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KILARe:  作者: 川合 佑樹


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第19話

 中間試験の発表が訪れた。

 キラリ、トモエ、マシロの三人は、ハンゾウの前に控えていた。

 中間試験――それは、班の絆を試す最初の本物の戦場だった。

 ハンゾウは、視線を三人に向けた。

「試験内容の告知が来た。ざっくり言うと、戦力評価だな。お前ら、覚悟はできてるか?」

 キラリは刀の柄を握りしめ、息を吸った。

「もちろんです、師範。俺たちなら、絶対に突破します。合格してきます!」

 ハンゾウは小さく頷き、笑みを浮かべた。

「ふむ、いい返事だ。だが、甘く見るなよ。毎回中間試験では死人も出ているからな」

 トモエは黒髪を耳にかける仕草で、拳を軽く握った。

「油断しねえよ。そのために訓練してきたんだ! 本気の俺を見せてやるぜ!」

 マシロはむすっとした顔で呟いた。

「俺も戦いに参加しなきゃダメなんだよなぁ……不安だなぁ」

 トモエは笑ってマシロの肩を叩いた。

「心配すんなよ、マシロ。お前の炎で道開いて、俺が攻める。キラリが刀で守ってくれりゃ、完璧だぜ!」

 キラリは決意を目に宿した。

「そうだな。みんなで、絶対に勝ち抜こう」

 三人は顔を見合わせた。

 期待と不安が交錯し、互いの瞳に映った。


 試験当日、三人は試験会場へと向かった。

 霧の国へ続く門前は、新日本国の要衝だった。

 鉄の巨門が天を衝き、石畳の道が伸びていた。

 空気は湿り気を帯び、息を吸うたびに肺が冷たく締めつけられた。

 既に大勢の生徒たちが集まり、班ごとのざわめきが門前に渦巻いていた。

 緊張の糸が、張りつめていた。

「キラリ、なんか空気重いな……」

 マシロが肩を回しながらぼやき、トモエが軽く笑って応じた。

「ま、試験だからな。俺たちも気合い入れろよ。キラリ、刀の柄、握りっぱなしじゃん。落ち着けって」

 キラリは刀を腰に佩き、門に目を凝らした。

 クラノの姿が浮かんだ。

 黒髪をきっちり束ね、腰の刀が朝陽を冷たく反射した。

 あの荒野の事件以来、クラノの視線はキラリを避けていた。

 キラリは歩み寄った。

 クラノはキラリに気づき、顔をしかめた。

「げっ」

 動揺が一瞬、瞳によぎった。

 タケツの巨体が傍らにどっしり控え、テラサの扇子が優雅に揺れる中、クラノは腕を組んでそっぽを向いた。

 キラリは穏やかに声を掛けた。

「中間試験……頑張ろうな、クラノ」

 言葉に、荒野の記憶が優しく溶け込んだ。

 敵ではなく、かつての幼馴染として。

 クラノの肩がわずかに震え、唇を歪めた。

「お前に言われなくても……俺の合格は決まっている」

 トモエが、黒髪をなびかせ、ニヤリと笑って割り込んだ。

「試験前の肩慣らしにしてやってもいいけど?」

 クラノは舌打ちをし、タケツとテラサを連れ去った。

「ちっ、くだらん……!」

 トモエは肩をすくめ、ため息混じりに笑った。

「ちぇっ、ライバルを減らせたのになぁ」

 キラリは微笑み、刀の柄に手を置いた。

「大丈夫だ。正攻法でやろう」

 マシロは二人の背中を睨んだ。

「お前ら、ちょっとは俺の身にもなれよ!」

 不安の棘が声に混じったが、キラリの視線がそれを優しく溶かした。

 すると、ある男の声が響いた。

「おい、お前……トモエじゃないか」

 三人は振り返った。

 そこに立っていたのは、利発そうな少年だった。

 細身の体躯に黒い侍装束を纏い、腰の刀が優雅に揺れた。

 鋭い視線が好奇心に輝き、唇に自信たっぷりの笑みを浮かべ、金髪が柔らかく流れ、存在感は洗練され、その視線は獲物を狙う獣の如く鋭かった。

 トモエの眼差しがわずかに曇り、視線を逸らした。

「……ヒサヒ……」

 マシロが問うた。

「トモエ、誰だこいつは? なんか、胡散臭ぇな」

 ヒサヒは胸を張り、堂々と応えた。

「俺は霧の国の忍者、やげんヒサヒだ! トモエとは、国を同じくした幼馴染でな。見ないと思ったら、別で班を組んでいたのか!」

 声は明るかったが、その視線に潜む執着が、三人を包んだ。

 キラリとマシロをまじまじと見つめ、鼻で笑った。

「そうか! 弱そうだな、こいつら。こいつらが死んだら、俺と組んでくれるか、トモエ!?」

 ヒサヒの右手が腰の刀に伸び、鞘が軽く鳴った。

 キラリとマシロは即座に反応した。

 刀の柄に手をかけたキラリが姿勢を低くし、マシロの掌に赤い気光が微かに灯った。

 空気が張りつめ、門前に緊張の渦が巻いた。

 トモエは額に手を当て、深いため息を吐いた。

「ヒサヒ。試験前に面倒くさいことすんな。俺はここで友達とやるんだ」

 すると、後ろから二つの影が近づいた。

 現れたのは、目を黒い布で覆ったポニーテールの女性と、眼鏡をかけたおさげ髪の女性だった。

 ポニーテールの女性は、忍装束を纏い、布の下の瞳が鋭く光った。

 おさげの女性は、眼鏡の奥に知的な輝きを宿し、細い指が短刀の柄を優しく撫でた。

 ポニーテールの女性――ハンガが、冷たく響く声で言った。

「ヒサヒ、試験が始まる。こんなところでじゃれている暇はないぞ」

「分かったよ、ハンガ。でも、せっかくの幼馴染との再会なんだ。邪魔すると、お前も殺すぞ! 俺は一人でも、こんな試験クリアできるんだからな!」

 ドスッ!

