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第27話 十八歳の私だけ_2

 「どこで食べよっか」

 隣でスマホをいじる安田の目線は、私より少し上にある。歩みに合わせてピアスが揺れる。短い毛先は日に当たって茶色くパサついている。昨日まで知らなかったことを、毎日たくさん知っていく。そんな当たり前の事実に、ようやく気付く。ありふれた贅沢を噛みしめる。

 「涼しいところならどこでもいいよ。加藤が決めていいよ」

 「新しくできたパンケーキ屋にでも行く? 絶対冷房効きすぎてて、死ぬほど寒いと思う。賭けてもいいよ」

 二駅先の小洒落たパンケーキ屋の名を、私が挙げる。トイレで化粧を直し、持ち直した顔面の安田が、からかうように私の顔を見つめる。

 「パンケーキ好きなの? 女の子みたいな趣味で可愛い」

 「まあね。可愛い女の子だから」

 「別に加藤、顔はそんなに可愛くないよ。雰囲気がそれっぽいだけ」

 「うわ、最悪。やっぱり今日は帰る」

 「嘘だって。可愛いよ」

 私は残念ながら、友人の唯のようにぶりっ子ではなく、綾乃のようにさばさばもしていなくて、百合谷のように清楚な美人ではない。取り柄も個性もないと、私を嫌う人は悪口を言うかもしれない。

 それでも、楽しく生きている。

 こんなに暑苦しくて汗が噴き出す日に、翌日に反省文を書かされることが確定している日に、友人たちに付き合いの悪さをそろそろ釈明しなければならない日に、同情や好奇心を友情や恋心と勘違いできる程度には、楽しく生きている。

 商店街の入り口の看板を通り過ぎる。駅が目前に迫る。

 「加藤は今のままでいいよ。ずっと今のまま、変わらないでいて」

 安田の潔いショートカットと大振りのピアスは、彼女が歩くたびに、無邪気に笑うたびに、大げさに揺れる。

 「うふふ。ちょっとだけ、前向きに検討させて欲しいなあ」

 私はポニーテールを結びなおしながら、わざとらしく鼻にかかった、甘ったるい声を出してみる。慣れない声音にたんが絡み、少しむせる。

 「なにそれ。暑さで脳みそやられちゃった?」安田が不思議そうに、首を傾げる。

 「副担任のさとみちゃんの真似してみた」

 「うわ。全然似てなーい」

 「ちょっとは気を使って笑ってよ」 

 快晴の青空に、零れ落ちるような入道雲。何の変哲もない、真夏の平日の午後3時。


反省文を書いて清算される失敗なら。

そのうち友人に打ち明けて笑って流して、

ちゃんと反省して大人になるだけ。

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