第82話 衝撃のセリフを告げるシリアスな顔のソードナイト
「――わたしは、絶対に、才斗くんと、えっちするんだぁぁぁあああ!」
会場中に響く楓香の叫び。
剣騎はもうすっかり面白がっているのか、大笑い。そして俺は、大きな溜め息をこぼした。
「なかなかやってるね、白桃君は」
「あれはやりすぎだ」
楓香の相手は有名人の田中ゆきね。
俺の彼女だと報道されてからは楓香もそれなりに有名人だが、田中はかなり前から多くの男性を虜にしてきた女性冒険者だ。
雷電の配信を観たからか、おすすめに田中の動画が上がってきてからは、何度かサムネに釣られて観たことがある。
その印象としては、お色気ムンムンのお姉さん。
冒険者としての実力は定かではないものの、Bランクという事実はあるので、楓香より単純なステータスは高いと考えられる。
「この勢いで案外勝てるかもしれないよ」
「ランクは絶対だ。1つ違いとはいえ、気合いだけで勝てるような差じゃ――」
「気合いだけ、ねぇ」
剣騎は俺に呆れたように溜め息をついた。
「白桃君は戦闘面でもかなり成長してるよ。この前の訓練で戦い方の安定化を感じた。何度かトラウマを乗り越えれば、経験値は上がっていく」
「だが……」
反論はできない。
認めよう。
俺が間違っていた。
気合いだけじゃない。楓香は戦闘の面でも大きく成長した。
「でもまあ、僕はこの勝負、田中君が勝つと思うね。賭けでもするかい?」
「……」
「ゴミを見るような目で見ないでくれ。僕はただ、白桃君の実力は確かに上がっているものの、着実にBランクまで上り詰めた田中君には及ばないという結論を出しただけだ」
「そうだな」
軽く頷きながら、戦闘開始直前のフィールドの視線を落とす。
そこには顔を真っ赤にして剣を構える楓香と、お姉さん系美女の田中が向かい合っていた。
剣の構えからして、田中もピトー派だろうか。
だとしたら、2人とも同じ型を使っていることになる。
「剣のフォームの相性で結末がわかることがあるからね」
剣騎も見ているものは同じだった。
「ただ、同じフォームで戦われると、勝敗が決まるのはやっぱり単純にスペックの差」
「剣術の熟練度の方が大切じゃないのか?」
「なるほど……才斗はそっち派か」
そこにも派閥があるのか。
世界は厄介だ。
「剣術が優れていれば、相手の方がパワーが強かったとしても上手く受け流して戦えるはずだ」
「それが通用するならいいけど、厳しいかもしれないね」
「……」
そうこう話しているうちに、試合が始まった。
***
楓香は俺たちが思っていた以上に剣術の腕を上げていた。
見てないところで自主練でもしたんだろうか。
細かい剣の捌き方も正確であることに加え、パワーにおいても田中に負けていない。
かすかに見える田中の苦しそうな表情で、彼女もまた本気を出しているということがわかった。
つまり――。
「実力が拮抗している……?」
「白桃君にも冒険者の才能があった、ということだね。彼女を発掘した僕は、もっと評価されるべきだよね」
そんなことを自分で言うから評価されないのだ。
「そういえば……」
楓香はここ最近の闇派閥問題に大きく関わってきた。
関わってきた、というより、巻き込まれてきた、という方が正しいかもしれない。
その際、闇派閥の敵はほとんどがSランク並みの冒険者だった。
さらにはAランクだった俺や、Sランクの真一と呼吸を合わせて戦うことを求められたりもしていた。
自分よりも遥かにレベルの高い環境で実践を積んだ。
その経験は楓香にとっての地獄でもあり、高みを目指すための大きな手掛かり。
「Bランク程度なら勝ててしまうのか……?」
「Bランク程度……君もまた面白いことを言う……」
ついボソッと出てしまった一言。
剣騎はそれに驚きつつも、何度も細かく首を縦に振っていた。
「もしこの戦いに白桃君が勝ったら、才斗は本当に彼女の望むことをするつもりかな?」
「……どうだろうな」
まだ早いような気もする。
「アドバイスはあるか?」
「おいおい、僕に恋愛のアドバイスを求めるのかい? もっと別の人に聞いてほしいね」
「冒険者はほとんど恋愛してないだろ。剣騎以外でそんなことを聞けるような人はいないんだ」
「なんだ嬉しいなぁ。僕のことをそんなに信頼してくれてるんだね。ここからまさかのBL展開が始まったりして」
「始まらないから安心してくれ」
「とにかく、白桃君にはポテンシャルがある。もっとモチベーションを高めさせて、決勝トーナメントを目指すように言ってほしい」
「別に構わないが、さすがに決勝トーナメントは厳しくないか?」
「もちろん、今の実力では行けないね」
剣騎が白い歯を見せた。
決して馬鹿にしているわけじゃない。
決勝トーナメントを実際に目指させ、意識させることにより、今後の目標や志も大きく変わってくるかもしれない。
剣騎はそれを期待しているんだろう。
「剣騎は何を目指してるんだ?」
その流れで聞いてみる。
「冒険者の教育も上手いし、俺が知ってる冒険者の中で、1番社会人として有能なのは剣騎だと思ってる」
「そこまで僕を評価してくれてるんだね」
もうこの時点では、剣騎のポテトチップスはなくなっていた。さっきまでは大量にあったのに、なくなるのが早すぎる。
フィールドで繰り広げられる中堅冒険者の試合を見ながら、剣騎はいつにも増してシリアスな表情を作った。
「これを言うのは才斗で3人目になるんだけど……実は僕、近々【ウルフパック】を辞めようと思ってるんだ」
……は?




