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とある精霊の旅  作者: うさ公
第一章 雷鳴と金色の守護者
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22話 金色の導き

「描くの?」


 人の姿に戻ったユキがそう問う。


「はい。描きたいです」


 少女のその返事を聞いて、嬉しそうに頷いた。

 ユキの旅の目的はこれである。ルチアの絵が楽しみだ。


 ルチアは買ってもらったスケッチブック、水彩絵具、鉛筆などなど鞄から取り出して、準備する。

 地面に座り込んで集中するルチアの周りをウロウロして完成を待つ。


 アリサはというと、大精霊の周りを何やら調べている様子だった。

 あれも守護者の仕事にあるのだろう。




「うーん、……」


 うんうん唸りながら、初めての絵具を試行錯誤し絵に入れる。

 やっぱり、色があると良い。ぱっと見の映え方も良くなるし、それに筆を入れるのが楽しい。

 絵に色を付ける。なんて“ぽい”んだろうか。


 だがやっぱり初めてだと絵にもたどたどしさが出る。難しいものだ。

 色を重ねてみたり、水を垂らして混ぜてみたり何回も試し塗りをして大精霊様の姿に近づけていく。


 ずっとずっと集中していたら、いつの間にか昼になっていたらしい。

 ごはんを口に入れられて気がついた。


 *


「すごい集中力ねぇ」


 さすがにアリサも自分のやることを終えたらしい。

 ルチアの手元を覗き込んで、感心している。


 絵は嗜みとして多少触ったり、魔法に生かすために挑戦してみたりはあったが自分の趣味にはならなかったので、大精霊のところまで来て絵を描き始めるルチアには驚いた。


 色を付ける手はまごまごしているが、鉛筆で下書きやらをしている姿は堂に入っている。


「ルチアは絵描きが本業なのかしら」


 ルチアの周りをウロウロしているユキを捕まえて聞いた。

 正直彼からほしい返答が来るとは思っていない。暇なので雑談相手がほしいだけだ。


「好きだから描いてるって聞きましたよ。僕のこともイケメンに描いてくれたんですよ。仕方ないので特別にお見せしましょう」

「あらありがとう」


 ユキもこれまでの穏やかな笑みからプラスしてどこかわくわくしている。

 楽しそうにルチアの絵について話す彼を見て、“そういうタイプの精霊か”とアリサは納得した。


 彼はルチアの絵に魅せられたのだ。


「確かにイケメンだわ」


 写実的よりは年相応のポップな可愛らしい絵に近かった。

 しかし、こだわるところが分かりやすく無駄のないスッキリした線だ。


 アリサ的には、まあ案外好きかな、という絵柄である。

 それより、こなれた線の中に滲む幼さに妹としての可愛らしさを感じて庇護欲がかき立てられている。


 先日舞巫女のお披露目を見に行った一件から、ルチアからの呼び名が“お姉さま”で固まっているのも、良い。

 アリサは妹がほしかった。

 故にルチアに異常なほど妹扱いをしてしまうが、ルチアもルチアだ。アリサの妹扱いを受け入れているところがある。

 これがすごく嬉しい。ちょっとプライベートでは髪を赤にしようか迷っているくらい嬉しい。



「これは雑草と僕の絵です」

「まだ描いてもらってたの? ……私こっちの方が好きだわ」

「これって、そのままを描いたんじゃなくて、想像でシーンを思い浮かべて描いたものなんですって! すごくないですか!?」

「創作系もいけるのね。将来有望じゃない」


「そうさく……?」

「実際にあったことじゃないフィクションを何某かで創り出すこと。ルチアならイラストでフィクションを創った。創作したってこと」

「創作……! そうです僕が主題でルチアが創作したイラストです。いいでしょう」

「いいわねぇ」


 やはりこの精霊、ルチアの絵のことになると元気だ。

 素がこっちなのだろう。


 あえて穏やかな青年として人の社会で生きているというのだろうか。

 アリサが考えていたより賢い精霊だ。


 精霊は力を付けるほど、位が上がるほど知能と判断力を身につけていく。

 ユキが上位精霊になったのはいつだろうか。

 ルチアに頼んだユキ貸し出しの件は、早くなるかもしれない。少なくとも10年はかからないだろう。


 *


「……ユキ、できました」


 アリサとユキが雑談をしていると、か細い声が聞こえた。


 ついに完成したらしい。

 ルチアの顔は晴れ晴れとしている。

 納得のいく出来になったのだろう。

 ユキは軽い足取りで駆け寄る。


「わあ!」


 ルチア大先生の最新作に、ユキや中位精霊たちは沸き立った。


 水彩絵具を使ったからだろう全体的な淡い色合いだが、要所にある力強い塗りのギャップが雷の大精霊に走る稲妻の恐ろしさを表しているようで良い。

 彼女の色が付いた絵は表現の幅が広がったようで生き生きしている。


