エアリス編 第四章 友達 ― 幼なじみとの出会い ―③ 幼馴染
エアリスとの仲が深まるにつれ、エアリスは我が家、プラム・ブロッサム邸にも遊びに来るようになった。
そこには、満面の笑顔で迎えるセリナ姉と、無邪気で元気な妹エレナがいる。
「ルーメン、この子が噂のエアリスちゃんね! まあ、なんて綺麗な髪なの!」
セリナ姉は初対面の時から、エアリスを家族のように温かく迎え入れた。
「あ、あの……。はじめまして、セリナさん」
「さん、なんていらないわよ! セリナって呼んでいいんだから!」
年齢の近いセリナと、そして人懐っこいエレナ。
エアリスは最初こそ緊張していたものの、二人の飾らない明るさに触れ、すぐに打ち解けていった。
庭を駆け回り、ジャンヤ川の畔で小さな冒険を繰り広げる四人の姿は、ルゼリアの丘を彩る最も美しい光景のひとつとなった。
エアリスには、風魔術の特性があることが分かった。
「見て、ルーメン。……私、これだけはできるの」
エアリスが掌を広げると、そこには優しい微風が渦巻き、庭の草木を揺らした。
俺たちは一緒に遊んだり魔術の練習をしたりした。セリナ姉も混ざり、三人で競うように笑って遊び、魔力を練り上げる時間は、俺がこの人生で初めてできた幼馴染との大切な時間だった。
共に過ごす時間が増える中で、俺はエアリスの家庭事情についても知ることになった。
ゼフィラ家は、領主の端くれである僕の家に比べれば、一般的か、あるいはやや貧しいと言わざるを得ない環境だった。
「ごめんね、ルーメン。私、明日はお家の手伝いがあるから、遊びに行けないの」
エアリスの家は、生活を維持するためにはエアリスも幼いながらにも家のことを手伝わなければならなかった。エアリスの細い指に刻まれた小さな傷や汚れは、彼女が背負っている現実の重さを物語っていた。
それでも、エアリスは暇を見つけては、俺の家まで走ってきてくれた。
「私も、もっと魔術を学びたいの。ルーメンみたいに、誰かを守れるようになりたい」
彼女の真っ直ぐな瞳。その想いに応えるべく、俺は母さんのから借りた魔術の教本を彼女に目を通した。
「これ、僕が使っている本なんだ。一緒に勉強しよう」
エアリスの魔術に対する学習意欲はなかなかのものだった。
本来の特性である風魔術はもちろんのこと、俺の指導と教本を頼りに、彼女は他の火・水・土・癒しの各初位魔法を、次々と自分のものにしていった。
風魔術以外では、特に彼女の優しさが最も色濃く反映されたのが、癒し魔術だった。
「……傷ついたものが、元気になりますように」
彼女が祈るように手をかざすと、淡い白いの慈愛の光が、俺たちが稽古で作った擦り傷を瞬時に塞いでいく。
その習得速度は驚異的で、癒し属性に関しては瞬く間に中位、キュアヒーリングへと到達した。
リリィ先生も「エアリスさんの癒し魔術は、魂に直接届くような暖かさがあるわ」と、その才能を高く評価していた。
エアリスが俺たちの輪に加わってから、ルゼリアの丘を吹き抜ける風は、いっそう鮮やかな生命の香りを運んでくるようになった。
学校が終わると、俺はセリナ姉とエアリスの三人で、連れ立ってプラム・ブロッサム邸へと帰る。屋敷の門を潜れば、まだ幼い妹エレナが、短い足で一生懸命に駆け寄りながら「おかえりー!」と弾けるような笑顔で迎えてくれる。
僕たちは庭の木陰に座り込んで、母さんの焼いた香ばしいパンを分かち合った。エアリスは、かつて学校の庭の片隅で震えていた時の大人しさが嘘のように、僕たち三人の前では、無邪気で優しい本来の素顔を見せてくれるようになっていた。
姉妹と幼馴染のエアリスと過ごす時間はとても楽しかった。ちょっとしたことでも笑いあいふざけあって、何か意見の食い違いがあっても、お互いにお互いの価値観を認め合う。そして、何より、一緒に過ごすことが楽しかった。明日は何しよう、次はこれをして遊ぼう、エアリスにこの魔術を教えてあげよう、些細なことでも毎日が花が咲いたように満ち溢れていた。
前世で、組織の冷たい理不尽に押し潰され、孤独な夜を幾度も過ごした俺にとって、この五歳の日常は何物にも代えがたい救いであり思い出だった。セリナやエレナといった血の繋がった家族とも違う、価値観を共有し、共に笑い合える「幼馴染」という存在。言葉を交わさずとも通じ合う柔らかな空気。そのすべてが、俺という人間を、このルシアークの世界に強く、深く繋ぎ止めていた。このルゼリアの村での初めての家族以外での楽しい時間になった。
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