第74話 あっけなく決着がつくという虚しさ
少年との対決は剣騎が引き受けてくれた。
懸命に佐藤を狙う闇派閥の実力者だったが、剣騎を前にすると手も足も出ない。
それほどまでに、剣騎は並外れた実力者だった。
「さすがはソードナイトと言われてるだけはあるっすね。ぼくちゃんの隙を逃さずに突いてくる……」
「いくらなんでも、この状況は君にとって不利だと思うけどね」
「正直、黒瀬さんには勝てるっすよ」
「それは経験に基づいた仮説かい?」
「そうなるっすね。前回はあんな化け物が現れなかったらぼくちゃんが余裕で勝ってたっす」
「だそうだ、才斗」
剣騎がからかうように俺を見る。
ちなみに、少年が言った『化け物』とは、俺と楓香のピンチを救った神宮司のことである。
確かにあそこで最強冒険者の加勢がなければ、俺は今ここに呼吸をしながら立っていないのかもしれないな。
「悪いけど、ここは僕が少しばかり活躍させてもうらよ」
ハンサムな笑顔を振りまきながら、剣を動かし続ける剣騎。
彼はまさに、剣を振るために生まれてきた。
自分の体の一部であるかのように剣を操り、狙った位置に正確に攻撃する。すると相手は防御に転じる暇がない。
剣騎たちはついに、華麗な足運びを維持したまま、キャンピングカーの外に出た。
これで存分に暴れられる――わけでもなく、他の車もたくさんあるし、人も少し歩いているから余計に気を付けて戦う必要が出てきた。
キャンピングカー内での剣のぶつかり合いは、十分にできない足場の移動、十分に振り回せない剣の不自由さもあって厳しかった。
だが、少なくとも純粋な戦いやすさでいえば、外でやった方が格段にいい。
剣騎が出た後のキャンピングカーは、さらに騒がしかった。
彼の言葉に従おうとしていたのだ。
姉さんが運転をし、少し遠くの方へ逃げる。
闇派閥の標的である楓香と佐藤を連れて。
「私が運転する。大丈夫。運転は苦手ではなかった」
「それが心配なの! そもそも無免許運転はダメでしょ!」
「緊急事態は仕方ない」
姉さんの不愛想な言葉に熱のこもった批判が入る。
佐藤は命を脅かされている立場なので、本来は怯えているべきだ。
それなのに、この中で1番生き生きとツンデレをこなしている。
佐藤の制止も届かず、結局姉さんは運転席に腰掛け、力強くアクセルを踏み込んだ。
***
「その必要はない」
低く威圧感のある声に、この地域にいる人間全員が注意を引かれる。
――西園寺だ。
誰かと戦っているとのことだったが、もう終わったのか……。
決着は言うまでもないが、相手が生きているのかどうかはわからない。
「我々は皆がヴェルウェザーに転がされていた」
「……」
西園寺はゆっくりと剣騎たちの戦いに歩いて向かっている。
圧倒的強者感。
少年と剣騎の剣の動きに乱れはないが、少年の表情は明らかに焦っているようだった。
姉さんもアクセルを踏むのをやめる。
時が止まったかのような錯覚に陥るが、ここにはただ【ウルフパック】最強の存在がいるのみ。
「少年、お前の任務もここまでだ」
西園寺はただそれだけを言った。
深いことは知らない。だが、西園寺がその言葉を発した瞬間、少年の頭が爆発した。
俺たちは彼の名前も知らなかった……。
「あっけないな……」
俺も思わず言葉を失う。
派手なバトルの末に敵を倒した、となれば、その冒険者は英雄扱い。全員のテンションが上がる。
だが、実際は相手の自爆。
あのまま戦い続けていたら、正直剣騎と少年のどちらが勝つのかはわからなくなっていた。
ただし、頭に起爆装置が組み込まれているという時点で、誰かに人生を握られているということ。
「ヴェルウェザーの目的、佐藤君の目的……いろいろ聞きたいことがある」
大健闘したものの、西園寺のただの登場にいいところを奪われてしまった剣騎が、少しも笑いを含んでいない顔で言う。
「私が九州旅行に賛成したのは、闇派閥のことも絡んでいた。少し前に実際にヴェルウェザーと会い、話を聞いた」
「ヴェルウェザーに直接?」
西園寺の言葉に、気付いたら質問していた。
黒幕のような、ラスボスのような存在に真正面から会いにいくとは、やはり西園寺は違う。
「その件も含め、闇派閥のことに関しては今後の会議で話し合おう」
「それもそうだね。ここだと誰に聞かれているかもわからないし、まずはキャンピングカーに戻って――」
切り替えの早い剣騎が、さっと振り返る。
すると……。
「さっきの爆発で、キャンピングカーも吹っ飛んだのか……」
首に手を当て、やれやれというように呟く。
しかし、そうしているうちに西園寺の様子に気付いたようだ。
一気に青ざめる剣騎。
剣騎のせいじゃないと思うが。
「すまない、僕の指示が不十分だったばかりに……」
「一般人に被害が出ていないことが大切だ。負傷者はいないか?」
「戦いには誰も巻き込んでないよ。幸運だったのかもしれない」
「そうか。それなら構わないんだが……」
西園寺が鼻をすする。
――おや?
これはもしや……。
「もうどーすればいいんだよぉぉぉおおお! せっかく才君と休暇満喫しようと思ってたのにぃぃぃいいい!」




