初等部編10
私達が友情を確かめ合っている間に男子達は研究について話し合っていたようで、現在非常に盛り上がっている。
「テーマとしては面白いと思うが、無謀ではないか?」
「しかし、上手くいったら不作の時、飢えて亡くなる人は確実に減るぞ」
「問題は受け入れられるかだよね。少なくともあのままじゃ食べれないだろうし、工夫が必要でしょ?」
「食る方法なら既に分かっている。それに、うちの領では数年前から始めて徐々に受け入れられてるんだ。俺も食ってるしな。
貴族には無理でも平民なら飢えて死ぬくらいなら絶対食べるだろうから、行く行くはどのみち広がるとは思うぞ」
上から順にフランチェスコ、プリオス、レオナルド、ジンスが意見を交わしている。
少しの間に概ねテーマが決まってしまったのだろうか?
「話し合っているところ申し訳ないのですが、私達もお仲間に入れて頂いても?」
「あぁすまないな、シュタインボックス嬢。これから説明するよ。なぁ、ジンス」
こちらはこちらで、親睦が深まったらしい。子爵家の子息が王族にあのような口の聞き方をするなんて本来なら許されないことなのだが、肝心の本人は気にしていないようだし、ここが学園であり社交の場ではないので誰も咎めたりはしない。
それでもタメ口を聞くなんて大物なのか、考えなしなのか……。相手を見て態度を変えているところをみれば前者なのだろうけど。
「あーっと、まず何から話そうか……」
悩みながらジンスが話したことはまさに私が探し求めていたものだった。
フォックス領は東国のジャポニクス国と隣接しており、隣国の風土にかなり近く麦が育たない土地なのだそうだ。代わりにお米がよく育つ。しかし、お米は家畜の餌としてしかこの国では使用されていない。
お米=家畜の餌ということが前世の記憶を持つ私としては信じたくない事実だが未だに食べられないということはそういうことなのだろう。
それを、なんとジンスは数年前から食べているという。
「フォックス領に行けば、お米が食べれるの?」
前のめりで聞けばジンスは体を反らして少し後退り、レオにはジンスとの間に割り込まれる。
「アリア、近すぎ」
少し不機嫌ぎみに言われるが、今はそれどころではない。
「ごめんなさい。少し興奮してしまって……。
それで、フォックス領へ行けばお米を食べられるのよね?」
前世の記憶が戻ってから求め続けたお米。私はほっかほかのご飯が何よりも食べたいのだ。
期待に満ちた目でジンスを見れば、まるで上客を見つけた商人のようににんまりと笑い頷いた。
「それは買えるの?どこで買えるの?フォックス領まで行かないと駄目なのかな?それとも、お取り寄せはできるの?」
矢継ぎ早に質問を重ねれば、カトリーナにガシッと肩を掴まれ、ゆっくりと首を横に振られてしまった。
興奮のあまり私は令嬢の仮面をあっさり脱ぎ捨ててしまったようで、落ち着いて周りを見渡せば様々な視線が突き刺さった。
やってしまった……。どう対処して良いか分からず、呆然と立ち尽くす。
立ち尽くしているのだが、ジンスはそんな私のことなどお構い無しに
「米は来週末で良ければ届けられる。それを炊く釜もいるだろ?費用については今度話し合おう。公爵様の許可も取っておけよ」
と話を続けている。
そんなジンスの話を聞いたら今の状況などあっという間に忘れ去り、当然素に戻ってしまうわけで……。
「やったーーー!!今日帰ったらすぐにお父様とお母様に話すわ。ありがとう!本当にありがとう!!」
両手を上げて喜び、その後にジンスの手を取って感謝しまくるという大失態を犯したのだった。
大失態を犯したのに、何故かその日からクラスメイトが非常にフレンドリーになり、気軽に話しかけられるようになった。
……何でなんだろう?
アリア、遂に念願のお米ゲットです。もう、研究の話をしていたことも忘れているようです。
レオナルドが不憫に思えるのは私だけですかね?




