第10話 青天の霹靂は屋上に存在する_2
文化祭の係に関する話し合いは、思いの外つつがなく終わった。展示物点検係は文字通り、当日に展示物を交代制で点検するだけだった。去年割り当てられた交通整備係より、かなり楽で責任もない。
隣の不真面目な女子も、「あたりだ」と小さく笑っていた。
名前は安田。三年四組。バトミントン部の副キャプテン。
次の集まりは、文化祭の十五分前。先ほど届いた唯からのメッセージを見ると、唯と綾乃の係は定期的に話し合いを重ね、当日まで入念な準備を続けるという。
“先んじて人を制することは大切だね。勉強になったなあ”なんて、私にしては珍しく皮肉ったらしいメッセージを、即座に唯に返した。
気の置けない友人に対して、メリットもないのに無駄に好戦的になってしまったのは、エアコンの無い炎天下の屋外のあまりの暑さで、きっと理性がやられてしまっていたから。
「やっぱり屋外は暑いなー」
「夏だから暑いに決まってるじゃん。加藤、何言ってんの」
熱風が頬を撫でる。貯水タンクに遮られてできた日影に座っても、空気は煮え湯のように滾り、じめじめといつまでも纏わりつく。
安田は慣れた様子で半袖のセーラー服の袖を捲り上げ、額に浮いた汗を手首で拭う。華美な化粧の下で上気した笑みを、苦々しく眉を顰める私に向ける。
「屋上で汗をかいて制服を汚すのってさ、夏って感じがしない? 今しかできないことの代表例って感じで」
「クーラーが普及する以前の話? 戦前の思い出の代表例って感じ」
「戦争なんて知らないくせに。適当なこと言っちゃ駄目だよ」
無邪気な子供のようにからからと笑う安田は、リュックから煙草とライターを取り出し、手早く火をつけた。「あ、加藤って煙草嫌いだったっけ?」
「別に。好きなようにして」
「その表現、ちょっとエロい」
「センスも教養も無いおじさんみたい。きもいよ、安田」
褪せたコンクリートに反射した日光が、メガネのレンズを通過して私の目を潰す。額から流れる汗が目に沁みる。蒸し暑く煩わしい現実から逃げるように、静かに目を閉じた。
仕方なく、小一時間前の集まりを思い出す。クーラーの効いた教室の、あのどうしようもない倦怠感。
20歳未満の酒・煙草・ギャンブルは本当にダメ。
ただのフィクションなので、真似するのは絶対にNG。




