初等部編 カトリーナside3
そして、ついに恐れていた時がやって来てしまった。「後はお若いお二人でー」なんて言われた時は「置いていかないで!!」とすがりたくなった。しかし、これから先スクラート様との未来を考えるのならば、ここは越えなければならない壁だ。私は笑顔で言葉を飲み込んだ。
男は度胸、女も度胸!!
大丈夫。相手は私より7歳も年上なのよ。13年間も人と接しないで生きていける人なんていないし、初等部から学園にも入っているはずだもの。こんなに年の離れた子供に対して酷いことするはずないわ。話だって多少は合わせてくれるはずよ!!
どうにか気合いを入れ直して、スクラート様の方を向く。すると、冷たい瞳と視線が交わった。
一瞬気圧されたが、負けてなるものかと目はそらさない。うん、大丈夫。お母様の方が怖いもの。これくらいじゃあ、負けないわ。さぁ、勝負よ。絶対に笑わせてみせるわ。
だって、家族になるのなら笑顔溢れる家庭にしたいもの。笑わない人なんて問題外よ。
「あの、私、スクラート様の研究についてお聞きしたいですわ」
シュツェ家は学者が多い家系なので、とりあえずは無難な研究の話題をふってみる。私自身もとても興味があるので、盛り上がるはずだ。しかし、返ってきたのは予想もしなかったものだった。
「子供に言ったところで理解できない」
あまりのことにすぐには相手が何を言ったのか分からなかった。呆然と立ち尽くす私をスクラート様は鼻で笑う。
「いずれ誰かと結婚しなければならないから、仕方なくお前を選んだんだ。仲良くする気は端からない」
まさかこんなことを言われるとは微塵も思わなかった。なんで!?と心の奥底にしまったはずの不満が涌き出てくる。
なんで、歩み寄ってくれないの。
なんで、私がこんなやつと結婚しなければならないの。
なんで、レーン様と結ばれなかったの。
なんで、私なの。
なんでーーーーー
なんで、アリアばっかり幸せなの。
涌き出た感情をコントロールができない。今の状況を憤るだけではなく、私はアリアにも嫉妬していたのだ。レオナルド王子とジンスさんに大切にされているあの子のことを心のどこかで妬ましく思っていたのだ。
こんな感情、知りたくなかった。相手がよりにもよって親友だなんて。なんて私は醜いのだろう。
あぁ、だからか。だから私は幸せにはなれないのね。
諦めにも似た気持ちのまま、スクラート様を見る。きっと私の幸せはここにはないんだわ。でも、それが私にはお似合いね。
「私はお慕いしている方と結ばれることができなかったのであなたとのお話を受けることにしました。あの方で無ければ誰でも同じですわ。
私達は誰かを選ばなければならなくて、仕方がなく与えられた相手を選んだ。きっと私達はとても良く似ていますわ。相手に興味関心が全くないところが特に」
こんなことを言えば関係は悪化するだろう。けれど、最初から無理だったのだ。良好な関係を築くなんて。それでもこんなことを言ってはいけないことくらい分かっているのに口が止まらない。
「あなたは仲良くする気はないとおっしゃったけれど、婚姻はいわば契約よ。あなたと婚約をした時からあなたは私のもので、私はあなたのものよ。愛人を作る方もいらっしゃるけれど、私はそれを許さないわ。あなただけ幸せになんて絶対にさせない」
日々の中であんなにも気を付けていた令嬢としての話し方も無意味だ。そんなものがあったって私は幸せにはなれないんだもの。せめて、スクラート様も道連れにしてやる。自分だけが幸せになるなんて許さない。
「婚姻と言う名の契約に縛りつけられるのは私だけじゃないわ。スクラート様、あなたもよ」
次回はスクラートsideです。




