27・☆炎に沈む
ご訪問、ありがとうございます。
今回、後書きのとこにイラストを載せてみました。
本文に載せるには空気の違う内容だったので……。
それと、今回から、みてみんの元画像の方に、ちょこっとだけコメントとかを入れてあります。
ほんっとーにちょっぴりなのですが、いつもクリックして飛んでくださる方が結構いらっしゃるみたいなので、入れてみることにしました。
東西広場での戦いは、次回で決着です。
アルファは己の竜身に取り付いている魔物どもを振り返った。
枝分かれしている黒鋼色の左右の角に電流が青白く輝き、長大な体を覆うように流れて走る。
その青白い光に打たれたワイバーンたちは悲鳴を上げてアルファの体から逃げ去ったが、キイキイと鳴いて周囲を離れない。
アルファは身をくねらせ、大人の人間の足ほどもある巨大な爪で魔物を引き裂いて行くが、こちらもキリがない。
いまも上空から黒い紙片は舞い降り続け、その数は増え行く一方だ。
「アルファ!」
かなり遠い場所からの呼び声だったが、アルファはその声を聞き逃さなかった。
すかさず振り向き、夕闇を切り裂いて飛んでくる赤い竜の姿を認める。
赤竜の手の中には見まごうはずのない金の光。
「カイル! なぜ我が君を連れてきた!」
怒号と共に稲妻を呼び、主君の進路を妨げる魔物を打ち倒す。
「アルファ、カイルを怒らないで。ぼくが無理やり窓から飛び出したんだ」
地上に降り立った赤竜はシリウスをそっと胸に抱き、上空のアルファを見上げる。
赤竜のルビーに輝く竜体に、たちまち魔物が群がった。
カイルは逞しい尾を一振りし、近づいてきた魔物を打ち払う。
同時に赤竜の周囲を取り囲むように灼熱の白いサークルが広がり、付近の魔物を消し炭に変えた。
「シリウス様、熱くはありませんか」
「大丈夫。それよりまだ広場のすみに人が残っているから気をつけて」
「心得ております。――アルファ、地上は私がやる」
前半分をシリウスに、後半をアルファに向けて声をかけ、カイルは主君を敵の目に触れぬよう手の中に隠すと、首を低く構えて眉間に深い皺を寄せ、魔物どもが震え上がる恐ろしい唸り声を上げた。
「その炎のサークルより内側に侵入したものは漏れなく焼き尽くしてくれる。……もっとも、近づいてこなくとも同じ運命ではあるが」
カイルらしからぬ物騒な脅しの言葉を投げかける。
わずかに開いた赤竜の巨大な口腔からは、高温のあまり白く輝く炎がちらちらと揺れているが、カイルが炎をその顎から吐き出すことはなかった。
前面に抱いている主人が熱いかもしれないと危惧したからだ。
そもそも炎など吐かずとも、赤竜が灼熱に輝く瞳で魔力を込め睨み据えただけで、ワイバーンは内側から瞬時に焼き尽くされ、苦しむ間もなくたちまち黒く燃え尽きた。
文字通り灰となって風に煽られ、地面に焼け焦げた痕跡だけを残し、一匹、また一匹と消え去っていく。
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空と地上とでなぎ払われ、ワイバーンたちは次々と数を減らしていたが、それと同じ数だけ空から紙片は降り注ぐ。
現場に到着したルークと騎士たちは、炎に沈む広場と、雷に打たれて残骸となっている魔物たちの死骸を見た
。
「竜人たちの邪魔をしてはならない! われらは逃げ遅れた人々の救出と、竜たちが打ちもらして広場を出た魔物どもをやる。5人1組になれ、決して散らばるな! 竜人たちの攻撃の巻き添えを食らいたくなかったら絶対に広場の中央部には入るなよ!」
命じて駆け出したルークを、アルファは上空から確認する。
予想以上に将としての資質があるようだ、と、内心感心していたが、のんびりしている余裕はない。
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シリウスはカイルの腕の中で、自分の守護者たちが打ち倒している魔物たちを凝視していた。
おぞましい見た目、おぞましい叫び声、よだれをまきちらしながら人々を襲う。
「魔物」という生き物を産まれて初めてみたシリウスは、他の生物と根本的に違うありように困惑していた。
それまでは、どんな生き物、どんな物質を見ても、それが何でできていて、どうすれば壊したり創ったりできるのか、考えなくともすぐにわかったのに「魔物」はまったく異質のものでできているようで理解できない。
以前、悪漢どもの武器を崩壊させたことがあったシリウスは、もしかしたら魔物も同じように倒せるかもと思っていたのだが、残念ながらそれはできないようだ。
だがカイルの腕に守られているシリウスは恐怖を感じてなかった。
それよりもこの場所、東西広場そのものに、なにか違和感を感じていた。
魔物たちと同じように、本当ならこの場にないはずの異質なものの気配がする。
紙片が舞い落ち続ける上空を見上げる。
まだ薄紫の空に浮かぶ存在感の薄い青白い三日月。
「――あれは……」
アメジスト色の目を細め、青ざめた月を見る。
「アルファ!」
「はっ」
すかさず上空から返事を返してくる黒竜に、シリウスは叫んだ。
