第81話 えっちな褒美を期待して勝ちにいくピーチ系彼女
「それより――」
楓香がクレイジーだという話をした後、さらに改まった様子で剣騎が言う。
「――西園寺さんって才斗のこと好きすぎだよね」
「……」
それは前から感じていた。
俺の両親を知っていたり、俺の幼い頃を知っていたり、確かに俺が思っている以上に愛着があるのかもしれないが、もはやこれは親バカだ。
「もしかしたら西園寺さんは、才斗のことを息子のように思っているのかもしれないね」
「そうかもな」
「天音君に対しても同じ感じかな。才斗と天音君に対しては、ドン引きするくらい甘いから」
「……」
多くの人が持っている西園寺に対しての印象は、怖い、威圧感が凄い、とんでもなく強い、といった感じだろう。
だが、俺にとっての西園寺は……なんというか、そこまで強そうじゃない。
もちろん彼が強いのは知っている。
日本でも神宮司と張り合うほどの高ランク冒険者だ。
とはいえ、そういう意味合いの強さではなく……メンタルというか……結構ふにゃふにゃだぞ、あの人。
「もし西園寺さんが決勝トーナメントで才斗と戦うことになった時、どうなるのやら……」
「さすがに手を抜いたりはしないだろ」
「でも、才斗が怪我をしないように細心の注意を払うだろうね」
「こっちとしては屈辱的な気もするが、その配慮を差し引いても、社長が勝つような気がする」
「それは間違いないよ。僕でも西園寺さんには勝てないんだ。今の才斗では絶対勝てない……まだね」
ニヤッと笑った剣騎。
その笑みを見て、彼もまた、いつかは西園寺よりも強くなろうと考えているんだなと思った。
***
楓香がフィールドに入場してくる。
表情だけ見れば、凛々しくてクール。
きっと頭の中ではエロいことを考えているんだろう。だが、断定はできない。楓香も楓香で、抱えているものがある。
シングルマザーで頑張っている母のために、とかいろいろ事情はあるんだろう。
忘れそうになるが、楓香は二重人格。
黒桃と呼んでいた冷酷な人格は、あの日を境に表に姿を見せなくなった。
――複雑だな……。
普段のピンク色発言からは考えられないほど、楓香は大きな困難・ストレスに直面し、それを乗り越えている。
『さて、東から登場したのは、先ほど場外ホームランを決めた黒瀬才斗の彼女、白桃楓香だぁぁぁあああ!』
実況のアナウンサーが雄叫びを上げる。
ちなみに、この予選では解説者を雇う費用を節約しようとのことで、実況者のアナウンサーしかいない。
新人アナウンサーらしいが、特に目立ったミスもなく、スムーズに試合が進行している。
雇われた解説者はいないものの、今、実況席には西園寺がいた。
そこで自然とノーギャラの解説者になっている。
『西園寺さーん、上司として、オーロラの実力をどう見ているんでしょうか?』
『ポテンシャルが高い。通常、Cランク冒険者はこの冒戦において勝ち目が低いため、出場させないことも多いが、私はオーロラに可能性を感じた』
『ほう、可能性、ですか』
『オーロラにとっては、今回の予選を勝ち抜くことができるかが大きな挑戦になる。温かく見守っていてほしい』
『なんと西園寺さんから、社員想いの優しい言葉が出たぁぁああ! これにはドラゴンウルフファンも大歓声です!』
観客席から上がる黄色い歓声。
ほとんどが女性のものだ。
あの記者会見以降、どれだけ人気を上げるんだ、うちの社長は。
「西園寺さんの言う通り、白桃君にとってはこの試合が肝心だね。丁寧に勝ちを重ねていかなければ、上位5人には残れない」
「だが、相手は――」
西側から登場する対戦相手に視線を送る。
もしその相手が同じランクなのであれば、勝つ可能性は半分半分。
だが、1つでもランクが上の相手であれば、勝つ可能性はほぼないに等しい。
ランクは冒険者の強さを表す絶対的な指標。
基本ステータス、戦闘経験など、多くの面でランク上位者にアドバンテージがある。
『そんな若さに満ち溢れたオーロラに対抗するのは、ランクが1つ上、Bランクの田中ゆきねだぁぁぁあああ!』
俺と剣騎は、哀れむような目で楓香を見た。
***
白桃の前に立ちはだかったのは、Bランク冒険者で、中高年の男性からの人気が高い田中ゆきね。
――メープルシロップ……最初からこんな強敵……反則でしょ……。
白桃の頬を汗がつたう。
田中はSNSでの発信活動で有名なインフルエンサーだ。
今年で30歳になる彼女は、その大人っぽい容姿や上品な口調から、ゆきね様の愛称で中高年世代から絶大な人気を誇る。
そんな田中の登場に、おっさんたちの歓喜の声が上がる。
だが、白桃も負けてはいない。
現役女子高生という若さに、可愛いルックス。
黒瀬才斗の恋人であるという認識が広がっている状況でも、彼女の男性人気――特に十代の若い世代での人気は高かった。
オーロラコールとゆきね様コールが巻き起こる会場。
そのあまりの大きさに、観客席の才斗と山口は耳を塞いだ。
「可愛らしい娘ね。頭撫でてあげたいくらい」
「余裕なんですね」
「うーん、そうね。油断してるわけではないのよ。ただ、あなたは恋愛してるのよね?」
「はい?」
田中は上品な笑顔を維持したまま白桃に聞く。
「私はこの30年間、冒険者として、インフルエンサーとして、大きな成功をつかむために恋愛を犠牲にしてきたの」
「……」
「冒険者に恋愛はいらない。あなたも気付いたら、後輩に抜かされているかもしれないわ」
「わたしはそうは思いません」
「あら、どうして?」
白桃は田中の人生のアドバイスを受け、強い瞳で切り返す。
その程度の揺さぶりは、クレイジーな白桃に通用しないのだ。
「わたしがもっと強くなれば、才斗くんに相応しい冒険者になれるんです。尊敬する才斗くんが恋人でいてくれるから、わたしは強くなれるんです」
「本当にそうかしら?」
「喧嘩売ってるんですか!? わたしはこの試合であなたに勝って、絶対に才斗くんとえっちしてみせます! そうです! わたしは、絶対に、才斗くんと、えっちするんだぁぁぁあああ!」
最後の一言は、会場全体に響いていた。




