を見守る。

 金曜日の時間割だった。感覚は全くないのに、先生の声ははっきりと理解できる。

「あーあ、寝ているときでさえ勉強するの嫌だなー。早く覚めないかなー」

 しかし、そんな願いも届かずとうとうRさんはその日すべての授業を聞き終えてしまった。

 帰り道も、帰宅して家族と夕食を摂るのもRさんは全部夢に見た。長いように思えるし、一瞬のことのようにも思える。でもどうしてこんなに細かい部分まで見えるのだろう。きっと明日起きた時には全部忘れてる。夢ってそういうものだから。夢の中のRさんがようやく寝床に着いたところでようやく目が覚めた。

 次に見た景色はベッドから見上げる、部屋のカーテンから零れる朝日……ではなく、まったく見たことのない白い天井だった。一瞬、これも夢だと思った。夢のまた夢というのはこれまでもぼんやりと見た記憶があるし、変な夢の続きは決まって変な夢なのだ。

 しかし、それは夢ではなく現実だった。

 Rさんはいつの間にか病院に連れてこられていたらしい。隣にいる母と看護師。私って本当に病んでたの?

 状況が飲み込めないRさんに母はゆっくりと説明した。

「あんた今まで丸一日死んだように眠っていたのよ。昨日の朝なかなか起きてこないから様子見に行ったら机で寝てるし、風邪でも引いたら大変だから起こしても全く反応しないから急に心配になって病院に連れてきたの。精密検査してもらっても異常はなし。ただ眠ってるだけですって。お母さんなんだか大げさに騒いじゃって恥ずかしいわよ。先生は勉強のしすぎで疲れたんじゃないかって言ってたけど、あんたそんなになるまで勉強してたの?」

「してない。してなくはないけど、そんなにはしてない」

「そうよねえ……まったく、もう心配させないでよね」

「ごめん。あ、そういえば学校は?」

「昨日休むって伝えてある。週末で良かったわね。土日でゆっくり身体休めて、月曜からまた頑張りなさい」

 結局、身体には異常はないということで、その日のうちに家に帰ることができた。

 土日を挟んで、月曜日にRさんが学校に登校すると友達や先生からひどく心配された。急に病院に運ばれたことは伝わっているらしい。だが、それがただ寝ていただけとはとてもじゃないけど恥ずかしくて言えない。

「ちょっと疲れたみたいで……ゆっくり休んだから大丈夫!」

 そう説明してなんとか納得してもらうことができた。

「ねえ、金曜日に休んだ分のノート見せてあげる」

 優しい友達がノートを見せてくれた。しかし、そこに書かれているものは妙に既視感がある。


 私、この内容、全部知ってる。


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