「どう、でしょうか」


 もじもじと褒めてほしそうな顔で、ルチアが精霊たちを見る。


 そんな少女に精霊たちは、わっと囲んでわちゃわちゃと話し始める。

 中位精霊たちはわざわざ小人の姿に変えて、ユキと一緒にここの色が良いだの濃淡が好きだの語り始める。


「えへへ……」


 嬉しい。

 ルチアは心が暖かくなる。

 また絵を褒めてもらえて、喜んでもらえて、すごく嬉しい。

 素直な精霊たちの声が何より暖かく響く。


 もし、もしもお母さんがこの絵を見たらなんて褒めてくれるだろうか。

 もう2度と褒めてくれることはないけれど、もしお母さんなら……ルチアの絵について語って、そしてルチアの頭を優しく撫でてくれるだろう。そんな妄想に浸ることはきっと悪いことじゃない。


 *


「あなたたち大精霊に会う旅をしているのよね?」

「はい」


 ルチアたちは頷いた。

「これまでに会ったのは?」

「氷の大精霊様と、雷の大精霊様、だけです」

「このあとは?」

「か、風の大精霊様に会いに行くのが近いかな……と思っています」


 アリサの急な質問に首を傾げつつ、答えていく。


「次は?」

「えっと、」


 ルチアは頭の中で地図を開く。

 このまま北に風の地域まで進めば、真西に火の地域があり南西に光の地域がある。

 風まで近いのはこの2つだが、光の方は少し難点がある。

 光の大精霊は会える時間や人間が限られているのだ。ルチアたち一般人が輝玉の神殿へ入られる期間はあって数か月に一回だろう。

 しかし今は大精霊が不安定な時期だ。余計会いにいけるタイミングは限られていそうだ。

 首都ハイエルンはどこの地域からも行こうと思えば遠くはない距離だから、焦らずとも一般公会日に合わせて行けばいい。

 だから、


「火の大精霊様、でしょうか」

「そうね。光の大精霊は今あんたたちが会えるようにはなってないわ」

「や、やっぱりそうですよね」


 1年は会えないかもね、とアリサは言う。


 アリサは少し考えて、懐から紙とペンを取り出す。

 上質な紙だ。そこにサラサラと何かを書き付け折りたたむと、さらに懐から出した紫の封筒に入れて封をする。


『アリサ・ルゥホートの手紙』


 そう唱えると、金色の封蝋が施された。


「はい。これあげる」

「エッ!? こ、これは何ですか」


 どう考えても高級そうな封筒が、守護者の名前で綴じられている。

 それを突然ルチアに。


「あなた、大精霊にも会いたいし魔術師にもなりたいのでしょう? 雷の守護者アリサ・ルゥホートからちょっとした手助けよ。困ったときはそれを開けなさい。何かしらであなたの旅の助けになるはずよ」

「お、恐れ多いです……」


 恐れ多いものの、これはアリサからの好意だ。

 それに今後助けてもらえるならありがたく受け取れば良い。

 おそるおそる手を出していると、それは横からかっ攫われた。


「じゃあ僕が預かっておくね。精霊が持ってるならぐしゃぐしゃにならないし、なくさないし」

「そうね。はい」


 確かにそうか……とルチアが思っているうちにユキとアリサでやり取りが終わり、ユキの懐に封筒が入っていった。


「あの、お姉さま、ありがとうございます」

「まあ本当にあなたたちの助けになるかは分からないけれど」

「いえ、あの……最初に助けていただいた時から、魔法の特訓だったり一緒に過ごしている中だったり、お姉さまにたくさんたくさん、助けられました。ので、ありがとうございます」


 ルチアは深く頭を下げた。


 大道芸をしていて絡んできた男を無力化してくれたこと。

 宿を貸して看てくれたこと。買い物まで付き合ってくれてお金も出してくれたこと。

 城塞都市までの道のりや、街についてからの暮らし、守る魔法の特訓。

 姉のようにルチアをずっと導いてくれていたこと。


 かけがえのない出会いだ。

 ルチアは本当に幸運だった。アリサに出会えなければ、ユキと一緒にずっとしんどいまま旅をしていたかもしれない。


「……一旦ここでお別れになるでしょうけど、あなたが魔術師になったら絶対また話せる機会があるわ。次顔を合わせた時どれだけ成長してるか楽しみね」

「が、頑張ります……っ!」


 アリサはこの小さな可愛い少女を撫で繰り回したくなったが自制した。

 アリサにとっても、ルチアやルークたちとの出会いは悪いものではなかった。

 むしろ、背筋をピンと伸ばされたような清々しい出会いだ。


 紅い唇を弧にして、ルチアを抱き締める。


「野垂れ死なないように」

「はい」

「精霊たちに振り回されるんじゃないわよ」

「はい」


 *


 ルチアたちは雷の守護者アリサ・ルゥホートと別れ、風の地域へ歩き出した。



雷の地域編は終わりです

次章前にちょっと閑話挟むかも

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