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初等部編 スクラートside1


「婚姻と言う名の契約に縛りつけられるのは私だけじゃないわ。スクラート様、あなたもよ」


 目の前の少女の表情に、言葉に、激しい拒絶を感じる。

 私と人生を共にすると言いながら、私のことは愛さないという。


 今までどの令嬢も私を見れば頬を染め、猫なで声ですり寄ってきた。時には既に婚約している年上の女性までいた。

 気持ちが悪い。彼女等に思うことはこれだけで他に何の感慨もなく、女性への嫌悪感が増していくだけだった。


 そんな彼女等と目の前の少女は同じだと思っていた。だから私の研究について聞かれた時も相手にすらしなかった。興味もないくせに、取り入るための口実に私の大事なことを踏みにじったと思った。

 どうせこいつも私の地位と容姿しか見ていないくせに……と。


 でも違った。全ては私の勘違いだった。この少女も私と同じでこの婚姻へと続く契約を望んではいなかったのだ。

 悪いことをしてしまった。すぐにでも謝らなければならないことは分かっている。けれど、今まで謝罪など一度もしたことがなく、どうすれば良いのか分からなかった。


「そうか。私と君は一蓮托生(いちれんたくしょう)だな」


 こぼれ落ちた言葉は謝罪でもなんでもなく、ただの事実。私は(ようや)くこの婚約者候補、未来の花嫁の存在を認められたのだ。認めたとは言っても、一人の少女として……だが。


 それでもカトリーナは目を(しばた)かせている。私の変化を感じ取ったのだろう。聡い子だ。

 散々な言われようだったが、私の目を覚まさせるにはあれくらいしなければ、何時までもカトリーナの言葉に耳を傾けることはなく、互いを不幸にし合っていく道を歩んだことだろう。



「リーナ……と呼んでも?」


 私だけの呼び名が欲しくなった。互いに恋愛感情を持って愛することはなくても尊重し合えるようになりたい。家族としての愛を育んでいけたら……。私の両親のように。


 戸惑った様子を見せながらもリーナは首を縦にふった。今はそれで良い。私の印象は最悪だろう。それでも急に歩みより始めた私を拒絶しなかったのだ。幼いながらも懐の広い優しい子なのだろう。


「リーナ、屋敷のなかを案内しよう。君のことを教えてくれ」

 そう言って手を伸ばせば、黙って私の手を取ってくれた。あぁ、私達は家族になるんだ。


「恋をすることはないかもしれない。けれど、君のことを尊重しよう」


 酷い言葉かもしれない。傷つけたかもしれない。それでも、リーナには誠実でいよう。今、私に言えるのはこれだけなのだから。

 けれど、リーナは私の言葉に傷ついた様子はなく、真っ直ぐに私の目を見返してくる。


「私の心はもう別の方にあげてしまいました。けれど、私の操はスクラート様、あなたに捧げますわ」

 

 好きな人と結ばれなかったから私の婚約者候補になることを了承したと言ってはいたがここまでだったとは。驚きはあったが何処かで納得している自分がいた。

 何て思い通りにならない子なのだろう。思わず笑みがこぼれる。こうでなくては、面白くない。


「いいだろう。私も他所で女を作らないと誓おう。リーナ、私にとって君が唯一だ」


 目を見開いた後、リーナは楽しそうに笑った。



 夏には留学をして帰ってくるのは私が高等部を卒業する時だ。


「リーナ、次に会うのは私達が婚約する時になる。さっきの言葉、忘れるなよ」

「スクラート様こそ、他所で女を作ってきたら承知しませんからね」


 顔を見合わせて笑い合う。これからだ。少しずつ信頼し合える関係を築いていこう。まずは、文通なんかするのも良いかもしれないな。自分自身の変化に自分でも笑ってしまう。けれど、悪い変化ではない。


 私は軽い足取りで小さな手を引いて歩き始めたのだった。



初等部編の前半部分はこれで終わりです。次回からはもう少し大きくなった初等部編の後半になります。

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