第28話 十八歳の私だけ_3
「ねえ、個人商店だって。今どき珍しいね」
しばらくふたりで並んで歩いた。安田がふと、唯たちと何度か訪れたことのある河津桜商店の前で立ち止まった。昭和に取り残された軒先に、白猫が暑さにだれて寝転んでいる。私の顔を覚えているのか、猫は甘えるように小さく鳴いた。
何が琴線に触れるのか、唯は入学当初からこの店を贔屓にしている。「河津桜商店ってね、当たりのブラックモンブランは置いてないんだよ。当たり入りのアイスは単価が高いんだって。初めて立ち寄った時におじさんがうっかり漏らしてたから、きっと本当だもん。なんかそれって、資本主義の闇じゃない?」と 聞いてもいないのに長々と愚痴り、ふてくされていた。それなのに、唯は彼氏や友人たちを連れて、この店に足繁く通っている。
「入っていい?」安田が私のスカートを引っ張り、河津桜商店を指さす。「電車に乗る前に、アイスが食べたい」
「パンケーキ屋にもアイスはあるよ」
「今、食べたいの。加藤と一緒に」
堅実な生き方を目指す少女は、稚拙な距離の取り方をする。
「だめかな」
安田は眉を顰め、俯きがちに尋ねる。
アイスなんて、1日に3本も食べられない。女子高生は糖分と可愛いものに過度に依存している、なんて大人は常に勘違いをしている。何事にも、限度がある。若い内臓だって糖質に胃もたれするし、同じ冷たさに舌も飽きる。けれど無下にすることもできず、投げやりに頷く。私の承諾に、彼女は心底嬉しそうに笑った。
安田以上に屈託なく笑う人間を、私は知らない。
薄暗くて埃臭い店内に足を踏み入れて、壊れかけの冷凍庫からアイスを漁る。
あ、と私の口から声が漏れる。どうしたのと安田が尋ねる。
「ブラックモンブランがない」
「本当だ」
冷蔵庫の中を覗き込む安田も肩を落とし項垂れる。子供のように騒ぐ私たちを見かねて、店主のおじさんが声をかけた。
「悪いねえ。老人会のおばあさんが、珍しくたくさん買って行っちゃったんだよ」
「へえ、人気なんですね」
「結構、この時期はお客さん多いんだよ。意外と若い子も来てくれてね」
ひんやりとした商店を出ると、アスファルトから生まれる熱に目が痛む。商店街の入り口にうっすらと蜃気楼が揺れる。それくらい暑い日には、口が冷えればアイスなんてなんでもよかった。
何を書けばいいのか分からず、とりあえず好きなものを書いてみました。
アイス、田舎、個人商店。




