初等部編37
イザベラは私とレオに向かって宣誓をした後、すぐに何事もなかったかのようにご飯へと視線を移した。
「皆さん何をぼやっとしてますの?早くしませんと折角のご飯というものが冷めてしまいますわよ。
それにしても、この胡麻はどうするのかしら?それにサーモンの塩焼きなんて初めてですわ。どうやって食べるのが良いのでしょう」
頬に手を当てて真剣に悩むイザベラの変わり身の速さに私だけではなくレオやカトリーナまで唖然としていた。
「イザベラは昔から驚くほど切り替えが早くてね。本人の中ではさっきの話が完結してるんだ。最初は驚くこともあるだろうけど、そのうち慣れるさ!」
とプリオスが微妙なフォローを入れ、イザベラはイザベラで「慣れてくださいませ」とマイペースなことこの上ない。
「そんなことより、折角だからより美味しく食べたいものだな。やはりジンスに食べ方を聞くべきかな?」
流石双子と言うべきか、私達の驚きをそんなこと扱いしている。
レオって王子様なのに何か皆の対応が雑よね。そんなことって言われてるし……。まぁ、その中には私も入るんだけど。
何とも複雑な表情をしたレオに対してもう一人のマイペース人間……というかステーキが絡むとマイペースになるフランチェスコがステーキを切りながら話しかける。
「このご飯というやつは不思議な食感だが素晴らしくステーキに合うな。ほら、レオナルドも早く食べなよ。一緒にステーキとご飯の相性について語ろう」
そんな彼のお皿の中のご飯は既にほとんど無くなっており、メイドにお代わりまで要求している。
「フラン…………いつの間に食べ始めてたの?」
「ん?レオナルドがアリア嬢を口説いてた時には既に食べていたが?そんなことより、早く感想を聞かせて欲しいのだが」
「…………分かったよ。カトリーナ嬢の聞くのは後にする。という訳でカトリーナ嬢、食べ終わったらシュタインボックス領について少し聞かせてもらえないかな?」
「え?……えぇ、勿論ですわ、レオナルド様」
何か言いたげなカトリーナの視線をレオナルドは笑顔でかわし、フランチェスコに催促されるままご飯を口へと運んでいる。
フランチェスコにまでそんなことって言われているレオナルドって……。仲が良いと微笑ましく見るべきなのか、はたまた王族扱いを受けてないだけなのか。
カトリーナに視線を向ければ、そっと首を横に振った。
……あぁ、うん、そうよね。ここは見て見ぬふりが一番だよね。
楽しそうに話すイザベラ兄妹とステーキ魔神のフランチェスコ、苦笑いぎみのレオナルド。個性的な彼等を見ながら私もそっとご飯を口に運んだ。
もっちりとしていて仄かな甘味が口一杯に広がっていく。あぁ、幸せ……。
サーモンの塩焼きも一口。絶妙な塩加減に脂がのっていて、ご飯との相性も抜群だ。
モグモグと食べ進め喉の渇きを感じ始めた頃、ジンスが人数分のお茶を持ってやってきた。湯気の立っているお茶を皆にくばっている。
「これは、緑茶かな?」
レオナルドの言葉に私以外の皆がカップの中を覗きこんだ。
「あら、緑色ですわね」
「いい匂いだわ。何だかホッとする香りね」
「初めて見るけどレオナルドは飲んだことあるのかい?」
「モグモグモグモグ……」
思い思いのことを言う中でフランチェスコだけはご飯を食べ続けながらカップを見ている。
やはり最優先はステーキらしい。ぶれない人だなぁ。




