第十九話 ~志信VS美緒「後編」~
美緒の親で始まった麻雀地区大会予選の第一回戦。東場は志信と美緒による、一騎打ちの様相を見せていた。
東二局、志信はタンヅモドラ一の四千点をツモあがる。続く東三局は志信の親だったが、美緒が白のみ千点で勢いに乗ろうとする志信の親を蹴る。
東四局は、全員ノーテンのまま流局となった。
【現在の点数】
志信:112,000 美緒:114,800 西坂学園大将:91,400 東雲高校大将:81,800
『南一局』 親:『美緒』 ドラ:『発』
(くっそ、志信の奴……やってくれんじゃねえか……)
美緒は舌打ち交じりにツモを引いていた。東場は一進一退の攻防のように見えてはいたが、実際のところ点棒を多く取られている分、美緒の方が分が悪い。
もしこの親をアッサリ流されでもしたら、シャレにならないことを美緒は理解していた。
【美緒の手牌】
三三九①①⑦⑦66東北北中東
(一応、七対テンパッたが、どうする……)
まだ六巡目であることもあり、いつもの美緒であればノータイムでリーチをかけるところだろう。だが、東二局の山越しロンが効いているようで、美緒は二の足を踏んでいた。
(まあいい。とりあえず一旦ダマ(リーチをかけないこと)にして、様子見っか。ドラの所在も気になるし……な)
結果、美緒はリーチをかけないことにしたようだ。志信を警戒ということも勿論あったが、ドラの「発」がまだ一枚も見えていないことが、気になっていたのである。
(来た……か)
八巡目、有効牌を引き入れた志信はテンパイに至っていた。手牌と周囲の捨て牌を確認した後、どうすべきか考える。
【志信の手牌】
一二三五五七九②④⑥⑦⑧⑨⑤
(とりあえず「②」を切れば「八」待ちテンパイだけど、役がない状態のカンチャン待ちはちょっと苦しいかな……)
志信の手は、マンズかピンズの引き次第では一気通貫も狙える状態である。親の美緒の出方も気になるため、志信もリーチをかけずに、「九」を切って様子を見ることにする。
しかし次の順、引いてきた牌を見て、志信は思わず手を止めてしまった。
【志信の手牌】
一二三五五七②④⑤⑥⑦⑧⑨発
(よりによってドラの「発」か……)
志信の手を止めたもの。それは生牌かつドラの「発」だった。現在の状況を見た志信は、咄嗟にいくつかパターンを考察する。
(一番怖いのは、美緒にポンを宣言されることだ。それで親のマンガンが確定してしまう。「発」を抱える方法もあるけれど、リーチをかけられてしまえば、「発」は切れなくなる。もう一枚が重なるのを待つべきか……)
少し考えた後、結局志信は「発」を切る選択をしたようだ。しかしこの選択が、志信にとっては手痛い結果に繋がってしまう。
「……ロン! 発ドラ三のマンガン!」
手を倒したのは、現在三位につけている西坂学園だった。放銃してしまった志信は、思わず顔を顰めてしまったが、すぐに深呼吸すると、落ち着くように努めた。
(落ち着け。とりあえず美緒の親は終わったんだ。ここから挽回すればいい……)
【現在の点数】
志信:104,000 美緒:114,800 西坂学園大将:99,400 東雲高校大将:81,800
『南二局』 親:『西坂学園大将』 ドラ:『6』
(へっ、ザマぁねえな。志信!)
美緒は心の中で毒付いていた。親を流されてしまったのは痛いが、志信が振り込んだことで、二位との点差は一万点に広がった。更に、先ほどリーチをかけなかったことが効いているのか、二巡目でありながら美緒の手牌は、既にテンパイに達していた。
【美緒の手牌】
九九②③④⑤⑥⑦3678白4
(現時点でリーピンドラ1。ツモや裏ドラが絡めば、マンガンもありえる。ここは迷わず行くぜ!)
「リーチ!」
「白」を切っての美緒の先制リーチ。志信は焦りを隠し切れなかった。まだ自分が親の番ではないものの、ここで差を広げられるのは何としても避けたかった。
(どの道この早いリーチじゃ、降りたところでかわし切れないし、ツモられたら同じだ。ギリギリまで攻めて行こう)
そこから二巡が経過し、志信は「6」と「5」の順にツモ牌を引いてきた。そして迎えた四巡目、改めて志信は自分の手牌へと目を落としていた。
【志信の手牌】
二三②④⑥234456995
正直なところ、実に悩ましい手牌だった。受けの広さだけ考えれば、今引いてきた「5」を切るのも一つの手である。だが志信は、連続で引いてきたソーズに、何か意味のようなものを感じていた。
(本来ここから染め手に走るのは愚行。下手したらマンズやピンズを外す段階で、打ち込む可能性もある。けど……)
志信の背中を直感にも感性が走る。早いリーチにも関わらず、志信は美緒の待ちをソーズと決め、ピンズを外していく道を選んでいた。
そして七巡目、有効牌を引いた志信は、テンパイへと辿り着いていた。
【志信の手牌】
二二三1234455699一
(ここが限界……かな)
チンイツを目指すなら、残るマンズを切っていく必要がある。しかし、さすがにそこまでの時間はないと感じた志信は、この形で勝負することに決めた。直感で、ここが勝負所であることを、感じ取っていたのだ。
「……リーチ!」
そうして打ち出される「二」を、美緒は恨めしそうな目で見つめていた。
(この野郎、真っ直ぐ来やがった……!)
