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エアリス編 第十章 梅の花の能力の修練① 大聖堂での修練

第十章 梅の花の能力の修練


 イレンティア大聖堂の窓から差し込む朝陽は、ルゼリアの丘を照らすそれよりもどこか鋭く、荘厳な色を帯びていた。大気の端々に清冽な魔力が満ち、吸い込むだけで肺の奥が洗われるような感覚。けれど、俺の心は、ルゼリアへの郷愁とエアリスへの焦燥で、千々に乱れていた。

 リリィ先生は再度大神官に俺のことをお願いし、帰って行った。

 馬車に乗り込むリリィ先生の、淡い茶色のローブが翻る背中を見送りながら、俺は胸の奥が少しだけチリつくような寂しさを感じていた。小さな俺にとって、リリィ先生は魔術の導き手であり、この広大なイーストレイクの街における唯一の拠り所だったからだ。けれど、リリィ先生の瞳に宿っていた「託す」という強い光が、俺をこの場に繋ぎ止めていた。俺は自分の小さすぎる掌を一度見つめ、大きく息を吸って、白亜の塔へと向き直った。

 大神官様に挨拶に再度行き、翌日からの修練の予定を伝えられた、

 大神官様の部屋は、朝の光の中でも重厚な静謐を保っていた。老いた賢者は、机の上に広げられた羊皮紙を指でなぞりながら、俺に課せられた過酷な日課を淡々と告げた。

 早朝の食事前に大聖堂で祈りの時間、朝食後は神官からの説法、昼食後主に癒し魔術の修練を神官と、そして大神官と調律再構築魔術の修練、夕食後は書籍を読みながら、調律魔術のヒントを探り、寝る前に再度大聖堂で祈りを捧げる。

 それは、遊び盛りの五歳児にはあまりに無慈悲な、そして前世の記憶を持つ僕にとっては、これ以上なく充実した「研鑽の檻」だった。

 「ルーメン君。あなたの内に眠る力、調律魔術という未知の魔術は、まだ蕾の状態です。ここでの日々が、それを開花させるための土壌となるでしょう」

 大神官様の言葉に、俺は静かに深く頷いくのであった。



 翌日から修練が始まった、まだ夜の帳が降りている刻、石造りの床を裸足で踏み締め、俺は礼拝堂へと向かう。ひんやりとした冷気が肌を刺し、意識を強制的に覚醒させる。

 祈りに始まり、神官からの説法、若手の神官たちは最初、五歳の俺を物珍しそうに見ていたが、俺が一切の音を立てずに数時間の祈りを完遂する姿を見て、次第にその視線を「一人の修行者」への敬意へと変えていった。

 説法の時間は、俺にとってこの世界の構造を再定義する重要な講義となった。

 神官からは神の成り立ち・世界の成り立ち・魂の由来・魂の根源・祈ることの意味・癒し魔術の成り立ちとその効果・癒し魔術の施し方とその効果を最大限に引き出す方法を学んだ。

 神官の声は、石造りの高い天井に反響し、俺の脳裏にこの世界の複雑な魔力循環図を描き出していく。

 「いいですか、ルーメン君。癒し魔術とは、単に傷を塞ぐことではありません。それは失われた魂の欠片を、本来あるべき座へと呼び戻す祈りの儀式なのです」

 魂の由来――。前世の科学では説明のつかなかった精神の在り方が、ここでは癒し魔術として体系化されていた。俺は貪欲にその知識を吸い込み、自分の内に流れる光魔術の質感を、より微細なレベルでコントロールする術を学んでいった。



 太陽が天頂を過ぎ、ステンドグラスの影が東へと伸び始める頃、俺の修行は座学から実践へと移行した。午後は癒し魔術の初位の基礎から学び直しと中位、上位と学んでいった。

 教会の訓練場には、怪我をした兵士や、病に苦しむ人々が運び込まれてくる。僕は神官の指導の下、その傷口に掌をかざし、新たに定義された癒しの言葉を紡いだ。

 初位の癒し魔術。

「我が御霊より、このものに、癒しの力を、ヒーリング」

 僕の手から淡い光が溢れ、訓練兵の擦り傷が塞がっていく。これがすべての基礎。

 さらに中位、上位へと研鑽は進む。

「大いなる御霊により、このものに、癒し力と聖なる加護を与えたまえ、キュアヒーリング」中位の癒し魔術が発動し、複雑な骨折を負った者の痛みが霧散する。

「大いなる神の力よ、魂の癒しを与え、聖なる加護の力をこの御霊に授けたまえ、ブライトヒーリング」上位癒し魔術の輝きが、深い絶望に沈んでいた病人の表情を和らげる。

 

 前世の医学的知識が、傷の修復をイメージする際の強力な助けとなった。細胞の再生、血管の結合、神経の再編。それらを癒し魔術によって加速させる感覚を掴むたび、俺の癒し魔術の放つ淡い光は、より深く、より鮮やかに輝きを増していった。

 そして、修行が数日を数える頃、僕はついに神官に近い領域、五歳の子供が到達するなど歴史上類を見ない高みへと手をかけた。

 何とか聖位の癒し魔術を習得しようと修練を積んでいた。

「聖なる神の力よ、御霊の力を取り戻し、この者の再生と聖なる加護の力を授けたまえ、さすればこの者の傷を大いに癒し再生への道を切り開きたまえ、リジェネレイトヒーリング」

 それは、失われた組織さえも再生させる、人知を超えた奇跡。五歳の小さな身体が、その膨大な魔力消費に悲鳴を上げる。視界に輝きが届き、血管が爆発しそうなほどの内圧。けれど、その度に俺は、風に消えそうになりながら「助けて」と縋ってきたエアリスの声を思い出した。


 「まだだ……。これくらいで、倒れるわけにはいかないんだ!」

 神官たちが跪き、驚愕の声を上げる中で、俺は自らの限界を塗り替え続けた。


最後まで読んで頂きありがとうございます


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