終章
全てが終わった後、知愛は制服に着替えて、いつものように家に帰った。
源蔵には迎えの車は必要ないと連絡したが、豪の誘拐とその救出に関わったことは伝えていない。
しかし、豪の父親の狙撃についてはニュースで知っているはずなのに――夕食の時、何も聞いてこないところを見ると、祖父なりに色々と把握しているんだろう。そう、知愛は思って食事が終わった後に話を切り出した。
「……お祖父さん」
「何だ?」
「傭兵業を再開することにしました。学業を優先しますが時々、家を留守にします」
「…………」
沈黙が、二人の間に落ちる。
そして知愛に返されたのは、やれやれというような源蔵のため息だった。
「本当にお前は、母親そっくりだな……真紀も自分で決めて、飛び出して行きおった」
「お祖父さん……」
「学校をやめない辺りは、坊達に感謝するかの……出かけても、戻ってくるならそれで良い。あと、わしに花嫁姿を見せてくれるならな」
「花嫁姿……ですか」
反対されなかったことにはホッとしたが、続けられた言葉に戸惑った。勿論、それは白無垢かドレスか、ではなくて。
「お祖父さん、相手がいませんよ」
「おや、坊達では不満か?」
「不満なんて、そんな……それぞれ、とても魅力的だと思います」
強引な半面、可愛いげがあり放っておけない豪。
真っ直に気持ちをぶつけてくるのが微笑ましい瑛。
真面目で温厚、だが夢を諦めない芯の強さを持つ克己。
そんな彼らだからこそ、守りたいとも力になりたいとも思うのだが。
「男として、抜きん出る者はおらんか……それなら前に挨拶に来た、お前の傭兵仲間はどうだ?」
「ファーザー達ですか?」
答えた知愛に、源蔵が尚も質問を続けてくる。
天使のような美貌と、怜悧な切れ味を持つファーザー。
魔性を感じさせる容姿と、子供のような純粋さを持つルー。
人が好く、明るいムードメーカーであるマーク。
「彼らは、私の大切な家族です」
「わしとしては、性質の悪い輩よりは賛成出来るがの」
性質の悪い、とは圭威のことだろうか? テロリストを捕まえて、それだけで済ませるのもどうかと思うが。
再び、やれやれとため息をつく源蔵に、知愛はしばし考えて口を開いた。
婚約者として知り合った豪達もだが、彼らに想われるようになってから(兄のようなマークはともかく)ファーザー達からも好かれていると気づいた。
……そんな二人とも、あるいは豪達とも。
以前、克己に話した時とは違う。今なら誰かを選んだとしても、他の者達との付き合いが簡単に終わるとは思わないのだが。
「誰かを選んだら、誰かが傷つくじゃないですか」
「……知愛」
「ずるいんですけど……それじゃあ、私は幸せじゃないんです。だから、誰も選びません」
「……それで、皆が離れてもか」
「はい、皆さんが幸せになれるなら……それが、私の幸せです」
花嫁姿を見せられなくて、ごめんなさい。
そう話を締め括って頭を下げた知愛に、源蔵が軽く目を見張った。そして、ふ、とその目を笑みに細める。
「だったらわしは、ずっと孫を傍に置いておける」
「お祖父さん……」
「もっとも、彼奴らはしつこそうだ……いつまで、お前はそう言ってられるかの」
からかうように言われたのに、知愛もまた頬を緩めた。
それから微笑んだまま、知愛はキッパリと祖父に答えた。
「お祖父さんが言ったんじゃないですか。私は母に似て、頑固だって」




