空回りするエンジンと空のグラス: 気まぐれな夜、幽玄同窓会・なんちゃって独身合コン
読者の皆さま、こんにちは。
「どの作家も自分の性癖から逃れられない生き物だから」という言葉を耳にしたことがあります。 考えれば考えるほど、この言葉の真実味に思わず笑みがこぼれ、深くうなずいてしまいました。
おそらく皆さまもお気づきでしょう。私の“性癖”――そう、数学・科学フェチです。 そして、きっとあなたにも心の奥に小さな“フェチ”があるはず。それはとても素敵なことだと思います。
第5章はまだ公開しておりませんが、現在鋭意執筆中です。 その前に、この短編と幕間をお届けできれば幸いです。 おかげさまで読者さまの数も少しずつ増えてまいりました。もしお楽しみいただけましたら、ぜひ周りの方にもご紹介いただけると嬉しく存じます。
日頃のご支援に心より感謝申し上げます。 それでは、ささやかな幕間ではございますが、どうぞごゆっくりお楽しみください
「本当に行くつもり?」
「一度だけ行ったことあるけど、もう二度と行きたくないって思ったの」
「なんで? 卒業してからずっと重い会費払ってるのに、一度も使わなかったんだよね。来てくれてありがとう!」
「ん… あんたにしつこく頼まれたから来ただけ」
「映奈、そんなにかたくならないでよ」
「これ、警告だからね」
プライベートクラブの扉をくぐった。知らないわけではない顔ぶれがちらほら。時間に違いが映し出されている者もいれば、昔のまま変わらぬ者もいる。丁寧な笑みと格式ばったお辞儀で迎えられ、控えめな笑い声が交わされた。 空気には、日本語、英語、中国語が織り込まれた会話が生き生きと漂い、自然にひとつの響きを形づくっていた。
☆
「星野先生、相変わらずお綺麗です、お元気そうで何よりです。ご同窓会へようこそ」
「本間先生、お綺麗ですね!お変わりございませんね。今回が初めてですよね?」
映奈は自然と人々の視線を集めていた。まるで星に向かうひまわりのように。
ニューヨークで投資銀行家になった者もいれば、外科医、起業家、弁護士、ヘッジファンドマネージャーとそれぞれの道を歩んでいる。
「今、22台の車と共に暮らしてるよ。近々また2台増やす予定さ。今度ドライブにでも一緒にどう?」
「去年の株の利益、5000万ドルは固い」
「俺のファンド、 managed 2.5 billion dollars — 25億ドルは動かしてるぜ。ボーナス?それなりに悪くない」
「ロマネ・コンティやドメーヌ・ルロワのヴィンテージワインをコレクションしている。ほとんどブルゴーニュ産で、家に約1000万ドル相当の在庫があるよ」
「素敵なバーキンね」
「ええ、これで20個目のコレクションですの」
やがて、皆の視線は映奈に戻った。
女性の同窓生が少し挑戦的に尋ねた。
「星野先生、最近どこで何してたの?ちゃんと成果っていうものはあるのかしら?」
映奈は冷静な微笑みを浮かべながら、落ち着いて答えた。
“違いを生みましたーI made a difference”
食事は上品で、ワインは同窓会のセラーから振る舞われた。グループごとに分かれ、熟成されたヴィンテージや微妙な香りについて真剣に語り合っている。
映奈は丁重に断り、運転しなければならなかったため私の隣に座った私は、小さく慎重にグラスを傾けた。飲めないのに。
お酒が好きなわけではない。
少量のエタノールを摂取すると認知機能が低下し、抑制力や判断力も鈍る。結果として、話し好きになったり攻撃的になったり、あるいは性抑制が緩んだりすることがある。
大量に摂取すると反射神経の低下や呼吸抑制、うつ症状を引き起こすこともある。エタノールは体にとって異物で有害であり、酸化されて水に溶けやすく変換され、より早く排出される。
しかし状況によってはアセトアルデヒドが蓄積し、これは非常に毒性が強い物質で、顔面の紅潮や吐き気、いわゆる二日酔いの主因となるー
あぁ、ごめん、つい話が長くなった。。。ハッハッハ
優しい手が私を家まで送ろうと近づき、穏やかな言葉で安全を約束してくれた。
その触れ合いは表面的には思いやりに満ちていたけれど、どこか重く、私の無防備な心にじわじわと忍び寄ってくるものを感じた。
そんなとき、映奈がそっと間に入り、私のことは自分が面倒を見ると静かに告げてくれた。
「映奈ちゃん、どうしてそんなに優しいの?」
★
彼女は私を白い車まで連れて行った。
「これ、念のためにね」と袋と水を渡された。
「ハッハッ、ありがとう。私ってアルデヒド脱水素酵素が少ないらしい」
「わかるわ、顔が真っ赤よ。で、楽しめた?」
「うん、たぶんね」
「え、まじで」
「うん、特に映奈がみんなを小突く時が面白かった、男前すぎ」
「美由紀って、意外とサディストね」
「そっちは?楽しめたの?」
「会って話してるようで、話してない。見ているけど見ていない。聞いているけど聞いていない。感じているけど気にかけてない。正直、あなたがいなければ学生たちといる方がいいわ」
私は目を閉じた。車内に静寂が満ちた。
「美由紀、うち寄ってかない?たこ焼きでも」
「いいね、それ最高っ」
「アキナ…愛してる…フフフッ」
「はあ、はいはい、もう」
車内は熱くなり、服を緩め、靴を脱いだ。ほおにキスをされた。
「やめてよ、危ないよ、運転中なんだから」
「へへ、君も真っ赤だね」
「それ、あんたの口紅でしょ」
深いため息が漏れた。
街の灯が流れ、映奈の車は静かに前へ進んでいく。
ラジオに合わせて、故郷の香りを運ぶカントリーのメロディを口ずさむと、 アキナの体がそのリズムにそっと揺れ、 思わず声が歌詞へとこぼれた―― テイクミーホーム トゥザプレイス アイビロング ♪
☆
まあ、高収入のあの人たちの中にも社会的責任を果たしている者はいる。だが本当にどうなのかは疑問だ。影で静かに働く、手を汚しながら社会の歯車を回している者たちのことも忘れてはいけない。
知った顔が並ぶ。変わった者も、変わらぬ者も。
金と紙の輝きに惑わされてはならない。
それは人を変える、あるいは本性を露わにする。死してなお。
映奈はたこ焼きをつまみながら言った。
「社会は二つの層に分かれてる。資金を求めリターンを狙う人たちと、ビジネスや家、クリニックのために資本を必要とする人たち」
本来なら、前者から後者へ安全かつ効率的に資金が流れれば、公共の利益が促進され、経済も潤うはず。
しかし果たして、そのお金は本当に私たちのために使われているのか?
この「経済のエンジン」は、本当に動いているのか?それとも酔っぱらいがアイドリングしているだけ?
私は願う。彼らが僕らみたいに酔っぱらわないことを。
映奈は眉を上げ、意味深な微笑みを浮かべた。
「それは静かに、目に見えずに広がっていく病気よ」
『Social Neurosis Syndromeー社会神経症候群』と私は付け加えた。
「今の時代に蔓延する毒、SNSが密かに広げている」
★
冷たいタオルが額に当たり、優しい手が髪を撫でる。
「アキナ」
「ん、なに?」
「すき」
「もう、寝なさいよ、酔っ払い」
夜の闇に、笑い声が静かに溶けていった。
その先は夢と現のあわいのように曖昧で、
口にしないほうがいいこともあるのだろう。
長い夜だった。
壁の外では、長い夜がその秘密を抱えたまま、静かに時を待っていた。




