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第7話 鉄の意志

 エイダはもはやコールセンターを通してではなく、直接支部に連絡、あるいは訪問して呪いを解除してもらうようになっていた。ハイネマン隊長はとっとと解呪師になって自分で始末できるようになれ、と言ってきたが、エイダは毎回「考えておきます」とかわし続けていた。


 その日は駅前の交差点に呼び出された。街頭ビジョンが人気アイドル――隊長がたびたびゴリ押しで売り込んだ結果と罵っている人物だ――の新曲を流している。辺りを見渡すと雑踏の中にちらほらと、灰色の制服を纏った解呪師がいるのに気づいた。彼らは帝都ウィルミアの日常であり、都市に溶け込んでいる。


 不意に背後で「どうも」とジェシカの声がしたと思ったら、エイダは周辺の歩行者もろとも粉砕され、即座に杖で修復された。いきなりだったのでエイダは若干不満に思ったが、その他の人々は大して気にする様子もなくそのまま歩いていった。


「ジェシカ、いきなりはやめてよ」

「緊急でしたので。この度は右手の甲に謎の紋章が浮き出て消えないとのことでしたが」ジェシカは相変わらず伏目のまま説明する。「それは死の呪いであと七秒後に死ぬ運命だったのでその前に殺して解呪いたしましたがいかがでしょうか。もちろん七秒後に死んだ場合でも杖で蘇生できましたが」

「そういうことなら別に良いよ、それにしても今日は何で支部じゃなくてここだったの? 冷房効いてるとこのほうが良かった」

 初夏のウィルミアを早々に猛暑が襲い、エイダは日々自室の冷房を十八度に設定してこもりきっている。

「夕勤の一人が石化する呪いにかかり海に沈んでしまいました。解呪が面倒だったのでそのまま放置して、また新しい人を雇うため面接しているのです」

「なるほど」


「無理を承知で言いますけどわたしも隊長と同じく、エイダに加入していただきたい気持ちがあります。初回の依頼から数えて三十回ほどですが、そのたびにあなたに抗呪の力が増しているのが分かりますから」目を伏せたままで少女は言った。

「隊長とかが言うとおり、解呪師になる才能があるってこと?」

「そうです。解呪師になる人間は三つに分類されます。まずわたしのように、静穏状態の呪いが発現した人間。次に、ウィルヘルミナ姉さんのように災禍状態の呪いが発現し、それを鎮静化した人間。そして、あなたのように災禍誘発体質の人間です」

「この体質は呪いじゃなくて? 呪いばっかり引き寄せるのはそれ自体呪いみたいなものじゃない?」

 ジェシカは下向きのまま頷く。「手間がどれだけかかるかの違いですね。誘発体質は何度も呪いを処理していけば、自然に消えることが多いのですが、あなたのように徐々に抵抗力が生まれ、その結果強力な解呪師となった例がいくつかあります。えてして呪いそのものを操る、恐るべき力に目覚めることが多いです。あなたもこの街を守る上で大きな力となるかも知れません」

「あんまり成績とか褒められたことない身としては光栄だけど」エイダは力強く宣言する。「私は働く気がない。労働は害悪という認識なので。働かなくてもお金が入ってくるのに、なぜ労働で青春の貴重な時間を犠牲にしなきゃいけないのか理解できないので無理。不可能。金輪際」


 俯いているために表情をうかがい知ることはできなかったが、ジェシカは沈黙ののち、「そうですか」とだけ呟きその場を去った。

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