初等部編36
皆の前にほかほかのご飯が並べられた。その他にごま塩、サーモンの塩焼きもある。飲み物は緑茶だ。そして、フランチェスコの前には当然のようにステーキが置いてあった。
私は知らなかったのだが、鮭とサーモンは実は違う魚らしい。何でもサーモンはニジマス等と同じ淡水魚なんだって。
これって常識なのかな?それともジンスの前世の知識がすごいのか……。うーん。わからん!
炊きたてのご飯のにおいにさっきまでパンケーキを食べていたはずなのに『くぅ』と小さくお腹がなった。慌てて回りを見回したが誰も気づいていないようでホッと………………。
「ふふっ。ごめんね、アリア。あまりにも可愛いから笑っちゃったよ」
顔にじわじわと熱が集まっていくのを感じる。
「……きっ……こえた?」
聞こえてませんように、聞こえてませんように、聞こえてませんように!!
心の中で何度も祈るが、あぁ無情かな……バッチリ聞こえていたらしく「ごめんね」と笑顔で返された。
「レオ、いつからそこにいたのよ」
恨みがましく軽く睨めば、優しい目で私を見詰めながら微笑まれる。その姿は先程までとは違い私の知っているレオだ。
「シュタインボックス領について聞きたいことがあったんだけど、大人達は談笑してるからカトリーナ嬢に聞こうかと思って。そうしたらこんなに可愛いアリアを見られたんだもん。得しちゃったな」
それ質問の答えになってないから!私はいつからいたのか聞いたんだけど!!と内心突っ込みながらも、レオの声がイザベラに聞こえていないか心配になる。そんな私の考えなんかお見通しのようで……
「アリア、あんまりよそ見しないで欲しいな。何を気にしているのかは知らないけど、たまにはちゃんと僕を見て。初めて会ったお茶会の時みたいに」
と切な気に言わせてしまった。
あぁ、レオと向き合おうって決めたのにまたやってしまった。軽い自己嫌悪とイザベラへの後ろめたさ。皆よりも大人なはずなのに私は誰よりも臆病だ。分かってる、分かってはいる。いつまでもこのままじゃいけないことくらい。でも…………。
「私のことは気にしなくて良いのよ。私の想いとアリアの想いが例え同じ方へ向いてもそれは仕方がないことよ。とても魅力的な方ですもの。
私の方を向いて下さったら……と思うことは数え切れないほどあるけれど、それはあなたが気にすることではないわ。
アリア、きちんと自分の気持ちに向き合って考えなさい。私を理由に逃げるなんて許さなくてよ」
私の目を真っ直ぐと見詰めながらイザベラは微笑む。その目に嘘はない。気高くて、なんて美しいんだろう。
「私は…………」
どうしたいのだろう。誰が好きなのかな。レオ?ジンス?それとも……。
「私が好きなのは…………カトリーナとイザベラだわ。レオのことも好きだけれど、カトリーナとイザベラが好きなの。
正直、恋愛って分からないのよ。好いて貰えばもちろん嬉しい。仲良くしたいとも思うわ。でも、でも…………」
何て言えば伝わるのだろう。傷付けてしまっているかもしれない。こんな答えじゃ納得してもらえないかもしれない。逃げているだけかもしれない。
それでも、これが今出せる私の精一杯……。
「ごめん、急かしすぎたみたいだね」
「そうですわね、アリアはまだまだ子供ですものね」
レオとイザベラは顔を見合わせて困ったように笑い合う。そして、イザベラは花が咲くかのように可憐に笑みを深めた。
「レオナルド様、私諦めませんわよ。アリア、私達はお友達だけれど正々堂々戦わせてもらうわ!覚悟なさい!!」