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32・☆白竜再び

 

 

 

 シリウスは自室で、兄のルークとその友人ロンと一緒に、本を読みながらのんびりとした時間を過ごしていた。


 カイルとアルファは中庭で、近衛騎士たちに請われて剣と魔法の訓練を手伝っている。

本来は中庭で訓練などしないのだけれど、中庭以外の広いスペースではシリウスの自室が見えなくなってしまう。

他の場所では手伝えないとキッパリ言い放ち、この場所での教練となった。


 広場での襲撃と、ツヴァイの件があって以来、二人は前にも増してシリウスから離れようとしない。

ツヴァイの件は知らされていなかったルークだったが、傍から見てもピリピリしすぎている竜人たちから、少しの時間だけでも弟を離すべきだと思ったのだ。


 竜人たちが魔物を退けて以来、ルークの竜人たちに対する態度はかなり軟化した。

彼らがいなければ国が滅亡してもおかしくない規模の、おそろしい襲撃だったのだ。

それが一人の死人も出さず、怪我人だけですんだのは、間違いなく、あの日、人々のために戦ってくれた竜人たちのおかげだった。


 もしかしたら人々のためではなく、シリウス個人のためだったのかもしれないとも考えたが、それでもかまわなかったし、きっとそれだけではないとも思っていた。


 竜人という生き物は、基本的に人々を守ってくれる。

片手間でやっているのかもしれないが、もっと簡単に広場すべてを飲み込む範囲魔法を使えば、彼らは大した苦労もせずに魔物すべてを薙ぎ払えただろう。

そうしなかったのは、竜人たちが広場に残っていたわずかばかりの人々の存在をちゃんと認識していてくれたからだ。


 普段はシリウス以外の人間など路傍の石のごとく興味を持たない風を装っているくせに、きちんと助けてくれるあたりぬかりがない。

どちらにしろウェスタリアが今日も平和であるのは、彼らのおかげだった。


 ――そんなわけで、ルークは国の恩人であるカイルとアルファに、内心ではかなり感謝していた。

戦場に弟を連れて来た事に関しては言いたいこともあったが、ほかならぬシリウス自身が、現場に行きたくてカイルの制止を聞かずに三階の窓から飛び出した、と、聞くだに恐ろしい証言をしたので、これも認めないわけにはいかない。


 初級の魔法書を楽しげに読んでいる弟をチラリと見る。

見た目は天使のように清らかでおとなしそうな弟だったが、意外と気が強く、こうと決めたら一歩もひかない面もある。

のんびりお茶を飲んでいる姿からは、三階の窓から飛び出すような行動力があるなんて、どうしても想像しにくいのだけれど。


 ルークは考え事をしながら、ロンに家から持参してきてもらった竜に関する本を読んでいた。

いまひとつ信用していなかった伝説の数々に信憑性が出てきた気がして、改めて読み返してみたかったからだが、シリウスにひたすら甘く心配性な二人の竜人を身近で見ていると、やはりどうしても、本の中に出てくる威厳あふれる竜人たちの姿はどうにも遠く、うさんくさい作り話に感じてしまうのだった。


 ルークに本を貸したロンの方は、窓の近くの椅子に座って絵を描いていた。

最初に室内で読書する王子たちを何枚かスケッチし、今は窓から見える景色を木炭で描いている。

黙ったまま木炭を動かしていたロンだったが、雲間に何かの影が動いた気がして目をこすった。

気のせいではなく、その何かは徐々に近づいてくる。


「なんだ?」


 先日の魔物の襲撃の事が脳裏によぎり、緊張しながら立ち上がって窓の近くに寄る。


 ルークとシリウスも振り向いた。


「どうした?」


「いや、なにかがこちらに……」


「なんだって?」


 ルークもすかさず立ち上がる。

けれどシリウスは首をかしげただけだった。

確かに何かが近づいてくるのを感じていたけれど、それはとても心地よいものだったからだ。


 そしてその気配をシリウスは知っていた。

ほかならぬ、今身につけている腕輪から感じられるのと同じ、暖かく、同時に心地よい冷たさを持つ、やさしいエネルギー。

うれしくなって窓辺に駆け寄ろうとして兄に抱きとめられる。


「近づくなシリウス、危ないかもしれない。カイルとアルファを呼ぼう」


「兄上、ロンも、大丈夫だよ! あれはきっと白竜公だよ」


「白竜公?!」


二人の年長者が同時に叫んだので、シリウスは頷いた。


「うん、腕輪と同じ力を感じるもの」


あらためて窓辺に駆け寄って、徐々に近づいてくる人影を見る。


「兄上、窓開けて!」


「わ、わかった」


 ルークが窓を開け放つと、シリウスは窓辺から手を振った。

すると、近づきつつあった女性が、口元に指を当て、静かに、と合図を送り、中庭を示す。

どうやらカイルとアルファに悟られたくないらしい。

少し距離を置いて様子を伺っていたその女性は、隙をみつけたのか、すばやく窓からシリウスの部屋に滑り込んできた。


「ふう……」


息をついて、ニッコリと微笑む。


「お元気になられたようじゃの。我らがあるじよ」


 今日のシャオは先日と同じように髪を高くゆいあげ、なめらかな白い皮のドレスを着込んでいた。

美しい少女の顔に、それはとても似合っている。


「ぼくを助けてくれた白竜公だよね?」


シリウスが問うと、シャオはやさしく頷いて、その場に膝をついた。


「お助けしたなどと、畏れ多い事です。しもべとして当然の事をしたまでじゃ」


「ううん、ありがとう。ずっと会いたかったから来てくれて嬉しい」


シリウスはシャオの手をとって立たせ、あらためて礼を述べた。


「兄上とロンを紹介するから、そこに座ってね!」



挿絵(By みてみん)




