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第1話:白銀の令嬢と、栗色のプロローグ


カーンーーカーン


その日、私シーリン・ブラウン伯爵令嬢と、グレイスタード・ファンナステッド第一王子は、皆に祝福されながら結婚式をあげた。


悪役令嬢のデール・ホワイトは、シーリンを酷くいじめた事や、悪事にも手を染めていたため断罪され、爵位を奪われ他国に追放された。


〈完〉




「………なんで、どのルートでもデール様が幸せにならないのよーっ!」


私、高槻しおりは乙女ゲームが大好きな大学生。

画面の中では、今日も私の最推しである悪役令嬢、デール様が涙を流して国外へ追放されていた。


許せない。本当に許せない。


別のルートならまだしも、この『純愛ルート』のデール様と王子は、幼い頃からちゃんとお互いを想い合っていたのだ。デール様がツンツンしているのは、王子への不器用な愛の裏返し。王子だってそれを分かって微笑ましく見守っていたはずなのに……!


なのに、あのヒロイン「シーリン」が学園に現れた途端、王子は手のひらを返したようにデール様を冷遇し、最後にはありもしない罪を被せて国から追い出した。


「王子、あんたの目は節穴か!? 幼馴染の10年の愛が、出会って数ヶ月のポッと出の女に負けるわけないでしょ! 絶対に何かおかしな力が働いてるわ。……あーあ、私がシーリンだったら、速攻で王子をフってデール様と結びつけてあげるのに!」


激しい怒りと推しへの尊さで胸を掻きむしりながら、私はそのまま泥のように眠りについた。



――それが、すべての始まりだった。



次に目を覚ました時、私は見知らぬ豪華な天蓋付きベッドの上にいた。


鏡の中に映っていたのは、私が世界で一番大嫌いな、あの子鹿のように潤んだ茶色の瞳と、栗色の柔らかな髪を持つ美少女――シーリン・ブラウンの姿だった。


「……えっ?」

自分の頬を引っ張ってみる。痛い。


どうしてもデール様を幸せにするルートを探したいと、1週間徹夜して全ルートを検証し、そのまま大学に行って……という限界生活を送っていたはずなのに。


「もしかして私……死んだの……?」


過労死。

その3文字が頭をよぎる。いくらなんでも推しへの執着が強すぎて命を落とすなんて、前代未聞のオタクの末路だ。


若くして人生を終えてしまったかもしれない事実に、ガチで落ち込んだ――のも、本当に、ほんの一瞬の間だった。


鏡に映るシーリン(自分)の顔をもう一度見つめる。


世間一般には『可憐な癒やし系美少女』かもしれないが、私にとってはデール様の高貴な白銀を曇らせる諸悪の根源だ。しかし、いまその肉体を動かしているのは、高槻しおり、20歳。


その瞬間、私の脳内に、世界を揺るがすような天才的結論が舞い降りた。


「……待って。私がシーリンってことは……私が王子を全力でフれば、デール様は婚約破棄されずに救われるんじゃない!?」


そうだ。私さえ王子に近づかなければ、あのクズ王子の浮気は消え失せる。


よっしゃ、神様ありがとう! 私がこの手で、デール様を世界一幸せな悪役令嬢にして差し上げますわ!


こうして、私の命がけの「デール様お守り隊」としての異世界生活が幕を開けた。


ちなみに、最初は混乱していたものの、元々のシーリンの記憶も残っていたため、ありがたいことに淑女のマナーは染み付いていた。


そうして迎えた、ロイヤル学園の高等部の入学式当日。


「わあー!デ…デール様……! 本物、本物のデール様がそこにいらっしゃる……っ!」


新入生で埋め尽くされた大講堂。私は列の後方で、口元をハンカチで押さえながら静かに男泣きしていた。


視線の先にいるのは、我が最推し、デール・ホワイト公爵令嬢。


眩いばかりの白銀の髪に、神秘的な白銀の瞳。凛とした背筋。ゲーム画面の100倍美しいその神々しいお姿は、もはや拝むだけで健康寿命が延びるレベルの聖域サンクチュアリだった。


ああ、今すぐ駆け寄ってその美しい靴裏に額を擦り付けたい……!


「……いやダメよしおり、落ち着きなさい。今の私は大嫌いなヒロイン・シーリンなのよ。デール様に近づけば、それだけで極悪非道な『いじめフラグ』が立ってしまうわ!」


デール様が私をいじめるということは、デール様の美しい手を汚させ、最終的に王子から断罪される未来へ一歩近づくことを意味する。それは絶対に阻止せねばならない。



さらに、もう一つの大問題。


新入生総代として壇上に立つ、グレーの髪と瞳を持つ男――第一王子グレイスタード。


あいつだ。あのクズだ。のちにデール様との10年の愛をゴミ箱に捨てて私に乗り換える、全ルート共通の諸悪の根源!


(頼むからこっちを見るな……! 私の茶髪なんて、視界の端のゴミか泥だと思ってスルーして頂戴……!)


壇上から響く王子の挨拶を聴きながら、私は前の生徒の背中に完全に身を隠した。

気配を消す。私は石。私はただの背景のレンガ。

王子の視線が新入生席に向けられるたび、私はダチョウのように首をすくめて、全力で王子の「目線の先」からフェードアウトする努力を重ねた。


「ふぅ……。なんとか見つからずに済んだわね……」


式が終わり、生徒たちが移動を始める。


私はデール様の白銀の後ろ姿を目に焼き付けつつ、王子とエンカウントしないよう、壁際を伝ってコソコソと教室へ向かおうとした。


――しかし。


「――おい、そこの君」


後ろからかけられた、低く気品のある声。

恐る恐る振り返ると、そこにはグレーの瞳を怪しく輝かせ、なぜかまっすぐに私を見つめているグレイスタード王子の姿があった。


「え……?」


「入学式の最中、妙な動きをしていたね。前の生徒の影に隠れて、私から逃げようとしていただろう?」


嘘でしょ。あんなに完璧に隠れていたのに、なんで見つかってるのよ!?


これが乙女ゲームのヒロインが持つ、呪われた引き寄せ体質(強制イベント)ってやつなの――!?


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