エアリス編 第四章 友達 ― 幼なじみとの出会い ―③ 幼なじみ
エアリスとの仲が深まるにつれ、彼女は我が家、プラム・ブロッサム邸にも遊びに来るようになった。
そこには、緋色の髪を輝かせる姉セリナと、四歳になったばかりの元気な妹エレナがいる。
「ルーメン、この子が噂のエアリスちゃんね! まあ、なんて綺麗な髪なの!」
セリナは初対面の時から、エアリスを家族のように温かく迎え入れた。
「あ、あの……。はじめまして、セリナさん」
「さん、なんていらないわよ! お姉ちゃんって呼んでいいんだから!」
年齢の近いセリナと、そして人懐っこいエレナ。
エアリスは最初こそ緊張していたものの、二人の飾らない明るさに触れ、すぐに打ち解けていった。
赤紫色の髪と、緋色の髪。茶色の僕と、母に似た金糸の髪を持つエレナ。
庭を駆け回り、ジャンヤ川の畔で小さな冒険を繰り広げる四人の姿は、ルゼリアの丘を彩る最も美しい光景のひとつとなった。
エアリスには、風魔術の特性があることが分かった。
「見て、ルーメン。……私、これだけはできるの」
彼女が掌を広げると、そこには優しい微風が渦巻き、庭の草木を揺らした。
僕たちは一緒に魔術の練習をした。セリナも混ざり、三人で競うように魔力を練り上げる時間は、僕にとって前世では決して手に入らなかった、本当の意味での「青春」の断片のようだった。
共に過ごす時間が増える中で、僕はエアリスの家庭事情についても知ることになった。
ゼフィラ家は、領主の端くれである僕の家に比べれば、一般的か、あるいはやや貧しいと言わざるを得ない環境だった。
「ごめんね、ルーメン。私、明日はお家の手伝いがあるから、遊びに行けないの」
彼女には姉と妹がいる。家族が多く、生活を維持するためにはエアリスも幼いながらに労働力として数えられていた。洗濯、掃除、畑の世話……。彼女の細い指に刻まれた小さな傷や汚れは、彼女が背負っている現実の重さを物語っていた。
それでも、彼女は暇を見つけては、僕の家まで走ってきてくれた。
「私も、もっと魔術を学びたいの。ルーメンみたいに、誰かを守れるようになりたい」
彼女の真っ直ぐな瞳。その想いに応えるべく、僕は母さんの書庫から借りた魔術の教本を彼女に共有した。
「これ、僕が使っている本なんだ。一緒に勉強しよう」
エアリスの学習意欲は凄まじかった。
本来の特性である風魔術はもちろんのこと、僕の指導と教本を頼りに、彼女は「火・水・土・癒し」の各初位魔法を、次々と自分のものにしていった。
特に彼女の優しさが最も色濃く反映されたのが、癒し魔術だった。
「……傷ついたものが、元気になりますように」
彼女が祈るように手をかざすと、緑色の慈愛の光が、僕たちが稽古で作った擦り傷を瞬時に塞いでいく。
その習得速度は驚異的で、癒し属性に関しては瞬く間に中位へと到達した。
リリィ先生も「エアリスさんの癒しは、魂に直接届くような暖かさがあるわ」と、その才能を高く評価していた。
エアリスが僕たちの輪に加わってから、ルゼリアの丘を吹き抜ける風は、いっそう鮮やかな生命の香りを運んでくるようになった。
学校が終わると、僕は緋色の髪をなびかせたセリナ姉、そして近所に住むエアリスの三人で、連れ立ってプラム・ブロッサム邸へと帰る。屋敷の門を潜れば、まだ幼い妹エレナが、短い足で一生懸命に駆け寄りながら「おかえりー!」と弾けるような笑顔で迎えてくれる。
赤紫色の長い髪を持つエアリス、緋色のセリナ、母譲りの金糸の髪を持つエレナ、そして茶色の髪の僕。
四人が庭に揃うと、そこはまるで色とりどりの花が一度に咲き誇ったような、賑やかで温かな空間に変わった。
僕たちはジ庭の木陰に座り込んで、母さんの焼いた香ばしいパンを分かち合った。エアリスは、かつて学校の庭の片隅で震えていた時の大人しさが嘘のように、僕たち三人の前では、無邪気で優しい本来の素顔を見せてくれるようになっていた。
(……ああ、これが友達なんだな)
前世で、組織の冷たい論理に押し潰され、孤独な夜を幾度も過ごした僕にとって、この五歳の日常は何物にも代えがたい救いだった。セリナやエレナといった血の繋がった家族とも違う、価値観を共有し、共に笑い合える「友人」という存在。言葉を交わさずとも通じ合う柔らかな空気。そのすべてが、僕という人間を、このルシアークの世界に強く、深く繋ぎ止めていた。
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