早いリーチとは言え、トップ取りがかかった大事な一局、通常ここまで大胆に出ることは難しい。だが美緒は、志信が振り込むことも覚悟した上で、踏み込んできたことを感じていた。
そして二巡後、美緒は掴んだドラの「6」を見て、強く舌打ちした。危険牌であることはわかってはいたが、リーチをかけている以上、アガリ牌以外は、切るしかなかったのだ。
「この……クソッタレが!!」
打ち出された「6」を見て、志信は薄く微笑むと、ゆっくりと宣言した。
「ロン。リーチ、ピンフ、イーペイコー、ドラ二……」
更に志信は、裏ドラをめくると、そのまま卓へと置いた。そうして表示された牌は「一」(裏ドラは「二」になる)だった。
「裏ドラ一つで、跳満だ!!」
【志信の最終手】 裏ドラ:「二」
一二三1234455699
途端、周囲から沸き起こる大歓声。怒りに震える美緒は、持っていた手牌を強く握り、そのまま卓へと突っ伏した。
「なんで……だ。なんでこの形で負けちまう……んだよ」
美緒はあまりの悔しさに、身体を震わせていた。両手を強く握りながら俯く美緒に、志信はゆっくりと告げた。
「有利は有利であって、勝ちってわけじゃないんだ。麻雀は最後まで、何が起こるかわからない……でもだからこそ、楽しいんだよ」
美緒は志信の発言を受けて、顔を上げたが、そこには晴れやかな笑みを浮かべる志信の姿があった。いくら会心のアガリだったとはいえ、自分を嫌っている志信が、笑顔を浮かべられたことが、美緒には信じられなかったのだ。
次の南三局、美緒は全力でアガリに向かったが、残念ながらテンパイには至らなかった。結果、流局となったが、同じく志信がノーテンだったため、場はオーラスである南四局を迎えていた。
【現在の点数】
志信:115,000 美緒:101,800 西坂学園大将:98,400 東雲高校大将:84,800
『南四局 オーラス』 親:『東雲高校大将』 ドラ:『五』
【美緒の配牌】
三五五⑤⑧2234679発
(どこだ。どこでアタシは間違っちまったんだ……)
美緒は虚ろな表情で、呆然としていた。一応手は進めては見るものの、どうにもアガれそうな気がしない。美緒がここから逆転するには、直撃でマンガン、ツモならハネマン以上が必要だった。
「ポン!」
十巡目、ラス親である東雲高校の大将が、西坂学園の大将が捨てた「白」に対し、ポンを宣言した。その時、咄嗟に美緒は周囲の河を見渡していた。
【美緒の手牌】
五五⑤⑤⑥⑦⑧223467
ふと美緒の目に、上家の五順目に切っていた「五」が写る。美緒の胸がドクンと大きく脈打つと、彼女は息を殺して隙を伺っていた。対面の白を取ろうと手を伸ばす東雲高校の大将。その時、一瞬死角が生まれた。
(……今だ!)
美緒は咄嗟に上家の「五」に向かって手を伸ばそうとした。だがその時、自分を真っ直ぐ見つめる志信の視線が突き刺さるのを感じていた。
(……チッ)
美緒は心の中で舌打ちすると、伸ばそうとした手を強く握っていた。恐らく今すり替えを行っていれば、警戒していた志信に腕を掴まれてしまっただろう。
実行不可と判断した美緒は、諦めざるを得なかったのだ。
遠くなりそうな意識の中、美緒は誰かが牌を倒す音を聞いていた。それは、志信が手牌を倒した時の音だった。
【志信の最終手】
二三六六七八九11456
「……ロン。ピンフのみ。千点」
西坂学園の大将が切った「一」に対し、志信はロンを宣言していた。得点は千点だけだったが、それは行われていた試合が終了したことを示していた。
会場に響く試合終了の合図に、見守っていた巡達は、一斉に立ち上がったのだった。
プチ麻雀講座
・「一気通貫」について
同じ種類の数牌で1~9までの並び数字を作る役で、役が二つ(鳴くと一つ)付くんだ。以下のような形になるよ。
①②③④⑤⑥⑦⑧⑨456東東
面前で作って手を伸ばすも良し、鳴いてスピードを重視してもよい、割と万能な役だね。同じ種類の牌が5枚以上あると、意識してみてもよいかもね!




