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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第八十三夜 心霊ロケ その二

「いやー、Mさん。さっきの超怖かったっすわー!」

 Cさんは黒電話が鳴ったことを番組サイドの演出だと思っている。しかし、Mさんたち撮影スタッフもあまりの不可思議な出来事に訂正することも恐ろしくてできなかった。

 しかし、ロケをここで中断するわけにはいかない。これは心霊番組だ。むしろ説明がつかないことが実際に起きて願ったり叶ったりというわけだ。Mさんは気を取り直して次のシーンに向かうことにした。

「次はこちらの浴場……水辺にはよく幽霊が集まるなんて聞きますけど、なんと今回はここで実際に僕が裸になって、お風呂に入ってみたいと思います。ってマジで言ってます?」

 事は台本通りの展開に進んでいく。Cさんにはタオル一枚に着替えてもらい、番組が準備した子供用プールの中に入ってもらうことにした。そこで何か怪奇現象が起きるかどうかを再びモニタリングする。

「いやーこんな素敵な心霊スポットで入るお風呂は気持ちがいいですねー」

 水も入っていないのに、肩にかけるような仕草をして、Cさんは恐怖で声を震わせながらコメントする。

 しかし、そこでは何かという出来事は起こらなかった。そばで見ていたIさんも何も言わずにその光景を見ているだけだった。

 ひとしきりふざけた画を撮ったところで、そろそろ次のシーンに移ることにした。

「Cさんオッケーです。着替えてもらって次行きましょう」

「了解しました!」

 Cさんがプールから飛び出すようにして出てくると、Mさんたちはぞっとした。

 Cさんが腰に巻いていた白いタオルが、真っ赤に染まっていたからである。

「え? え、え? 嘘、なにこれ? 血?」

 その場にいる誰もがパニックだった。Cさん当人も訳のわからない状況にリアクションを取ることすら忘れて右往左往している。

「怪我したんですか?」

「い、いや、別にどこも痛くないんですけど……」

Mさんが急いでプールの中を覗き込むと、そこには桶一杯分ほどの血だまりが出来ている。

「なんだこれは!?」

 再び騒然とする撮影陣。しかし、静観していたIさんだけは冷静な素振りをしている。そうして呆れたような口調で呟いた。

「だから打ち合わせの時にさんざん言ったんですよね。こういう場所であんまりふざけたことしないほうがいいって」


 Mさんはその後についてこう語った。

「それから、あのロケはすぐに中止にしました。もう誰も続けられるような状態じゃなかったし、なにより、僕自身一刻も早くその場から離れたかったですから。もちろん、そのテープはお蔵入りです。一応使えそうかどうか確認してみましたけど、冒頭の外のシーンからずっとノイズが入っていて、到底テレビで流せるような映像じゃなかったので……」


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