 突然の音が門前に響いた。

 おさげの女性――チバナが、ヒサヒの腹に鋭い拳を叩き込んだ。

 眼鏡の奥の眼差しが、苛立ちに細まった。

「うるさいですよ! みんなの邪魔になってるって言ってるんです!」

 ヒサヒは腹を抑え、うずくまった。

 息を荒げ、しかし微笑を浮かべた。

「あぁ……そうだな、チバナ。俺としたことが、熱くなってしまった」

 ハンガは無言でヒサヒの脇腹を蹴り上げた。

 ドン!

「いつもだろ」

「ぐえっ!」

 ヒサヒの体が折れ曲がり、土煙が舞った。

 マシロはそれを呆然と見つめ、肩を押さえながら呟いた。

「あの……もういいっすか?」

 チバナは眼鏡を押し上げ、マシロに振り向いた。

 穏やかな笑みが、知的な瞳に浮かんだ。

「挨拶が遅れました。私がはさきチバナ、侍です。こっちがかさねハンガ、忍者です。ヒサヒがご迷惑をおかけして、すみませんでした」

 ヒサヒはうずくまったまま、弱々しく抗議した。

「敵に手の内をばらすことはないぞ……」

 ハンガは再び脇腹を蹴り上げた。

 ドン!

「うるさい! 誰のせいだと思ってんだ!」

「ぐえっ!」

 ヒサヒの悲鳴が、門前のざわめきに溶けた。

 キラリは思わず笑みを漏らし、刀を緩めた。

「ははっ、大丈夫ですよ。お互い、試験頑張りましょう」

 チバナは眼鏡の奥で目を細め、頷いた。

「えぇ。お互い、生き残れているとよいですね」

 ハンガは無言でヒサヒの襟を掴み、三人は消えていった。

 キラリは三人の背中を見送り、呟いた。

「楽しそうな方たちでしたね」

 トモエは深いため息を吐き、黒髪を掻きむしった。

「すまなかった……俺はあいつが昔から苦手でな。なにかと絡んでくるんだが、どうにもなにを考えているのか分からん奴で……」

 マシロはニヤリと笑い、肩を回した。

「お前のこと、好きなんじゃね?」

 トモエの顔が真っ赤に染まり、マシロの肩を叩いた。

 バシッ!

「ばかっ! 俺とアイツは、そういうんじゃないぞっ! キラリ、勘違いするなよ!」

 マシロは肩を押さえ、笑いながら抗議した。

「折れる、肩折れるから!」

 すると、遠くから声が響いた。

「進んでくださーい!」

 門前のざわめきが動き始め、生徒たちの足音が石畳を叩いた。

 キラリは二人を振り返り、言った。

「行こう」

 三人は流れに身を任せ、門の奥へと進んだ。

 期待と不安の渦が、胸に渦巻いた。

 集団の流れが止まり、そこには女性の侍教官が立っていた。

 短髪を風に任せ、黒い侍装束が体躯を強調した。

 鋭い瞳が数百の生徒を射抜き、腰の刀が冷たく輝いた。

 ふくらワコト――その名は、学園で畏怖される存在だった。

 声は低く、しかし全体に響き渡った。

「あたしは今回の試験の責任者、ふくらワコトだ。試験の内容を発表する。一度しか言わないから、聞き逃すな。任務だと思って、集中して聞け」

 ワコトの視線が、生徒たちを針のように刺した。

 息遣いが止まるほどの静寂が訪れた。

「お前らには、これから霧の国に向かって出発してもらう。そして、第三障壁についたものが合格だ。だが、それだとただのピクニックだ」

 ワコトの唇が、嘲るように弧を描いた。

 生徒たちのざわめきが、わずかに漏れた。

 第三障壁――新日本国の防衛線、霧の国境にほど近い荒涼たる要塞。

 ワコトは続けた。

「お前ら班には、今から壱と参が書かれた木片を渡す。壱が二枚、参が壱枚だ。第三障壁にたどり着くまでに、合計の数字を十にしろ。以上だ」

 どよめきが広がった。

 木片――それは、単なる札ではなく、運命の鍵だった。

 壱と参の組み合わせで十を揃えるなら、奪い、取引し、時には同盟を。

 数字の試練が、班の知略と武勇を試した。

 一人の侍生徒が、手を挙げた。

 声調が震え、緊張を切り裂いた。

「他から、奪えと言うことですか?」

 ワコトの瞳が、冷たく細まった。

「お前のを、無くしてやろうか?」

 教官の右手が刀の柄に触れ、鞘が軽く鳴った。

 生徒は顔を青ざめ、手を下げた。

 静寂が、再び支配した。

 ワコトは生徒たちを見渡し、告げた。

「殺しは無しだ。ルールは以上。あとは、好きに解釈しろ。期限は丸三日やる。任務の難易度は、竹位といったところだ。それでは、受け取った班から担当者と共に開始位置につけ。一時間後に、一斉開始とする。以上」

 鐘が鳴り響き、生徒たちが動き始めた。

 第三障壁が、三人を待っていた。


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