同期は将来有望な探索者らしい
魔装を手に入れてから数日。
僕は相変わらず墓ダンの第三階層を中心に探索していた。
スケルトンソードの扱いにもだいぶ慣れてきたため魔物を倒す数も以前より増えていたが、お目当ての素材はよっぽど確率が低いのか、それとも僕の運が悪いのかまだ入手できていない。
今日も少し落胆した気分で探索を終えて地上へ戻ると、いつものように換金のために受付へ向かう。
「換金お願いします」
「ありがとうございます。少々お待ちください」
いつもの受付のお姉さま──藤原さんに素材を渡す。
藤原さんは査定機に素材を入れた後モニターを確認している。
換金のやり取りだけだと会話のデイリーミッションが達成されないため、いつもこの間に藤原さんと会話をするようにしている。
さて今日は何を話そうかと考えながら、とりあえず口火を切ろうとして僕はいつもと違う藤原さんの様子に気づいた。
藤原さんは少し眉間に皺を寄せながらモニターをじっと見つめている。真剣な顔で仕事しているのはいつものことだが、それとは違う険しさも感じるような表情だ。
僕が声をかけて良いものかと戸惑っていると、藤原さんはおもむろに顔を上げて僕に視線を合わせた。
その顔はどこか意を決したかのような表情だった。
そして僕より先に藤原さんが口を開いた。
「あの、」
「もしかして、君が山本くん?」
「はい?」
何か言いかけた藤原さんを遮ったその声に僕は驚いてばっと振り返った。
そこには僕と同じくらいの年齢に見える男が立っていた。
明るい茶色の髪に、男性アイドルのような爽やか系の整った顔だ。
装備もしっかりしていて、僕よりも探索者らしい雰囲気がある。
「あ、いきなりごめん。俺、最近探索者になったんだけど、君もだよね? 君のことちょっと気にしてたから思わず話しかけちゃって」
せめて僕が受付から離れてから話しかけて欲しいものだ、と思いながらも流石に無視するわけにもいかない。
「ええと、どちら様で……?」
僕の方はそちらのことを知らないぞ、と思ってそう返事をすると、なぜか少しむっとした雰囲気で彼が応える。
「ああ、海斗でいいよ。よろしく。でも山本くんはもう少し情報収集に力を入れた方がいいかもね。探索者にとって情報は時に生死をわけるほどだからね」
そう言った後、海斗は少し慌てたように言葉を付け足した。
「あーっと、良かったら俺と情報交換でもする? せっかく同じ時期に探索者になったみたいだし。えっと、とにかくよろしくね」
そう言って、海斗は手を差し出してきた。
僕もその手を握る。
「知ってるみたいでしたけど、僕は山本楽です」
「ああ、知ってる知ってる。俺がよく話してる受付の莉奈さんから聞いてたんだ」
どうやら海斗の方は僕のことを知っているらしい。
そして、僕も海斗の顔は知らなかったが、海斗という名前には少しだけ聞き覚えがあった。
たしか、藤原さんとの会話で最近探索者になった有望な新人がいるという話を聞いたことがあり、その探索者がそんな名前だった気がする。
もしかしてこの人のことだったのか。
というかさっきの言動はつまるところ、将来有望と言われている自分を知っていないことにむっとしたんだろうか。
「それで、僕に何か?」
見かけたから挨拶をしに来ただけなのだろうか。
「ああ、いや……」
海斗は少しだけ言いづらそうにしたあと、すぐに笑顔に戻った。
「ちょっと気になったんだよ。君、いつも一人で潜ってるんだろ?」
「まあ、そうですね」
「やっぱりそうか」
海斗は納得したように頷いた。
「実はさ、俺も一人でやってるんだけどこれはスキルがかなり良かったからできていることだと思うんだ」
「そうなんですか」
「うん。だから君は誰かと組んだ方がいいと思う」
その言葉に、僕は少しだけ首を傾げた。
「誰かと?」
俺と組もう、とは言わないんだな。
心配はするけど足を引っ張られるのは困る、程度の感情なのかな?
「そう。探索者って一人でやるより、パーティーを組んだ方が安全だからさ」
確かに、それ自体はその通りだ。
僕が一人で探索しているのは、単純に今の自分の特異と言えるスキルについてなるべく知られたくないからである。
普通に考えれば、パーティーを組むことにはメリットがある。
「それに……」
海斗は少しだけ声を落とした。
「君のスキルって、たぶん戦闘向きじゃないんだろ?」
「……」
思わず黙ってしまう。
どうして知っているのだろう。
「いや、別に詳しく聞いたわけじゃないよ。いつもすぐにダンジョンから出てくるし、野菜を配ってるって話も聞いたから」
「ああ……」
「だからさ」
海斗は困ったように笑った。
「悪い言い方になったらごめん。でも、たぶん君は探索者としてはかなり大変なスキルを引いたんじゃないかなって」
そう言って、海斗は僕の肩を軽く叩いた。
「でも大丈夫。探索者ってスキルだけが全部じゃないから」
「……」
「もし困ったことがあったら、俺に相談してくれよ」
その笑顔に悪意は感じない。
どうやら海斗は、本気で俺のことを心配しているらしい。
自分には才能があるからこそ、困っている人間には手を差し伸べる。そんな自尊心と善意からのおせっかいなのだろう。
だがそこには心配だけじゃなく同情、あるいは哀れみのようなものも感じる。
「ありがとう」
だが特に指摘することもなく僕は素直に礼を言った。
「まあ、無理して深い階層に行く必要はないと思うけどね」
海斗はそう言って笑った。
「自分の実力に合ったところで、ゆっくりやればいいんだよ」
「……そうですね」
「うん。それが一番だよ」
そう言って海斗はそのまま別の知り合いらしい探索者のところへ向かっていった。
僕はその背中を見送りながら、少しだけ考える。
無理して深い階層に行く必要はない、自分の実力にあったところでゆっくりと、ね。
このダンジョン都市はそんなふうにのんびりと生きるのには向いていない。
すでにあれほどの装備が整っているところを見るに実家が太いのかもしれない。
彼も悪い人というわけではないのだろう。
ただ、無意識に自信家で自己中心的な一面があるのを感じた。
海斗との会話中に終わったらしい換金結果を受け取りながらそんなことを考える。
そして、藤原さんに先ほど何を言いかけたのかを聞いたが、なんでもないと返された。
換金結果を知っている彼女は僕が三階層まで行っていることがわかるのだろう。
ついにそれについて言及されるのかと思ったが、コンプライアンス意識が高く、海斗に出鼻を挫かれたことで思い直したのかもしれない。
噂になっていないということから藤原さんがこのことを誰にも言っていないだろうことがうかがえる。
この口の堅さなら打ち明けても良いのかもしれないが、自分から言うのはなんだか自分の力をひけらかすようで気が引ける。
聞かれたら正直に答える、ぐらいの気持ちでいたのだが、海斗のせいでその機会は遠のいたようだ。
まあ、絶対に打ち明けたいというわけでもないので、そこまで気にすることでもないが。
そんなことより早く魔装ドローンを作りたい。
明日もスケルトンを狩って、早く素材を集めよう。
そろそろドロップしても良いころだと思う。
そんなふうに僕は明日の探索に思いを馳せるのだった。




