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初等部編12



 ジンスの制服は私の涙と鼻水でグショグショになっていた。


「ごめん!どうしよう……。とりあえず脱いで!!」


 慌ててジンスの制服に手を伸ばすと……

ビシンッッ

私の額に衝撃が走った。

 あまりの痛さにしゃがみこんで唸っていると、目の前に影が差した。見上げれば仁王立ちしたジンスがこっちを睨んでいる。


「お前、分かってないだろ。そういうのをやめろって言ってんだよ。

 いいか!アリアは可愛いの!!そんなことばっかりしてたら、お前の取り合いが始まって大変なことになるぞ」


「恥ずかしいから、可愛いとか美少女とか言わないでよ!そもそもこんなキツそうな顔の女に寄ってくるわけないでしょ!?

 大体、何でデコピンされなきゃなんないわけ。意味分かんない」


 呆れた顔をされたので、今度は私が睨み付ければ再び額に衝撃が走る。


「痛いんたけど!!赤くなったらどうしてくれるのよ。

 って言うか、さっさと脱いで。洗って返すから」


 手を前に出して今すぐにでも渡すように要求すれば、鞄から弁当箱を取り出して手に乗せられる。


「……何?それより、ブレザーちょうだい」


「いいから、とりあえず開けてみろよ」


 渋々開けてみれば……おにぎりと卵焼き、それにきゅうりと大根が入っていた。

 懐かしい感じにまた目頭が熱くなる。


「俺の手元にある日本っぽいものってまだそれだけなんだ。味付けに使えるものも塩と砂糖だけだし……。おにぎりも塩で握っただけで海苔すら巻いてない。

 それでも、昨日のアリアの様子を見てたら渡したくなったんだ。あれだけご飯に反応してたから、もしかしたら日本を知ってるんじゃないかって……。

 良かったら食べてくれないか?」


「うん、うん!ありがとう!!

 でも、食べ終わったらブレザーちょうだいね」


「……そこは、誤魔化されろよ」


 いいえ。そんな汚いの着せては帰らせません。段々乾いてきてカピカピになってきてるのにもちゃんと気付いてるんだからね。


「駄目。無理。絶対持って帰る。

 それより、このお弁当ジンスが作ったの?それに、お箸もある!どこで買ったの?

 お箸使いたいのに売ってるの見つからないんだもん。特注しても良かったけど、食べてるものも洋食ばっかりだし、どうしても使いたいって訳じゃなかったから我慢してたけど、売ってるのなら私も欲しいなぁ」


「ブレザーは一着しかないから持って帰られると困る。諦めろ。

 箸は残念ながら俺の手作りだからどこにも売ってない。いるなら作ろうか?でも、使ってたら変な目で見られるぞ。俺は家族から変人扱いを受けたからな」


 うーん。変人扱いされるくらいなら諦めようかな……。



 いつの間にかテーブルにはもう一つお弁当が置いてあり、お茶のおかわりも入れてある。

 ジンスと一緒に「いただきます」と手を合わせて、おにぎりを一口食べた。

 

「おいしい……」


 前世を思い出してからずっと探していた。

 この世界にも大好きな家族や友達がいるけれど、いつも寂しかった。

 もう帰れないとは分かっていたけれど、それでも家族にもう一度会いたいと願っていた。

 叶わないのなら、せめて……せめてあの頃を思い出せる、幸せを感じられるものが欲しかった。


 おにぎりをもう一口食べてお茶を飲むと、自分の中で何かが満たされていくように感じた。



「泣くか笑うか食べるかどれかにしろよ。ったく、しょうがねぇなぁ」

 そう言ってジンスは優しく笑った。


 きっと私の顔はまたぐしゃぐしゃになっているだろう。

 それでもいい。やっぱり少し寂しいけれど今幸せなのだから。


 こんなに穏やかな気持ちになれたのは久々な気がする。


「ありがとう」


 伝えたい気持ちはたくさんあるのに、この言葉しか思い付かなかった。そんな私を見てジンスはより一層目を細めて笑ったのだった。




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