 紹介する、と言われたロンとルークは、呆気に取られたように動けなかった。

白竜公が尋ねてきた事も大変な驚きだったのだが、これはすでに竜人二人が住み着いている以上ありえない事態ではない。

けれど、その白竜公がシリウスに膝をつき、自らをしもべと言い切った事はさらなる驚きだったのだ。


 ロンとルークは共通の思いを抱いて顔を見合わせる。

この調子でいくと、まだ見ぬ竜人、蒼竜も、同じような行動を取るのではないだろうか。


「シャオ、ぼくの兄上だよ、こっちはロナルド」


シリウスに紹介され、ルークは瞬きをして正気に戻った。


「は、はじめまして」


 ルークは今までの人生で、老若問わず、様々な人種、様々な地位身分の、多種多様な美しい女性を見てきた。

しかしその中で、シャオは間違いなくもっとも美しい少女だった。

やわらかな曲線と、しなやかな体。

雪のように純白のまつげが縁取る、やさしく知的なアイスブルーの瞳。


 ルークの赤面の理由を察し、シャオはいたずらっぽく笑う。


「はじめまして、ルーク殿。わしはシャオ・リーと申すものじゃ。世間では白竜公と呼ばれることの方が多いがの。――ちなみに512歳じゃ」


「ごっ……!?」


絶句してしまったルークを見て声を出し闊達に笑う。


「まあ、生きた年月など大した問題ではない。なにより今が重要じゃ。――それで、そちらがロナルド殿」


話題をふられてロンも緊張しながら手を差し出す。


「白竜公、お会いできて光栄です」


「わしの主を支えてくださっておるのじゃな。黒竜と赤竜では主に甘すぎるじゃろう。主に良くない影響を及ぼすこともあるでな、そなたらの存在は重要じゃ」


「シャオはこれからずっとここにいてくれるの?」


 椅子に座って薦められた茶を啜っていたシャオに、シリウスが問いかける。

シャオは穏やかな笑みを浮かべ、愛しい主人に瞳を向けた。


「そのつもりだったのですがのう」


「違うの?」


「わしが見て回った様子だと、どうも各国の様子がキナ臭い」


そう答えてルークを見る。


「アレスタをはじめとする諸国が、我ら竜の所在に敏感になっておる。瑣末なことにこだわって我らを思いのままにしようと躍起なのじゃ」


ルークは頷く。


「首脳会議を開いて事態を動かそうとしているようです。アレスタはカイルを、北方の国々は団結してアルファを取り戻し、ウェスタリアが竜人を独占している状況を打破しようと画策していると伝わっています」


「うむ。わしもそう聞いている。――無駄なのにのう」


しみじみとつぶやいて、シャオは茶をすすると目を閉じた。


「いまのこの現状でわしがウェスアタリアに残ると言ったら、火に油を注ぐようなものじゃろう」


「それですが、白竜公、まだ姿を現さない蒼竜公ももしかして、シリウス殿下に忠誠をお誓いになるおつもりなのでしょうか」


 ロンは肝心なことを聞き逃すまいと必死だ。

だがシャオはなぜそんな事を聞くのかと問いたげにアイスブルーの瞳を丸くする。


「当たり前ではないか」


「あ、当たり前なのですか」


「我ら竜人は生まれたときから我らが主の所有物じゃ。主はすでに蒼竜に会うておられるし、あやつは今も己の全存在をかけて主の御ために行動しておる」


これにはルークが目をむいた。


「蒼竜公に会ったことがあるのか、シリウス?!」


「うん」


これまたあっさりと返事をし、シリウスは少し寂しそうな顔をした。


「フォウルは、ぼくのために、きっとすごく無理をしてる。危ないことはやめて、傍にいてくれるだけでいいのに……」


「そうじゃのう、今日きたのはその件のこともあるのじゃ」


シャオは姉のようにシリウスの髪をやさしく手櫛で(くしけず)る。


「魔人の一人……。ツヴァイのヤツが何かピイピイとわめいていったであろう」


「うん。良く知ってるね」


感心した風に答えるシリウスの腕にはまった腕輪を、シャオは指先で触れた。


「この腕輪はわしの体の一部で作ったもの。細かいことまではわからぬが、重大な危険が迫れば十分伝わるようにできておる。万一の場合は若造だけにまかせておけぬ。わしも即刻、主のもとに馳せ参じる必要がありますゆえ」


 そう言って、端麗な面に熱意のこもった真剣な表情を映し、シリウスの手を両手で掴みしっかりと握って放さない。


「あ、ありがとう……」


さすがのシリウスも若干困惑気味だ。


 その様子を見たルークとロンはこっそり顔を見合わせる。


 白竜は、500歳を超えるという、賢者のような風情の、見るからに知的で美しい少女であったが、どうもこの様子だと、元からいる二名の竜人と内実は大差ないのではないか、と。


久しぶりの白竜です。

仙人みたいなしゃべり方の白竜さんですが、中身はカイルやアルファとあんまり変わりません。

ずっと一緒にいたいのを我慢できるあたりが500歳。


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