エアリス編 第四章 友達 ― 幼なじみとの出会い ―④ 幼なじみと魔術
ある日の夕暮れ。魔術の練習と遊びを終え、ジャンヤ川を茜色に染める夕陽を眺めながら、エアリスがふと俺を見つめて問いかけてきた。
「ねぇ、ルーメン。……前から気になっていたんだけど、ルーメンはどうして詠唱しないで魔術が出せるの? 私にも、やり方を教えてほしいな」
その真っ直ぐな問いに、俺は少しだけ自分の髪をかき上げた。
無詠唱魔術。それは俺にとって、いつの間にか当たり前のことになっていた。けれど、この世界の理、そしてリリィ先生の言葉を借りれば、それは常識を根底から覆す異能なのだ。
「そうだなぁ……。実は僕も、どうやってできるようになったか、完璧に説明するのは難しいんだ。……でも、感覚としてはね」
俺はエアリスの視線の高さに合わせ、俺の掌をエアリスの目の前に差し出した。
「出したい魔術の結果を、まずは頭の中で完璧にイメージするんだ。色、熱、形、それらがもたらす効果。それから、体の中を流れる魔力の流れ感じて……。……詠唱を唱える代わりに、その魔力の流れが集中したところで、一気に解き放って、イメージという型に流し込む。魔術を作り出す、というより、イメージした結果をそのまま現実に出力する、みたいな感じかな」
俺の説明に、エアリスは眉を寄せて真剣に考え込んだ。
「……イメージを流し込む……。魔力の流れを感じて、一気に放出する……」
エアリスは自分の小さな掌を見つめて、
「私も、ルーメンみたいになれるように頑張るから、教えてね」
といって右手を前に出して、意識を集中し始めた。
そして何も起きずに、エアリスは「難しいよ、ルーメンいったいどうやってできるようになったの?」
と言うので、「そうだな、さっきも言った通り、魔力の流れを感じて、魔術をイメージして、魔術を作り出す。僕もすぐにできたわけじゃないからね。毎日毎日暇さえあれば魔術の練習をして、いつの間にかできちゃったから、これ以上は、難しいな」
「ルーメン、だから、まず、魔力の流れって何?全然わかんないよ」
「それは、詠唱しているときに、感じるものだから、何度も詠唱して魔術を出していかないとわからないと思うよ」
エアリスは、適性属性の風魔術の初位、ウインドブリーズを何度も詠唱しては魔術を出していた。
だが、数分間の沈黙の後、エアリスは困ったように微笑んで、首を横に振った。
「……うーん、やっぱり難しそうだね。……私にはその魔力の流れっていうのが、詠唱してる時も全然わからないよ」
「いいんだよ、エアリス。僕だって、たまたまできるようになっただけなんだから」
エアリスは髪先を指でいじりながら、けれどその瞳には、決して諦めない強い意志を滲ませていた。
「……ううん、諦めないよ。ルーメンが教えてくれたこと、お家でも練習してみるね」
その笑顔は、かつて庭の隅で泣いていたあの少女のものとは思えないほど、凛としていて、眩しかった。
「ルーメン、今日もありがとう。……また明日、学校でね。……それから、またすぐに遊ぼうね!」
エアリスは大きく手を振りながら、夕闇が迫る通学路を、自分の家へと駆け出していった。
淡い赤色の髪が、薄暗くなり始めた世界の中で、最後まで鮮やかな残り火のように揺れていた。
俺は一人、その場に残って自分の掌を見つめた。無詠唱で現れる、小さな光の玉。
かつての孤独な闇は、もうどこにもない。俺を導く家族がいて、切磋琢磨する姉がいて、まだ幼いが守らないといけない妹がいて、一緒にいて何でもないことで笑いあえて、一生懸命に魔術の練習をする幼馴染がいる。
五歳の俺に与えられたこの時間は、何よりも重く、尊い。俺は、エアリスが帰っていった道と反対方向に向かい、温かな夕食が待つ自宅への道を、今日楽しかったことや笑いあったことを思い浮かべながら歩いて帰るのだった。
最後まで読んで頂きありがとうございます
少しでもお気に召しましたら、ブックマークと☆の評価をお願いします。