「良く見て、あの月、本当の月じゃない!」
その声に、カイルもアルファも同時に月を見上げた。
空に浮かぶ月は限りなく細く青白い。
まるで夕闇の空にできた引っかき傷のようだった。
「ほら、影の部分、後ろに雲が流れてる」
月などではなくほかの何かだ。
「カイル、我が君をお守りしていろ!」
アルファはそう叫ぶなり長大な体をぐるりと回転させると、風を切り空に向かってまっすぐに飛びだした。
凝視すれば確かにシリウスの言う通り、やけにくっきりと見える青白い三日月は本物の月ではない。
しかし空に生じた傷のようなものは、まさしく「空の傷」であり、近づこうにも距離感がまるでなかった。
それでもなんとか食らい付こうと巨大な顎で捕らえてみたが、空気に食いついているのと同じ手ごたえしかない。
その「空の傷」から、手のひらほどの黒い紙片が、一枚、また一枚と、あふれるように生じてひらひら落ちて行く。
「なんだこれは……」
生まれたばかりの紙片をすかさず切り裂いて、アルファが青白い隙間を覗き込もうとしたとき、
「アルファ! だめだ! 離れて!」
地上から主人の叫びが届き、反射的に身を翻す。
同時に三日月形の物体が青く強烈な光を放った。
「……!」
完全には避けきれず、光線を浴びたアルファの黒鋼色の角の先がわずかに欠けた。
ダイヤモンドよりも硬く、いままで誰にも決して傷つけることのできなかった角が、わずかではあるが鋭利な断面を残して消失している。
シリウスの声がなかったら頭部ごともっていかれていたかもしれない。
「アルファ!」
シリウスは叫び、カイルの腕の中から身を乗り出す。
「カイル! ぼくもあそこにいく!」
「いけません、危険です!」
「お願い、カイル!」
主の必死に懇願に、カイルは己の不出来を呪った。
本当に主人のためを思うなら、懇願に答えるべきではない。
けれど、どうしても、魂を引き絞るように願う主人を押しとどめられない。
カイルはルビーの鱗をきらめかせ首をもたげると、己の周囲にひときわ大きな青白いサークルを生んだ。
近づこうとしていた魔物どもが焼け焦げ悲鳴を上げる。
カイルの鱗が青い炎に照らされ幻想的に輝いた。
「アルファ、恨むぞ……!」
主人にこれほど心配されているアルファが憎らしく、主人の願いを叶えようとしている己が憎い。
炎の熱をはらんだ翼を広げ、カイルはアルファを追って空へと向かった。
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アルファは空に生じている「傷」から距離を置き、小さく呪文を詠唱する。
どのような魔法も詠唱など必要のないアルファだったが、いま使おうとしている呪文は詠唱なしでは使えない特殊な呪文であった。
本来なら交じり合わない属性の闇と雷とをむりやり掛け合わせ、アルファ自身で作り出した彼にしか仕えぬ力任せの強引な魔法だ。
黒い火花が生じ「空の傷」の正面でバチバチと音を立てる。
はじめ小さかった火花は一瞬で上空を根のように広がり、ねじれながら融合して、たちまち太くまぶしい稲妻に変じた。
生まれたばかりの闇色に輝く稲妻は、すさまじい轟音と共に偽物の月に襲い掛かる。
衝撃波で広場の広葉樹が葉を吹き飛ばされ、大地が揺れ建物が震えた。
雷の轟きが発する衝撃波は、偽物の月だけではなく、空に残っていた黒い紙片にも襲い掛かり、すべてを粉々に吹き飛ばした。
千切れた紙片は地に落ちる前にアルファが発している闇色のいかづちに吸収され、塵も残さず消滅していく。
それでも付近の建物の窓が割れなかったのは、黒竜が魔法の範囲を可能な限り最小限に絞っていたからだ。
「すごい……」
見ていた人々が世界の終わりを予感するような壮絶な光景であったが「月」は変わらずそこにある。
アルファは唸った。
物理攻撃も、攻撃魔法も、さらには吸収魔法も効果がない。
「アルファ!」
そこへシリウスと共にカイルが到着し、空に生じている傷を間近に見た。
「我が君をお連れしたまま、あまりアレに近づくなカイル。あれは本当に空間に生じている「傷」だ。攻撃はきかぬ。ふさぐより他に道はない」
「ふさぐ……、でもどうやって……」
カイルは炎の色の瞳で「傷」を睨み、口の中で小さく呪文を詠唱した。
炎の輪が生じ「傷」を取り囲んで締め付ける。
高温のあまり白く光る炎がゴウゴウと音を立てながら大蛇のごとく渦を巻いたが、炎が消えたとき、やはり青白い月はそこに残っていた。
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ルークはすすだらけになっている頬をぬぐい、地上から二頭の竜を見上げた。
地上に降り立っていた魔物はほとんど打ち倒されている。
二頭の竜が、魔物に変じる黒い紙片をすべて空中で切り裂いてくれているおかげで地上はかなり楽になった。
「消火作業を進めろ! 怪我人の誘導を……!」
カイルと共に弟の姿を見た気がしたが、あの赤竜がこんな危険な場所にシリウスをつれてくるはずがないと己に言い聞かせ、自分のやるべきことを進めて行く。




