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怪談百物語  作者: 安城朱理
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第八十二夜 心霊ロケ その一

 編集部の伝手で某テレビ局のディレクターMさんに話を聞くことができた。

 Mさんは毎年、夏の特番として組まれる心霊番組を担当していた。その番組というのは各プレゼンターが心霊スポットへロケに行き、そこで撮れた恐怖映像をスタジオで鑑賞し、コンテスト形式で審査するというものだった。心霊を取り扱うとはいえ、所詮は『バラエティ番組』だ。方針としては怖さよりも面白さを重視して、どの年代にも楽しめるような番組となっていた。

 しかし、その年のロケでは奇妙なことが起きた。

 Mさんはプレゼンター役となるお笑い芸人のCさんと、霊能力者のIさんと一緒にロケに同行した。舞台となるのは千葉県の某所にある山奥の廃病院。そこは昭和三十三年まで精神病患者のサナトリウムとして営業されていた小さな療養所だという。地元の住民でも近寄るものは滅多にいないらしく、Mさんたちが管理者の許可を取ってロケハンした際には、かつて清潔に保たれていたはずの院内はひどく荒廃し、いかにも何かが出そうな雰囲気が醸し出されていた。

 一行は山の中腹でロケバスから降り、舗装されていない山道を歩くこと十数分。辺りは木々が生い茂り、撮影用の大型ライトで照らしてみても奥に届かないくらい闇の霧が深い。ようやく入り口となるフェンスを越えると、病院の白い外壁が月に照らされてぼんやりと姿を現した。

「先生は何か感じますか?」

 Iさんに訊ねると、頷きながら「ええ、いますよ」と軽く答えた。そのあっけらかんとした態度にCさんは大仰にツッコむ。

「いや、反応が軽すぎますよ!」

 深夜二時、ロケの撮影陣はCさんの明るさに救われていた。

 準備が整い、ようやく撮影がスタートする。まずは病院の全景が映り込む場所からCさんの進行でIさんが紹介され、今回のロケのあらましを説明してもらう。

「まずは入り口のロビーにある壊れた黒電話。鳴るはずのないこれが突然鳴りだすという噂があるんですが、今回はそれを検証してみたいと思います」

 当然、そんな噂はない。番組サイドででっちあげたもので、そもそもロビーには黒電話なんてものはなかった。今回のロケのために黒電話を準備して仕込んだのである。

「Cさんには、ロビーで一人になってもらって電話が鳴るかどうか検証してもらいます」

「ええーーー!!! それ、めっちゃ怖いじゃないですか!!!」

 派手なリアクションを取るCさんは、撤収していくスタッフたちを寂しそうな目で見送り、ハンディカメラを持ちながらしぶしぶロビーに居残った。Mさんたちは設置した赤外線カメラで、仕込んだ黒電話の前に座るCさんを撮り、それをIさんとともに外でモニタリングする。

 しかし、当然のことながら電話なんて鳴るわけがない。「いかにも」な雰囲気が出て、それにCさんが適当にリアクションを取ってもらえればそれで充分だった。

 Mさんの期待通り、Cさんは何でもない虫の声にもオーバーリアクションしたり、自分の影に怯えたりして応えてくれた。まずまずの撮れ高だろう。そろそろ切り上げて次のシーンに移ろうとCさんに呼びかけようとした瞬間。

 リリリリリリリリリリリリリリ

 黒電話の音が廃病院の中から聞こえてくる。途端に、Cさんは絶叫しながらひっくり返った。

「おい、誰の演出だ!?」

 Mさんは予定にない展開にスタッフを見遣る。しかし、そこにいる撮影スタッフ全員の顔が青ざめている。スタッフが勝手に鳴らしたものではないのは確かだった。じゃあ、一体なぜ……?

「Iさん、これは一体?」

 そう訊くと、Iさんは軽くこう答えた。

「だからいるって言ったじゃないですか」


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