第75話 部下にはかっこいいところを見せたい大手企業社長
結局、俺たちはしばらく警察や政府とのやり取りで忙しかった。
休暇は中止。
剣騎は長崎の実家に帰るとのことだったので、レンタカーを借りて1人で行ってしまった。
政府にいろいろ聞かれる前に決断したのがさすがだと思う。
そのせいで、俺たちは数日間政府に拘束されることになったわけだが……。
「政府としましても、佐藤さんに関してはこちらで身柄を預かりたいと考えているのですが――」
「それは断る。我々が責任を持って彼女を保護しよう」
「しかし――」
政府の拘束は思ったより悪くない。
俺と西園寺、姉さん、楓香はこの3日間、福岡の高級ホテルにて、それなりのもてなしを受けている。
というわけで生活には不自由せず、快適中の快適だった。
だが、その裏には当然、何かしらの下心がある。
政府は今、佐藤の身柄を本格的に拘束していた。
犯罪の容疑にかけられているわけではないものの、闇派閥に関する情報の統制をするために利用しようと考えているんだろう。
姉さんも同じく闇派閥出身だったが、俺の身内という事実が拘束の足枷となったみたいだった。
両親を亡くした哀れな姉弟。
その肩書きが彼らには厄介なものに見えたのかもしれない。
「佐藤さんの生活から自由を奪うというようなものではありません。しばらくは監視対象として監視させていただきますし、定期的に連絡を取るようにはしますが……」
「……」
西園寺が腕を組んで黙り込む。
その間にも、見えない魔力の波動はびしびしと伝わってきていた。
多分この波動は一般人である政府の役員にも十分に伝わっている。若い男性の役員は顔にうっすらと冷や汗をかいていた。
ホテルの応接室に呼ばれた西園寺と俺。
おまけという形で俺まで呼ばれたんだろうが、もしここに剣騎がいれば彼が呼ばれていたんだろうと思うと、少し複雑だ。
面倒事を押し付けやがって、という気持ちと、剣騎のように話が得意じゃなくて悪かったな、という気持ち。
俺は政府と【ウルフパック】のバチバチとした交渉の中で、一言も発していない。
「佐藤に闇派閥から暗殺者が送り込まれた場合、どうするつもりだ?」
「それは……政府所属の冒険者に対応を――」
西園寺の鋭い質問に、言葉を濁らせる役員。
「敵は強い。Sランク冒険者でさえも苦戦するほどの実力を有した冒険者だ。失礼だが、政府の冒険者にAランク以上の冒険者はいるか?」
「いえ……Bランク冒険者が5人ほどおりまして――」
「話にならない」
「――ッ」
「Bランク……いや、Aランク冒険者でさえも対応できない次元に我々及び奴らはいる。政府では対応ができまい」
西園寺の言う通りだ。
政府も自分たちの手で冒険者を育てるようなカリキュラムを立てているようだが、冒険者業界の古参企業である【ウルフパック】と【バトルホークス】が有力な逸材を回収するせいで、なかなか強者の輩出ができていない印象がある。
「でしたら、護衛として【ウルフパック】のSランク冒険者をつけるというのはどうでしょうか。もちろん政府が雇うという形になるので――」
「それをするのであれば、我々が直接保護した方が確実だ」
「しかし――」
両者とも譲らない。
男性役員にとっては交渉決裂して上司に向ける顔がなくなるのを恐れているのかもしれないな。
というか、こんな重要な契約の提案に若者を送り込んで良かったのか? 政府もなかなかの鬼畜だ。
「もし【ウルフパック】が佐藤を保護すれば、我々で彼女の教育を施すつもりだ。教育施設も政府のものより我々のものの方が充実している」
「……」
それもそうだな。
そういえばうちの組織もなかなか鬼畜な訓練施設を持っていた。
「腹を割って話がしたい。政府にとって不都合なことが何なのか、我々にとって不都合なことが何なのか」
「……わかりました。政府としては、前回の『ノーバディ』の件と同様に、佐藤さんも政府の管理下に置きたいということでしょうか。民間企業に管理の権限を渡したくはないというのが本音です」
「そうか……」
ノーバディというのは、派手な爆発でキャンピングカーまで巻き添えにした、あの少年のことだ。
少年は政府に一度拘束された際、取り調べに一切応じることがなかった。さらには一切の情報が得られなかったため、誰でもないという意味でそう名付けられたらしい。
「我々としても、政府と対立することは避けたい。そこで、条件付きで佐藤が政府の管理下に置かれることを許可したいと思っている」
「条件、ですか……」
「佐藤の監視情報や資料を全て【ウルフパック】に共有することだ。それなら何かあった際の対応がスムーズに行える」
「つまり、契約上は政府が佐藤さんを管理下に置くことができるものの、その情報は全て御社にも共有される、ということでしょうか」
西園寺が静かに頷く。
これ以上は譲歩しない、という意味での牽制でもあるな。
「わかりました。すぐに上司と連絡を取りますので、少々お待ちください」
この後、上司からもオッケーをもらったのか、安心した表情で戻ってきた男性役員と西園寺はいくつかの契約を結んだ。
結構多くて面倒だし、俺にはまだわからないことも多かったので割愛する。
全ての契約が終わり、応接室には俺と西園寺だけが残された。
すると、一瞬にして西園寺の表情が変わる。
というか、緩む。
「才君、さっきのオレ、かっこよかった?」
「あ、はい……かっこよかったです」
「ふへぇ」
やっぱりこの人は相変わらずだなと思った。
《白熱の最強冒険者決定戦編 予告》
また休みのない戦いを終え、疲れ切った黒瀬に、西園寺から【ウルフパック】の冒戦参加が伝えられる。
【バトルホークス】からはSSランク冒険者、神宮司皇命も参戦。実力者同士の白熱した戦いが、幕を開ける。




