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28・☆空の光

 

 

 

 竜たちが苦戦している様子を、やや離れた上空に浮かぶ二人の青年が見学していた。

蒼い髪の青年フォウルと、緑の瞳の男だ。

緑眼の男が片目を瞑って赤銅色の癖毛をかきながらぼやく。


「あーあ、もう少し近づいてくれないと直接攻撃はもう出来ないな。さっき黒竜をのがしたのは残念だった」


フォウルは答えず、緊迫した表情で戦いを見つめている。


「どうしたフォウル、やっぱり彼らが心配かい?」


「心配なものか。――そうじゃない、そうじゃなくて……」


サファイアの瞳をこらし、フォウルは必死だ。


「……やっぱりいる!」


赤竜が胸に抱いている金髪の少年に気づいたフォウルは同行者の胸倉を掴んだ。


「あの人がここにいる! いますぐ攻撃を中止してゲートを塞げ!」


「えー、面倒だよ」


その場から飛び出していきそうなフォウルの肩をなだめるように叩き、緑眼の男はかすかに笑う。


「君たち竜人は結局、前と同じで最後まではあの子を守り切れないよ。だから君も、もうあの子の事はスッパリ諦めて、いまのうちに自分の人生を楽しんだほうがいいと思うけどなあ」


「……黙れツヴァイ……!」


 低く唸り、ギリギリと襟首を締めあげてくるフォウルに、ツヴァイと呼ばれた男は肩をすくめ慌てて見せた。


「ちょっ……、わかったわかった、苦しいよ。……今回は依り代も尽きたし、フォウルの望むとおりにしてやってもかまわないんだ。――でもほら、わざわざ僕たちがやらなくても、君の大事な光の君は自分でなんとかできるみたいだぞ」



挿絵(By みてみん)



―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 シリウスは空に生じている「月のようなもの」を、アメジスト色の瞳でじっと見つめ眉を寄せた。

上空の風に吹かれて細い髪が黄金の炎のように舞う。

白皙の頬がすすに汚れていた。


「アルファ、カイル、あれ、すごく嫌な感じがするんだ。ぼくが塞いでみるから、少し離れて」


「はい。でもどうやって……」


 カイルが腕の中の主人を大事に抱きしめ「月」から守るように隠した。

アルファも主人に類が及ぶことを恐れて「月」とカイルとの間に身を割り込ませると、黒鋼の巨体で壁のようにさえぎる。


「我が君、嫌な感じ、とはどのような……」


「よくわからないけれど、ここにあってはいけないものだと思う。あのままにしておいたら大変なことになる」


そう言って、カイルの腕の中で目を閉じた。


「たぶん塞げるよ。塔を作ったのと同じで大丈夫。空をつくればいいんだ」


 空をつくる? 二頭の竜が同時に聞き返そうとして失敗した。

夕闇の迫っていた空全体が、世界を金色の膜で覆うように淡く輝いたからだ。


 金の膜は頂上を中心に一段と輝く光の輪を広げて行き、輪の縁をなぞるようにまぶしい火花がキラキラはじけながらゆるやかにまたたく。


淡く光る無音の巨大な花火が空の頂点で炸裂したような光景だった。


 黄金の輝きが街全体に広がって、上空を見上げていたすべての人々の頭上に降り注ぎ、魔物の襲撃に怯えていた人々が恐怖を忘れてその美しさに心を奪われる。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 「シリウス……?」


 地上にいたルークも、空に広がって行く光のカーテンを目撃した。

大事な弟が塔を直した光景に似ていた。


 疲れ果てていた騎士たちは、やすらぎに満ちたその光を受けて膝をつく。

降り注ぎ続けていた黒い紙片はいつのまにかやんでいた。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 バナードは同級生たちや、一緒に避難していた人々と共に、丘の上から一部始終を見ていた。


 荘厳な雰囲気があたりを支配し、誰も言葉を発せない。

静まり返った広場の中央へ、上空で戦っていた二頭の竜が降りて行く。


「シリウス……!」


「あっ、バナード、どこいくんだよ!」


バナードは同級生たちの制止を聞かず走り出した。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―





 広場にはワイバーンたちの屍が累々と転がっていたが、そのほとんどが雷と炎によって炭と化していた。

赤竜の降り立つ羽ばたきで魔物だった灰が吹き飛んで行く。

すすにまみれた騎士たちが半ば呆然と竜たちの帰還を遠巻きに見守っていた。


 竜人たちを恐れていないルークも、丘の上から息を切らせて駆けつけたバナードも、近寄りがたい雰囲気に飲まれ、他の人々と共に遠巻きにするしかない。


 カイルが腕の中に守り続けていた主人をそっと地上に降ろすと、シリウスは手を伸ばしてカイルの鼻先を撫でる。


「ありがとう、カイル。わがままを聞いてくれて」


 カイルはルビーの瞳を細め、甘えるように鼻先を主の手のひらに押し付けた。

次にシリウスは、地上ギリギリまで顎を下ろしている黒竜の黒鋼色の首に触れた。


「アルファも、心配かけてごめん。でも二人とも、すごく強かったよ」


主人に褒められた竜たちはどちらもひどく幸せそうに見えた。


「――さあ、みんなでうちに帰ろう」


 返事のかわりに、獰猛な竜とは思えない優しい声を喉から出して唸り、アルファは首筋にあてられた主人の手の感触を味わうように目を閉じると、すみやかに人身に戻った。

同時にカイルも人へと戻る。


 「シリウス様、おぐしが……」


 輝きわたる金の長髪がすすで汚れ、その上、上空で風になぶられたせいで、寝起きのように乱れている。

カイルが手櫛でなでつけてやるが簡単に汚れは落ちなかった。

せっせと髪を整えてくれるカイルから視線を放してシリウスが振り向くと、唖然としたまま遠巻きにしている人々が眼に入った。


「兄上! バナード!」


大きな声を出すと、呼ばれた人物がハッとしたように駆け寄ってくれる。


「よかった、兄上もバナードも、みんな無事だったんだね」


「当たり前だ……!」


ルークは弟を抱きしめ、続けてカイルとアルファを睨む。


「シリウス、なんでこんな危険なところに来たんだ……! お前たち、あとで色々聞きたいことがあるからな」


言葉の前半と後半とで天と地ほども声音に差をつけたが、竜人二人はまるで意に介していないようだった。



挿絵(By みてみん)



バナードもすすだらけの顔で笑う。


「すごかったな、シリウス。オレ、たぶん今日の事は一生忘れられない」


しみじみと言って、広場を見渡した。


 シリウスが数日前に直した塔と、建設途中だった塔は、どちらも黒焦げではあったが、無事にそのまま建っていた。


「我が君、あまりお顔の色がすぐれませぬゆえ、早く城に戻りましょう」


 アルファの言葉にカイルもハッとなる。

すっかり暗くなっていたためわかりにくかったが、たしかにシリウスは顔色が悪い。

考えてみれば、シリウスは昼にも塔をひとつ完成させるという大きな力を使ったばかりだったのだ。


「もう一度竜身になりますので、今すぐ飛んで戻りましょう!」


「そんなにヘトヘトじゃないよ」


あいかわらず心配性な二名に苦笑しつつ、シリウスは息をつく。


 喜びに湧く騎士たちの顔を眺めながら、シリウスは遠く上空を去って行く二つの人影に気づいた。


「フォウル……?」


 そのうちのひとつの影に、以前見た蒼い髪を確認し、その名前を小さく口の中でつぶやいたが、遠くにあった二つの人影はすでに小さな点となっており、やがて完全に視界から消えてしまった。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 竜たちが街を守って戦ってくれた事は、その日のうちにウェスタリアの首都、ティラーナすべての人間に知れ渡った。


街のどこにいても、巨大な二頭の竜が、雷や炎の光をうけ、鱗を輝かせながら戦う様子を見ることができたし、大勢が黒竜の最初に放った咆哮を聞き、戦いの終わりに空を覆った光を目撃した。


 現場近くで直接彼らをみたものたちは、みな一様に、竜たちと共にいた金髪の少年のことを語った。

王太子ルークの事を「兄上」と呼んでいたその少年は、赤竜と黒竜に畏れず触れ、彼ら竜人を従えているように見えた、と。




―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―・―




 フォウルはツヴァイと共に、ウェスタリアを離れ東方にある無人島に到達していた。

どこの国家にも所属しない無人島群で、少なくとも見える範囲にはフォウルとツヴァイ以外誰もいない。


 その誰もいない島のひとつに、巨大な王城が建っていた。

石造りの建物全体に植物の蔦が絡まり、城壁の一部は崩れて瓦礫と化している。

天守がある尖塔すらも建物半ばで折れて崩れ、美しかった姿を想像するのは難しい。


「フォウルの大事なご主君はなんとか無事だったみたいだね。……本当に傍にいなくていいのかい?」


「傍にはべるだけでは、お前たちからあの方をお守りするのに足りない」


唸るように言って眼を伏せるフォウルを、ツヴァイが呆れたようにみやる。


「まあね。いずれあの王子様の魂は僕たち魔人のものになる」


「黙れツヴァイ!!」


殴りかかってきたフォウルの拳を交わし、ツヴァイは碧の瞳を細めて笑った。


「主を殺そうとしている僕たちと行動を共にする君も物好きだけど、君を許して傍においておく僕たちもかなりの物好きだ」


 フォウルが強く握り締めた拳は、力を入れすぎたあまり自らの手のひらを傷つけ、ポタポタと鮮血が滴っている。


「あーあ、無駄に怪我しちゃって……。それより、僕たちが勝手に彼らに手を出したこと、絶対怒られるぞ。アイシャは自分が一番に出るって張り切ってたし……」


 ぶつくさ言いながら、静まり返っている無人の城門へ向かってツヴァイが歩くその後を、フォウルが黙ったまま付いて行く。

誰も見張るもののない鉄の門扉は、二人が近づくと不快な軋みをあげながらゆっくりと自動的に開き、目的の人物を迎え入れた後、何事もなかったかのように閉じていく。


 門が閉じると同時に島から人の気配が完全に消え、二人が入城したはずの城からも生き物の気配は感じられない。


――誰もいない廃墟の城のみが、塩を含んだ海風に侵食されながら、静かに佇んでいた。









フォウルの名前の由来は「fallen」堕ちたもの。と言う意味です。

なので今は敵の手の中にいます。

自信たっぷりな他三名の竜人達と違い、衣服も地味で、一見控えめな人物です。


彼の真実はこれから少しずつ明らかにしていきますが、数話あとにかなりの部分がわかると思います。



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